第121話 おどろおどろしく
「[地獄の門番Hell]にエボルブ」
「エボルブするのか」
純冷が驚くのに対し、昴とアミは表情を険しくする。
「驚くべきはここからだよ」
アブソープションのシステムがあるため、ほとんどのテイカーがエボルブをしないことから、エボルブすること自体が珍しくなっているが、黒属性の真価が発揮されるのはここからだ。
通常、エボルブしたら、エボルブ前のセンターとアブソープションのアーミーはダウンチャームに行く。そこでダウンチャームに行かず、シェルター要因としてチャームゾーンに残れるのが純冷の使う青属性の特徴だが、黒属性は、ダウンチャームに行くことで、その特性を発揮する。
「コールアビリティ。Hellは手札以外の場所からからダウンチャームに移動したとき、手札に帰る。更にコールアビリティ。ベリアルクロウはアブソープションからダウンチャームに送られたとき、センターのアブソープションとして舞い戻る。更にこのターン中、センターにパワーを3000付与することができる
更にフィールド[死者たちの巣窟]のアビリティで二枚ドロー」
ダウンチャームからの蘇り。誰もが息を飲んだ。
人々を世界ごと殺す魔王が、蘇りのデッキを使うなんて。おかしいということはないが、自ずとある結論に辿り着く。
魔王は死神だ。世界を滅ぼす存在。滅ぼした世界も命も、決して帰らないことを誰よりもよく知っている。
普通なら、蘇りのデッキなんて、一笑に伏せてしまうような人物なのだ。それなのに彼がそのデッキを手にしているのは、切なる願いだからだ。
どんなに届かなくても、蘇らせたい人物がいる。魔王にも、そんな心があるのだ。
「[おばけのぱっち]をアドベント。リバースバックアップを二枚セット。Hellで攻撃」
「アンシェルター」
黒属性のコールアビリティは不気味だが、他の属性と比べると、全体的なパワーが低めなのが特徴だ。センターの攻撃もアブソープションがあるから通るようなものだ。
「ブレイヴコマンドチェック。ブランクだ」
「ダメージコマンドチェック。こっちもブランク」
「ターンエンド」
あっという間にクロハのターンが終わる。
「パワー不足が問題だな」
「いや、全然問題ないよ。怖いくらい問題ない」
「え」
昴と頷くアミに純冷はきょとんとする。ダメージは二対一。明らかにクロハの方が劣勢だ。
「ターンアップ、ドロー。……」
「千裕が迷っている?」
強者の特徴として、あまり長考しないというのがある。カードゲームはルールを把握していれば、展開くらいならほとんど悩むことがない。何か考えるとしても、相手のターン中に組み立てができる。昴や純冷はもちろん、アミもそうだ。千裕がそれをできないわけがない。
これは余談だが、スムーズにターンを進めることによって、相手の思考する時間を短縮することができる。思考時間が短ければ短いほど、組み立てに綻びが生じやすくなる。まあ、強者にはそんな姑息な手は通用しないが。
「コールアビリティの警戒と、サイドのぱっちのことを考えているんでしょうね」
[おばけのぱっち]にはサクリファイスという攻撃無効化能力がある。一度きりだが、使用したらぱっちは当然、ダウンチャームに送られる。ダウンチャームに送られる、ということは、復活の可能性があることを意味するのだ。黒属性なら。
それに、目障りなリバースバックアップも安直に破壊できない。破壊されたカードは当然、ダウンチャームに行く。オープン条件がなくとも、ダウンチャームに行くだけで、黒属性はその真価を発揮する。しかも、黒のカードがダウンチャームに行けば、フィールドの効果で一枚ドローできる。ドローすれば、シェルターアーミーが増えるのだ。自ターンでの展開もしやすくなるだろう。なんとも攻めにくい属性なのだ、黒属性とは。
「俺も戦ったことあるけど、あのときはコマンドに助けられた感じだよ。何をどうしても、クロハの思い通りって感じかな」
「もちろん、リバースバックアップが牽制の可能性もあるけど……だからこそ、千裕は迷うでしょうね」
選択肢は無数にある。どの道を行っても罠に嵌まるのなら、どの罠にら嵌まってもどうにかなるか。その選択が難しいのである。
リバースバックアップは裏向きに置かれており、オープンするまで何のカードかわからない。わからないから、危険か安全かもわからない。
「……[剣牙狼ウォシェ]をアドベント。リバースバックアップを二枚セット」
ウォシェは鎖使いのウォシェと同様、志願兵アーミーでありながら、スライドシェルターが使えて、且つ前列だとパワーアップができる汎用性の高いアーミーだ。堅実な構えと言えるだろう。
相手を罠に嵌めることに関してなら、白属性の方が上手である。
「ウォシェの攻撃」
「ぱっちのサクリファイス」
ウォシェの攻撃は通らない。が、ぱっちのサクリファイスが消費されたことで、手札以外のシェルターはない。
「Knight、死神を討て」
「アンシェルター」
「!?」
クロハの不敵な笑みと共に放たれた防御なし発言に誰もがぞわりと鳥肌を立てる。
嵌まってはいけない術中に嵌まったような確信が、全員の中に存在した。
千裕のコマンドはブランク。クロハのコマンドもブランク。
三対一。千裕優勢。
だが。
「リバースバックアップ、オープン」
それは始まった。




