第119話 アミのライブ
アミの新曲の疾走感に、会場の盛り上がりも割増である。目まぐるしいドラム捌きをしながら、ちらと入った観客席が、黄色のペンライトで溢れているのを見て、この世界にもペンライトが存在するんだ、と昴は少し斜めな感心をした。
けれど、それもほんの少しの間のこと。昴の担当するドラムパートは休みなく回り続ける。昴がなんとなく鍛えていた持久力がなければ簡単に人が潰れてしまうほどの激しいリズムの暴力が襲う。アミの歌唱力が凄まじいため、全力でやらないと歌に負ける。
汗が散る。目に入って痛い。パーカーを脱いでしまいたい。手は練習で刻み込まれたリズムを刻みながら、じんじんと痛んでいく。アミというプロの歌唱に持っていかれないように曲を支えるのが昴に課された役割だった。
もう手の感覚がない。練習のときより遥かに伸びやかで声の通るアミに釣られて、ドラム回しが激しくなり、油断すればスティックを取り落としてしまいそうだ。けれど、そんな油断ならない中で、昴は強い高揚を覚えていた。
あの[Ami]と同じステージに立っている。ブレイヴハーツの熱狂的なファンである昴にとって、この上ないモチベーションである。
それに昴の担当はドラムというよりパーカッションだ。ウインドベルの他にもドラムが落ち着けば、Cメロに合わせて鈴を鳴らさなければならない。
鈴からドラムへの切り替えはコンマ数秒しかない。昴のドラムテクが光るところだ。それを昴はとても楽しそうにこなす。手の形が固まるほど、握ってきたスティックの一本を横にし、タムを二連する。すかさず足のバスドラム。鈴ともう一つのスティックを持ち替え、くるりと回す。一瞬一瞬のパフォーマンス、ステージの奥で、誰に見られていなくたって、昴はこのステージでエンターテイメントをしていた。
シャーン、と響くクラッシュシンバル、その奥で静かに刻まれるスネア。クレッシェンド。Cメロからラスサビへ、盛り上げていく縁の下の力持ち。その役割を細やかに鮮やかに、昴がこなす。
「風の連なりよ、吹き抜けて
彼方へ飛び立て!」
ドラムソロが長くカットインする。その数秒だけ、昴は主役にならなければならなかった。
観客が息を飲む。汗を散らすほどに激しいドラム回しを続けていた少年は、満天の笑顔だった。
アミと純冷のブレスが重なり、最大限まで高まったボルテージの中、会場を満たした。
「Brave Hearts and take off,
この空の下
切り裂いて、引き裂いて、ぶつかって
信じて!
Brave Hearts and take off
覚悟はいいか?
もう一度、この手に」
「ワンモアコール、プレイナウ!」
「Brave Hearts and take off,
まだ飛び立てる
蹴飛ばされ、貶されて、踏まれても
折れない!
Brave Hearts and take off,
覚悟はいいよ
さあ、もう一度、彼の地へ!」
「飛んで」
「風に乗って」
「会いにいくよ」
「君に」
「届け」
「風の導き」
しゃん、とクラッシュシンバルの残り香の中からそっと、キーボードソロが入る。疾風がそよ風へと凪いで、曲の印象を鮮烈に残しつつ、余韻を感じさせた。
刹那の沈黙、それからわあっと客席から歓声が上がり、ペンライトがぶんぶん振られる。
アミが水を飲み、タオルで汗を拭いてから、改めてマイクを手に取る。
「みんなー、盛り上がってるかしら?」
うおおおおおお、と怒号のような歓声が空気を震わせる。新曲御披露目は大成功のようだ。
ちなみに、アイゼリヤにはCDも存在する。CDというよりはCDによく似た魔法道具だが。ボックスにセットして、魔力を流すと録音された音声が流れる代物らしい。魔力のない昴たちには扱えないアイテムだが、アミはCDを売ることできちんとお金を得ていたらしい。事務所からの天引きがないため、元の世界より儲かると言っていた。
ということで、もちろんこの新曲もCDが発売される。昴が言うのもなんだが、かなりいい出来なので、是非観客の皆さんにはお手に取っていただきたいところだ。
「会場もかなり沸いてきたところで、もう一つのメインイベント、ゲストを招いたブレイヴハーツ交流戦を始めるわよ!」
うおおおおおお、と再び客席が盛り上がる。ブレイヴハーツも楽しみにしていたのだろう。普通は自分で戦って痛い目を見るより、観戦という安全圏の方が好まれるものだ。
けれど、前座の四戦がかなり白熱したため、自然とこれから始まるカードバトルへの期待も高まっていく。昴が想像していた通り、アイゼリヤの住民はブレイヴハーツを楽しんでもいるのだ。
アミが紅潮したままの顔で、ゲストを紹介する。スポットライトが当たったのは、黒のパーカーに黒のマントを羽織るクロハだ。
「聞いて驚きなさい! ベースギター担当のクロハは異世界から来たテイカーであると同時、かつてアイゼリヤを脅かし、[白の王]を倒した[黒の王]──魔王よ!」




