第122話 リバースバックアップ
オープンされたカードは姿を現すより先に、土の中に潜り、千裕のフィールドまでやってくる。土から出てきた巨大な左腕がKnightを掴み上げた。
「[行方不明の左腕]、オープン条件は三ダメージ目を受けること。何者だったかもわからない左腕は魔力を吸い、肥大化し、ひとりでに動くようになった。自らの本来の持ち主を探して彷徨いながら、人から命を吸っていく。アビリティにより、Knightに一ダメージ与える」
「くっ」
コマンドチェックは当然あるが、ブランクである。ここでコマンドが出たとしても、リプレイコマンドくらいしか攻撃に繋げられるコマンドはない。
「強制ダメージ能力!」
「滅茶苦茶で悪役っぽい能力来たわね。さすが魔王といったところかしら」
「しかもあれは最初のターンから仕掛けていたリバースバックアップだ。千裕の猛攻やコマンドの引きを考えると、一ターンで三ダメージは普通にある話だからな」
最初のターンに攻めなかったのは結果いい判断だったかもしれない、が、それは結果論だ。
それに、これでもダメージは三対二。依然、千裕がリードしている。
「リバースバックアップ、オープン」
クロハは左腕の隣にあったバックアップをオープンする。
「[隻腕の放浪者]。このカードのオープン条件も三ダメージ目を受けたとき。こちらはサイドを破壊する。さあ、堕ちろ、ウォシェ!」
「リバースバックアップ、オープン」
ウォシェに伸びてきた手をがきん、と防ぐ大盾。それを構えるのはいたいけさの残る少女だ。
「[聖盾の守護者イオ]、ウォシェを守れ!」
盾が放浪者の手を弾き、ウォシェが守られ、代わりにイオが消え去る。イオの盾は一度きりだ。
さすがに最後の一枚は開かないが、それはそれで不気味さが漂う。
「ターンエンド」
千裕が苦しげに宣言する。イオが残らない分、新たにカードをセットできる、と言えば聞こえはいいが、それは直後が自分のターンだった場合だ。
得体の知れない不気味さを孕んで、クロハにターンが回る。
「ターンアップ、ドロー。Hellにエボルブ」
「ここでまたエボルブ?」
「利点はあるよ。Hellは地獄の門番とパワーが変わらないし、エボルブすることで、カードがダウンチャームに送られる」
「フィールドの効果でドロー?」
「ううん」
「ベリアルクロウはアビリティでアブソープションに戻る」
しかもパワーアップのおまけ付きだ。しかも先程オープンされたバックアップたちはイオと違い、そのままアドベントされている。展開するのはサイドだけでいい。
「[黄泉帰りの老爺]と[おばけのぱっち]をアドベント」
なかなかいい布陣だ。[黄泉帰りの老爺]は貴重なパワー系アーミーであり、味方のパワーアップもできるといった感じで汎用性の高いアーミーである。
「老爺で攻撃」
「アンシェルター」
ダメージはブランク。三対三。ダメージが並ぶ。千裕にはリバースバックアップが一枚あるが、発動条件は引っかからないらしい。
「Hellの攻撃。左腕のバックアップ付きだ」
Hellはパワー6000。そこにアブソープションのパワー3000が上乗せされ、ベリアルクロウのアビリティで更にプラス3000。左腕は奴隷アーミーであるため、バックアップパワーは3000と低い。
が。
「[隻腕の放浪者]のピンポイントアビリティ。探し求めていた腕がそこにあるとき、自身と左腕のパワーをプラス5000する」
なんとなく、カード名で察してはいたが、やはりこの左腕は放浪者の左腕らしい。もう形が変わりすぎて元に戻ることはできないようだが、それでも元々は一つだった者同士、補い合うことはできるということだろう。
Hellのパワーが上がったこともさることながら、次のぱっちの攻撃も放浪者のバックアップがつくため、パワーは充分千裕のKnightに届く。
千裕のダメージは三。アンシェルターをするとクリティカルコマンドが出たときにヒーリングコマンド頼みになってしまう。
千裕のKnightは12000、クロハのHellは20000パワーである。
「……ウォシェと[孤狼]でシェルター」
「え、正気!?」
アミが思わず突っ込む。ウォシェも孤狼もシェルター値は5000。つまり合計で10000シェルターだ。22000のKnightはコマンドを出されてしまったら、攻撃が通ってしまう。コマンドを警戒してのシェルターだとしたら、あまりにも無意味なのだ。
リバースバックアップにしたのかもしれないが、千裕の手札には少なくとも最初のターンのコマンドで出たシェルター10000のディーヴァがいるはずである。そちらでシェルターした方がいいはずだ。
「いや、千裕に考えがあるのかもしれない」
昴は千裕を見る。
千裕の表情は静かだ。焦っている様子は見られない。元々、こんな凡ミスは犯さない。何か考えがある、と昴は確信していた。
クロハのブレイヴコマンドチェック。
「ドローコマンド。センターにパワー、一枚ドロー」
「ああっ」
攻撃が通ってしまう。クリティカルでなかったとはいえ、首の皮一枚まで千裕は追い込まれる。ダメージコマンドはブランク。
けれど、千裕の目が揺らぐことはなかった。
「リバースバックアップ、オープン」




