第109話 淡い雨
「ターンアップ、ドロー」
「先のターンで思わぬカウンターを食らったものの、ダメージは3に抑えた純冷! ターン開始です」
アミの進行に、純冷は苦々しい思いを噛みしめていた。
先のターンは1ダメージを受けるだけに留めたが、おそらく、次のターンは抑えきれない。純冷も手札は十全にしているが、チャームチャージガードがなくなったのと、アブソープションが飛ばされたことは大きい。
それに、リオルの戦術であるチャームループコーリングとチャームチャージガードの合わせ技は読みにくい。純冷のものより貯められたチャームがどちらに使われるかによって、純冷の状況は厳しくなる。
それに……リオルはフィールドをセットしていない。それがなんだか異様に感じられた。
それは放送席の昴も同じだったようだ。
「フィールドなしでここまで優位に展開を進めるリオルさん、すごいよね」
「そうなのか?」
「うん。普通は純冷みたいにフィールドの補助を受けて手札や盤面を回すものだよ。千裕はよくフィールド効果によってのパワーアップとかしてるからわかるよね」
「ああ。フィールドをセットする前提で展開の仕方を考えるし、何を軸にするかもどんなフィールドを入れるかで決めるからな」
千裕でわかりやすいところだと鎖使いシリーズの補助にあたる[CHAIN ROAD]だろうか。昴も[炎竜の咆哮]や[荒れ果てた荒野]などに助けられている。
ターンに出せるカードの枚数が三枚までと限られている以上、その枚数制限の例外となるアビリティによるアドベントが必要になるが、アビリティ発動には当然条件があり、発動はできても条件にそぐわないとアドベントできない、なんてこともある。
そんな不完全燃焼のアビリティを補助してくれるのがフィールドだ。もちろん、フィールドを設置しなくとも、ブレイヴハーツはできる。だが、あるとないとでは展開のしやすさが違うのだ。
「以前会ったとき、リオルさんはブレイヴハーツをしている様子がなかったんだけど、独特な戦い方をする強いテイカーなんだね。カードの能力とか見ていると、まるでフィールドがないことを前提としているかのような編成だし」
「フィールドを設置しないことに利点はあるのか?」
黒羽の疑問はもっともだ。昴がうーん、と悩んで一つの結論を出す。
「利点っていうか……フィールドをアビリティで設置することってあんまりないから、ターン中に出せるカードの枚数が増えることかな。あ、あと、フィールドには他の色んなアビリティはあるけど、破壊されたときにカウンターする、みたいな能力はないから、破壊系デッキを相手にするときはフィールドない方が戦術が崩れなくていいかも。フィールドってデッキに三枚までしか入れられないし」
フィールドの有無でそのデッキの攻撃性が案外変わったりするのかもしれない。
「[Snowly]をアブソープション」
「す、純冷が狂った!?」
純冷の行動に、一同が慌てふためく。それもそうだろう。今アブソープションしたSnowlyは奴隷アーミー。奴隷アーミーもアブソープション能力を持つが、奴隷アーミーをアブソープションした場合、階級は上がらない。志願兵であるセンターのRainyはこれまで志願兵をアブソープションすることで正規兵の扱いとなっていた。大抵のテイカーがそういう目的でアブソープションをして、正規兵アーミーをアドベントできるようにするのだ。
だが、奴隷アーミーをアブソープションした場合、志願兵のセンターは志願兵のまま。先程アブソープションを破壊されたときと同じく、正規兵アーミーをアドベントできなくなる。攻守共に、だ。
故に、純冷の奇行に一同は驚くのだが、冷静に黒羽が告げる。
「奴隷アーミーを普通はアブソープションしないだけで、アブソープションすること自体に利点はある」
「ま、まあ、パワーアップするもんね」
「それだけじゃない。忘れたか? 奴隷アーミーは階級が低くパワーもない。守りの捨て駒であるかのようにシェルター値は高いが……それだけが奴隷アーミーの全てじゃない。
それによく見ろ。スミレのフィールドに展開されているカードたちの名前を」
Rainy、Snowly、Sunny、Cloudy、Thunder。この五つには共通点がある。
「Snowlyのピンポイントアビリティ発動! このアビリティはSnowlyの他に天候の名前を持つフェアリーアーミーが四体以上いること、それらのアーミーの名前が全て別々であることを条件に発動する、Snowlyのアブソープションアビリティ。場にいる全てのアーミーのパワープラス5000、クリティカルプラス1!」
ここにきて、パワーアップとクリティカル上昇が同時にくるのは強い。……そう、これが奴隷アーミーの強さ。
奴隷アーミーは階級もパワーも低い分、鋭い爪を隠し持っている。それは時に一枚で戦況を引っくり返せるほどの。
「バトルシーン、Cloudyで攻撃! アビリティで、手札から一枚をチャームに送り、パワープラス5000」
「アンシェルター」
クリティカルがプラスされているので、リオルに2ダメージが入る。形成が逆転した。
「ドローコマンドゲット。パワーをセンターに。一枚ドロー」
ただしここでドローコマンドが一枚入ったことにより、リオルの手札が増え、センターのパワーも上がる。
