第123話 ヒューマンアーミー
カードがオープンされると、いくつもの白い鳩が現れ、一斉に飛び立つ。その中から出てきたのはワンピースドレスを着た長い黒髪の少女。
「[廃墟の歌姫ディーヴァ]。オープン条件はシェルターをした状態でダメージを受けること」
「うっわ」
えげつない発動条件に思わずアミが呻く。この条件はかなり厳しい。シェルターをしてダメージを受けるということはシェルター値分のアーミーを無駄遣いするようなものだ。序盤ならまだいいが、クリティカルが出たら終わり、のような場面で開くにはかなり勇気のいるカードである。
千裕という少年、カードの扱いだけでなく、胆力も凄まじい。
「歌姫の歌は尋常ならざるものにも影響を与える。相手のフィールドに出ているヒューマンアーミー以外のアーミーを強制ダウン、次のアップシーンではアップできないようにする」
カード効果もえげつない。せっかくパワーを整えたのに、ぱっちも放浪者も攻撃ができなくなる。なるほど、強制ダウンとアップ不能を付与すれば、首の皮一枚でもそのターンを乗り切れるというわけである。
ダウンチャームに送るわけではなく、ただの行動阻害であるため、黒属性の特性が発動することはない。しかも黒属性は人外揃い。このディーヴァとの相性は最悪だ。
「でも、このカード効果、タイラントの人間史上主義みたいで嫌ね」
「だからディーヴァは罪人なんだよ。階級も低いし、今がタイラントなだけで、アイゼリヤの歴史の中でタイラントみたいな人は他にもたくさんいたんじゃないかな」
ブレイヴハーツはどうやらアイゼリヤに実在するか、実在した人物を起用しているのではないか、と考えられる。アミの[天使の長たる者アンナ]もそうだ。
人間以外を差別するという文化がいつからあるかはわからないが、少なくとも、タイラントだけが考えたわけではないだろう。
「くっ……ターンエンドだ」
ぱっちで決めるつもりだったのだろう。クロハは呻きつつ、千裕にターンを渡した。
「ターンアップ、ドロー」
千裕の動きに全員が集中する。
クロハの巻き返しも凄まじいものだったが、誰もが知っている。
この白い少年が世界最強と呼べるほどのブレイヴハーツテイカーであることを。
「ディーヴァのマニュアルアビリティ。相手のダウンしているアーミーの数だけ、山札の上から公開する」
クロハのフィールドでダウンしているアーミーは六枚である。というわけで、千裕の山札から六枚が公開される。
「その中からヒューマンアーミー以外のアーミーを好きなだけアドベントできる」
えげつなさすぎて、もはや声も出ない。千裕のデッキは様々な種類のアーミーが混合されている。そのため、ヒューマン以外のアーミーもたくさんいるのだ。場合によっては一気に全面展開できる。
千裕は四枚を選び、サイドとバックアップにアドベント。バックアップのディーヴァはダウンチャームへ。残る二枚は山札の下へ。
そして、唯一空いているサイドのサークルに、あるアーミーをアドベントする。
「[七色心響ユメ=アルーカ]をアドベント」
一同が絶句する。
出てきたユメ=アルーカは黒い猫耳の女の子。見覚えがあった。しかも、ユメ=アルーカの猫耳の下、人間なら、耳に相当する部分には、ヘッドフォンがついている。──そう、ユメ=アルーカは獣人ではなく、ヒューマンアーミーだった。
それに。
「……結芽?」
ユメ=アルーカは黒猫獣人のアルーカに似ているだけでなく、昴の妹の結芽にも似ていた。
それがどれほどの衝撃かは、筆舌に尽くしがたい。アルーカに会ったときはそんなこと感じなかったのに、どうして今、こんなにも妹に似て見えるのか。
それはユメ=アルーカが、猫耳つきのヘッドフォンを外したからだ。
「クロハ」
千裕が魔王に呼び掛ける。クロハが千裕を見ると、千裕は静かな闘志を瞳の中で燃やしていた。
「このターンで、僕は君に二ダメージ与える」
「できるものなら、やってみろ」
クロハの手札は厚い。その上、ぱっちのサクリファイスがある。この強力なシェルターを超えるのは、至難の業のはずだ。
だが、千裕はなんでもないように、バックアップのパワーを加えて、ユメ=アルーカで攻撃する。
クロハは当然ぱっちの能力を使おうとするが……
「ユメ=アルーカのアビリティ。このアーミーの攻撃はヒューマンアーミーでしか防げない」
「なっ」
ぱっちはゴースト、当然サクリファイスも使えなくなる。
「まずは一ダメージ」
他の属性なら、ヒューマンアーミーはいただろう。だが、黒属性にヒューマンアーミーは存在しない。クロハには打つ手がなかった。
「ダメージコマンドチェック、っ、ブランク」
「次、Knightの攻撃」
「ぱっちのサクリファイス!」
ヒューマンアーミーでシェルターしなければならないのはユメ=アルーカのみである。ぱっちの温存ができるのなら、センターの攻撃をシェルターするのが一番効率がいい。
けれど、クロハは生きた心地がしなかった。予感がしたのだ。ここまでコマンドが控えめだった千裕が、こんな大一番で、引かないわけがない。
ブレイヴコマンドチェックで引かれたカードは……
「[廃墟の歌姫ディーヴァ]、リプレイコマンドだ。効果の全てをユメ=アルーカに」
詰んでしまった。ユメ=アルーカの攻撃を防ぐ術がクロハにはない。
「さあ、夢を終わらせよう。ユメ=アルーカ」
「アン、シェルター……」
五ダメージ目。無慈悲な攻撃が決まる。
「ダメージコマンドチェック……クリティカルコマンドか……」
この場面、ヒーリング以外のコマンドは無意味である。
呆然とし、はっと我に返り、アミが宣告する。
「ブレイヴハーツ交流戦、千裕vsクロハ、勝者、千裕!」
「ラヴァン」
千裕の囁きに導かれて、ステージに風が集った。




