第120話 黒の王の決意表明
「魔王!?」
誰もがその言葉に驚き、ざわついた。アイゼリヤの人間にとって、かつてアイゼリヤを滅ぼそうとした魔王にいい印象はないだろう。その上、[白の王]が死んだとされているのは魔王とブレイヴハーツで対戦したからだ。
快い目を向けられないことをクロハ……魔王は承知の上だった。けれど、魔王は目を逸らすことなく、威風堂々として壇上から客席を眺めた。
「いかにも。オレが魔王だ。人間のクロハという者の体を借りている」
ブレイヴハーツというゲームはこのアイゼリヤを舞台にしてあるが、魔王がヘレナを拐って世界を滅ぼそうとした真相を知る者はそう多くない。故に、観客たちの目には魔王を名乗る人物は恐怖の対象か憎むべき相手にしか見えないはずだ。
それでも、魔王は喋り続けた。
「[白の王]は人種差別思想から人々を救おうと邁進してきた。……このオレにさえ、手を差し伸べた、異様な優しさと勇気を持つ人間だ。オレはこの手で、それを……………………殺してしまったことを、後悔している。正直、あいつを手にかけてしまってから、アイテムなしで正気を保てた試しがない。
オマエたちにとって、オレは[白の王]を奪った憎むべき存在なのだろう。だが、オレもまた、あいつの復活を願っている。あいつが笑う世界を、あいつが生きる未来を」
魔王はマントを翻し、ばっとデッキを取り出した。
「取り戻す」
短い一言だが、決意に満ちていた。
魔王の演説に会場がしん、となる。現実が受け止めきれていないのもあるだろう。誰も魔王という存在は知っていても、魔王がどんな姿をしているかは知らないのだから。
先程まで一緒になって演奏していた人間が、突然魔王だと言って、信じるかどうかも怪しい。
観客は戸惑っているようだった。
「我がデッキは黒属性。ブレイヴハーツというカードゲームに存在する五つの属性のうちの一つだ。このデッキに懸けて、[白の王]の復活を願う」
「そんなゲストと戦うのは、千裕!」
リュートと凄まじい戦いを見せた千裕にスポットが当たったことにより、観客から歓声が上がる。魔王の黒属性は人間にとっては未知の属性だ。だが、それに立ち向かうのが、ブレイヴハーツウォーズをしていたら知らぬものはいないであろう不敗の猛者なら、期待も高まるというものだろう。
千裕はすたすたと魔王と向き合い。無表情で魔王を見つめ返した。
「俺の存在に賭けて、お前には負けない」
「ふっ……スタンバイ」
魔王、クロハの声を合図に、二人の前にテーブルがせりあがってくる。
二人はデッキをセットし、視線を交わした。言葉は少ないながらも、熱意に満ちているのが伝わってくる。
「ブレイヴハーツ交流戦、魔王クロハvs千裕、開始!」
「Brave Hearts,Ready?」
「「GO!!」」
会場にぱあっと光が広がる。ステージには死神と騎士が相対していた。
「[Hell]」
「[Knight]」
アミは巻き込まれないように、ステージから逃げた。そのフィールドは魔王のありあまる魔力に反応しているのか、引きずり込まれるような感覚がしたのだ。
放送席には昴と純冷がスタンバっており、アミのために真ん中の席を空けていた。
「実況、解説はあたし、ブレイカーアミと、昴、純冷でお届けするわ!」
「始まる前に、黒属性について説明しておこうか」
「そういえば、私も目にするのは初めてだな。おどろおどろしい感じのアーミーのようだが」
いくら世界を放浪していたと言えど、純冷でも黒属性は見たことがあるまい。
理由は単純だ。
「[黒属性]のカードは[黒の街ホシェフ]に住む魔物たちだけが使用するデッキなんだ。ホシェフは一種の異世界みたいなもので、そこからアイゼリヤ本土に介入するには、黒属性のテイカーは一人しか出られないんだって」
クロハは実質、アイゼリヤたった一人の黒のテイカーということになる。
「まあ、百聞は一見に如かずだよ。クロハのターンからだ。特性はすぐにわかるよ」
クロハのドローから始まる。
「フィールド[死者たちの巣窟]をセット。[墓場の番人ベリアルクロウをアブソープション」
黒いローブの死神がついっと手を伸ばすと、そこに黒羽を散らしながら、カラスが飛んできて留まった。
「リバースバックアップを一枚セットし、ターンエンド」
千裕がクロハのリバースバックアップに目元を険しくする。
昴がそれについて、補足した。
「千裕、リバースバックアップを警戒してるね。まあ、黒のリバースバックアップって、他の属性よりかなり厄介だからね」
「常勝不敗の千裕が顔をしかめるほどにか?」
純冷の疑問に、昴がしっかりと頷く。客席もごくりと固唾を飲むほどに緊張感が高まった。
「ドロー。[時止まりの古城]をセット。バトルシーン、KnightでHellを攻撃」
「えっ、サイドもバックアップも呼ばないの!?」
アミが思わずといった感じで叫ぶ。
相変わらず、千裕のプレイスタイルは異様だ。サイドやバックアップどころか、アブソープションすらない。まるで、一人で戦っているみたいに。
「アンシェルター」
「ブレイヴコマンドチェック、[囚われの姫君ディーヴァ]、クリティカルコマンドだ」
アミがマイクをぐっと引き寄せる。
「[時止まりの古城]のピンポイントアビリティが発動するわ!」
ピンポイントアビリティ。かなり限られた条件下でしか発動しないアビリティの総称だ。使いこなせなければ、死にスキルとなる。
「いや」
昴が険しい表情をする。
「ディーヴァが出たことにより発動はできるけど、発動するためにチャームに入れるための仲間がいない」
そう、[時止まりの古城]は名前に[ディーヴァ]が含まれているカードが出たとき、場に出ているヒューマンアーミーをチャームに入れることで、チャームに入れたアーミーのパワーをプラスするというもの。
千裕はサイドもバックアップもいない。アビリティが死ぬこととなる。
「つ、ついてないわね……」
その一言でアミは片付けてしまうが、昴は顎に手を当て、考える。
ついてない、の一言で済ませていいものだろうか。[時止まりの古城]は千裕が最もよく使うフィールドだ。ピンポイントアビリティとはいえ、カードの能力を忘れるなどという凡ミスをあの千裕がするだろうか。
それでも、クロハがシェルターをしていないため、攻撃は通り、クロハに2ダメージが入る。
千裕はそこでターンエンド。
「ターンアップ、ドロー」
クロハのターンが始まる。