だが、それくらいでは止まらない。Thunderのバックアップを受けたRainyの攻撃はアビリティによるパワーアップも含めて34000である。しかもクリティカル2のおまけつきだ。ダメージにリーチのかかったリオルはシェルターするしかない。
リオルのセンター[守り人の番犬]の現在のパワーは14000。25000以上のシェルターが求められる。
「[書庫の守り人の飼い猫]のチャームチャージガード。シェルタープラス5000。チャームチャージガードでチャームから出てきたとき、猫は敵と断じたものを引っ掻く。Rainyのパワーマイナス5000」
これで実質15000シェルター。あと10000シェルターが必要だ。
そこでリオルの手札を見る。リオルの手札は八枚ある。シェルターサークルへ出す分には枚数制限がない。
「[門の守り人]をシェルターへ。[門の守り人]のアビリティ。[守り人の友人]をアップ。アップしたアーミーをダウンすることで、そのアーミーのパワーをセンターに付与する」
黒い亀のような巨大な生物が現れると、[守り人の友人]が[守り人の番犬]へパワーを注ぎ、くたりと眠る。[守り人の友人]のパワーは9000。そのパワーをセンターに付与する強力なアビリティ。[門の守り人]はリプレイコマンドでシェルター10000を持つアーミーだ。これでシェルターを含めた数値が48000。これはコマンドが出ても通らない。
「ブレイヴコマンドチェック、クリティカルコマンドゲット! 効果は全てSunnyへ!」
あと一回、攻撃を通せれば、と思うのだが、先程の攻撃で削れた手札はなんとたったの一枚。まだ七枚もの壁がある。
Sunnyのパワーは現在19000。クリティカルは3。[守り人の番犬]のパワーは[門の守り人]の効果で9000アップしており、23000。この時点で届かない上、七枚の手札とサイド二体のスライドシェルターがある。
……諦めてなるものか!!
「Sunnyのピンポイントアビリティ!! 天候の名前を持つアーミーが揃っていて、尚且つ他アーミーがアップしていないとき、手札から場にあるカードと同名のカードをダウンチャームに送ることで、ダウンチャームに送った枚数一枚につき、パワープラス5000!」
純冷は手札を公開し、捨てていく。純冷の手札は七枚、最大で35000のパワーアップが期待できる。
一枚目[Thunder]クリティカルコマンド。
二枚目[Snowly]リプレイコマンド。
三枚目[Sunny]
四枚目[Cloudy]
五枚目[Snowly]リプレイコマンド。
六枚目[Sunny]
七枚目は捨てられず、合計30000のパワーアップ。49000。
「チェーンピンポイントアビリティ! Thunder! 天候名アーミーの攻撃時ピンポイントアビリティが発動したとき、この能力が連鎖する。攻撃しているアーミー以外の全ての自陣のアーミーを破壊することで、攻撃しているアーミーに破壊したアーミーたちのパワーを付与する。Thunder、Cloudy、Snowlyを破壊!」
奴隷アーミーの底力である。Thunderの5000、Snowlyの3000、Cloudyの9000がプラスされ、合計66000である。
手札も他アーミーも消費する捨て身の攻撃。23000の[守り人の番犬]は45000のシェルターを出さなければシェルターできない。
チャームチャージガードアーミーはいない。となるとあとは手札だ。
「[門の守り人]、[守り人の友人]、[霊界の守り人]、[守り人の課題IVY]に加え、[守り人の友人]と[篝火の守り人]のスライドシェルター!」
合計45000シェルター。シェルター成功である。
「[守り人の番犬]のアビリティで、[守り人の友人]と[篝火の守り人]はチャームへ移動」
「くっ……ターンエンド」
手札を四枚使わせ、サイドのスライドシェルターを両方使わせた。普通なら、これで次のターン、相手の攻撃の布陣は整わない。
だが、リオルの手札はまだある。
「ターンアップ、ドロー。[翼の守り人]のアビリティで山札からチャームへ。一枚ドロー。チャームの[霊界の守り人]のアビリティでチャームから[守り人の友人]、[篝火の守り人]をチャームループコーリング。バックアップを二体アドベントし、総攻撃!」
万全の盤面。純冷には手札一枚とSunnyのスライドシェルターしかない。
シェルターできず、5ダメージ目が入る。ヒーリングコマンドが出る、という都合のいいこともなかった。
「スミレ。俺は一度、アグリアル・タイラントに負けた上に、デッキを侮辱されて、取り上げられた。カードを盗んで、等価交換で、デッキをようやく取り戻したんだ。
けど、それで俺が強くなったわけではない。タイラントから隠れるように森に逃げた俺は、強いカード欲しさに盗みを繰り返した。でも、なんでだろうな。青の街マイムに近いのに、青属性のカードやデッキを持つやつはいなかったんだ。
お前のカードが青属性だってわかったとき、欲しいって思ったよ。お前は強い。目を見ればわかる。強くなろうとやり方を間違えた挙げ句、家族を失った……全部、俺の弱さが招いたことだ」
静かに告げて、リオルは唱える。
「カホール」
攻撃というには優しい雨が、純冷を濡らした。




