第112話 破壊と秩序
「かっこいいじゃない」
バイゼルの宣言に、アミは笑みを閃かせる。
以前会ったバイゼルはブレイヴハーツに勝つことにだけ執着して、芯がなかった。けれど、あれから何かあったのか、堂々として、立派な志まで持つようになった。
そんなバイゼルをアミは素直にかっこいいと思った。信念のために戦える人間はかっこよくて好きだ。見違えたわ、と呟く。
「でも、あたしは簡単に負けないわよ」
そう、アミのターンは始まったばかりである。
「手札から[エンジェルナイトホーエン]をアドベント! ホーエンのマニュアルアビリティで手札を一枚ダウンチャームへ。んでもって、バイゼル、あんたの手札も一枚破壊よ!」
「ふん」
バイゼルが手札の一枚を破棄する。アーミーカードであるため、フィールドの効果で一枚ドロー。プラマイゼロだ。
が、ホーエンのアビリティはここからである。
「破壊に成功したから二枚ドロー、ホーエンはパワープラス5000を得る」
手札を増やし、パワーアップを得ることで、パワー不足を補填する。更に手札のバランスを整えることもできる。
黄属性は破壊の特性が強いが、アミのデッキは破壊により、秩序をもたらす天使のデッキなのである。
「ゾフィエルの攻撃! ゾフィエルはターン一回目の攻撃のとき、パワープラス5000し、アップする!」
速き翼を持つゾフィエルは連続攻撃が可能な貴重なアーミーである。正規兵であるため、素のパワーも高い。
「なるほど、二回目はパワーアップがないから、バックアップを使わない攻撃のようですね」
「再攻撃確実ならバックアップがいた方がいいもんね。
実はアミの使っている[光の加護]って扱いが難しいんだよ」
放送席の昴の言葉に黒羽が耳を傾ける。
「そうなのか? チューンシーン開始時の破壊アビリティ、破壊成功に伴うアドベント能力はかなり強力だと思うが」
「それだよそれ。破壊成功に伴うアドベント能力は、『アドベントできる』って表記だけど、強制アドベント。アミは天使積んでるから、十中八九アドベント能力が発動する。つまり、そのとき出てきたアーミーでそのターンの攻勢を組み立てなきゃならないんだ」
そう、[光の加護]の能力は強力だが、いつも都合のいいカードばかりが来るわけではない。今回のように、奴隷アーミーが多く出て、パワー不足になることもある。それでもカードの能力である以上、アドベントしなければならない。
「しかもマニュアルアビリティじゃなくてオートアビリティだから、毎ターン別なアーミーで組み立て直さなきゃいけない」
まあ、だからこそアミは同じカードを積む偏ったデッキ構成にしているのだろう。同じカードを積むと、戦略がワンパターンになってしまうが、毎ターン入れ替わるカードたちを使いこなす方が難しい。どんなカードが出るか選べない運要素の強いアビリティと組み合わせるなら、カードを積むのも一つの戦術だ。
だが、同じ名前のカードはデッキに四枚までしか入れられないことに変わりはない。どんなカードであれ、全く同じアビリティではない。やはり臨機応変な対応は求められるのだ。
「まあ、カードゲームって手札に何のカードが来るかは結局運だから、臨機応変は当たり前ではあるんだけど、アミはそれがそのゲームごと、ではなくて、毎ターンなんだよね。すごいなあ」
作詞作曲ができることと言い、アミは才能に溢れた人物なのだろう。
バイゼルに1ダメージが入る。
「アザゼルのバックアップを受け、ゾフィエル、再攻撃!」
「[炎霊ほむら]でシェルター」
「今のは何故受けなかったんだ?」
「素直に受けたらバイゼルはこのターンで4ダメージ受けてリーチがかかるからだよ」
だが、と黒羽が首を傾げる。
「アザゼルのバックアップでパワーは先程の攻撃と変わらない」
「うーん、そこは1ダメージ目だからっていうのもあるけど、コマンド狙いかな。あと、バックアップの警戒じゃない?」
そう、アミには一枚リバースバックアップがある。そのカードが何をきっかけに開くかはわからない。
「黄属性は破壊特性が強いけど、リバースバックアップは他の属性と大体同じで、カウンター狙いがある。それに、フィールドが破壊できなくても、他に破壊できるものはあるからね」
バイゼルのフィールドにはフィールドカードとセンターがいるのみ。フィールドはこのターン中破壊不可となっている。一見、破壊するものはないように見えるが……
「黄属性の破壊は何もフィールド上に展開されているカードだけじゃない。アミはもう活路を見出だしているな」
千裕がくつ、と喉の奥で笑う。昴も、うん、と頷いた。
「センターの攻撃!」
「アンシェルター」
「ブレイヴコマンドチェック。クリティカル!」
「ぐっ」
バイゼルは2ダメージを受けることとなる。
「ダメージコマンド……一枚目」
ブランク。
「二枚目……[炎霊ほむら]」
ヒーリングコマンドである。センターにパワーが加算され、1ダメージ回復する。
あら、とアミは笑った。心構えが変わったからか、バイゼルの引きが以前より良くなっているような気がする。
「そう来なくちゃね。ルシフェルのバックアップを受け、ホーエンが行く!」
「[竜騎士見習いアクス]でシェルター。アクスのアビリティ、リバースバックアップを破壊に指定」
おお、と放送席から歓声が上がる。
リバースバックアップのオープン条件で一番多いのは破壊に指定されたときだ。これをわざわざ踏みに行くとは、胆力のいることである。
「リバースバックアップ、オープン」
案の定、開いた。
「[嘲笑う者ラグエル]オープンアビリティ発動。場の自身を含めた奴隷アーミーを全て破壊することで、相手の山札から五枚を破壊」
「っ」
五枚破壊され、五枚全部がアーミーカードであるため、五枚ドローするバイゼル。
「……そう来たか」
「破壊と破壊のぶつかり合いだと思ってたけど、あんたが背負うフィールドという爆弾をあたしはいくらでも弾いてあげる。むしろ、あたしにとっては好都合だわ」
アミはターンエンドしたというのに、バイゼルには焦りが浮かんでいた。
その原因は山札にある。明らかにアミのそれよりも低い、バイゼルの山札。
長引かせると苦しむことになるのはバイゼルだ。デッキは五十枚と決まっている。そんな中、相手の破壊アビリティや自身のドローアビリティが重なっていったらどうなるだろうか?
山札がなくなる。
それはダメージ5になる以外の唯一の敗北方法だった。




