第114話 勇気で登壇
「荒々しい破壊と破壊のぶつかり合い、熱戦を制したのは──ブレイカーアミ!」
純冷が宣言すると、会場がわっと沸く。
アミがハンナからマイクを受け取り、バイゼルに歩み寄る。すっと手を差し出した。
「ありがとう。いいゲームだったわ」
バイゼルとアミが固く握手をする。そこにブーイングは起きなかった。
あれだけの熱戦を自分には再現できるか? あれだけ芯を持ってデッキ構築の研鑽を積めるか? それを考えたら、答えは否だったのだろう。
もうバイゼルが弱いと言われることはない。それは有名人であるアミと戦い抜いたからではない。弱いままでいることに甘んじず、高みを目指したバイゼル自身の努力の結果だ。
「素晴らしいブレイヴハーツテイカーに拍手を!」
アミの声に応じて、拍手の音が嵐のように大きくなる。バイゼルは誇らしげにそれを受け止め、ステージから降りていった。
最初のブーイングの嵐では、どうなることかと思ったが、ゲーム中に野次を飛ばさなかった辺り、やはりアイゼリヤの住人はブレイヴハーツというカードゲームが好きらしい。その事実に昴は微笑む。
そして、もう我慢ならなくなって、マイクをひっつかんで立ち上がる。
「誰かぁーーーーーー! 俺とブレイヴハーツする人ぉーーーーーー!」
「声がでかいわね、このブレイヴハーツ馬鹿」
マイクがきーん、と鳴り、アミは耳を塞いでいた。昴がアミに振り向き、だってぇ、という。
「あんなすごいゲームばっかり見せられてさ、やりたくならない方がおかしいじゃん?」
「まあ、あんたは放送席で実況するだけでは絶対に終われない男よね……我こそは、という方、いるかしら?」
アミの声に会場の人々がざわざわとする。昴はきょとんとしているが、会場がざわつくのは無理もなかった。昴はタウンショップで有名になった上に、アミのライブに出演、黄の街オールでは情報屋サバーニャを倒すなど、ブレイヴハーツで様々なことを成し遂げており、有名なのだ。
しかも、昴には望みがないという噂は広まっており、願いを叶えるためのブレイヴハーツウォーズの中では異端とされていた。悪い意味ではないが、ブレイヴハーツに対する旺盛さがアイゼリヤの人々にとっては奇妙に思えたようだ。
目的のために頑張るのではない。目的はないけれど過程を楽しむような……目的地のない旅を楽しむような昴の気風が珍しかった。
「誰かいない? あー、赤属性見飽きた?」
昴がしょぼんとする。そんなことは誰も思っていないが、VS千裕やVSアミにおいて、対戦相手は赤属性であった。バイゼルの解説していた通り、黄属性の使い手が多いが、赤属性の使い手もたくさんいるのである。
「スバルーーーーーー!」
そこでかわいい子どものような声がした。声はわたわたとしていて、あ、ごめんなさい通して、ああっ踏まないで蹴らないで、通ります通ります通りますよー、と忙しない。
声の主がわたわたと騒ぐのは仕方ないことだった。その人物はドワーフ。ドワーフは通常、頑強な体を持つが、背はあまり高くない。ドワーフにしては華奢なその人物は人間の子どもくらいのなりで、うんまんと渦巻く人の群れの中を、これはまた随分と遠くからステージに向かって駆けてきたようだ。仕方あるまい。ドワーフたちは会場の隅の方にいて、その集団の中にその人物はいたのだろうから。
「わわ、ポックル、大丈夫?」
昴が自分の名を呼んだ人物を助けるため、客席に降りた。そのドワーフは昴よりも背が小さい。昴に手助けされて尚、何もないところで転んだりするお茶目なおっちょこちょい。
それはタウンショップ常連の一人、ポックルだった。昴がタウンショップで初めて対戦した相手でもある。
待てよ、と昴は記憶を辿った。昴がアイゼリヤに来て、初めて対戦したのは純冷だが、純冷は昴と同じ、異世界から召喚されたテイカーだった。その後、裕弥に会ったが、裕弥とは戦わず、タウンショップで初めて対戦したのがポックルだ。
もしかして、ポックルは昴がアイゼリヤに来てから初めて対戦したアイゼリヤの人物なのでは……?
「スバル、久しぶり!」
「うん、久しぶり! 元気だった?」
「うん。えとね、えとね、新しいデッキ、試してみたいんだ。だから、スバルとね、戦いたい!」
「やった! やろうやろう!」
昴がポックルの手を取り、くるくると踊り出す。ポックルも既に楽しそうだ。
アミは呆れ半分、呆気にとられていた。昴はコミュニケーション能力が凄まじい。
ポックルが千裕に気づく。
「ユーヤ、だよね? さっきのリュートとの戦い、見てるだけですっごくどきどきしちゃったよ! またタウンショップに来てよ! ぼくもユーヤと戦えるくらい、強くなるから」
千裕は裕弥と呼ばれることに抵抗を感じているようだが、ポックルの言葉には素直に頷いた。
タウンショップ。昴のアイゼリヤのブレイヴハーツを巡る旅は赤の街エシュのカードショップから始まった。そこから色々なことがあり、タウンショップで戦った日々が遠い日のことに思えるが、タウンショップでのことを忘れたことはなかった。
ポックルは引っ込み思案で、あがり症だ。けれど、そんなポックルが、こんな大舞台まで、昴と対戦するために駆けつけてくれた。そのことがとても嬉しい。
しかも、新しいデッキを試す相手に選んでくれた。これ以上のわくわくがあるだろうか。
「ドワーフの方、お名前と属性を教えて」
「ぼくはポックル。青属性のテイカーだよ」
スタンバイ、と唱えると、背の低いポックルに合わせて、テーブルが低くなる。ポックルがそこにデッキをセットすると、アミがゲーム開始を宣告した。
「赤属性昴VS青属性ポックルの対戦カード、始め!」
「Brave Hearts,Ready?」
「「Go!!」」




