第108話 守り人の仲間たち
「ターンアップ、ドロー」
ダメージは2対2。リオルのターンが始まる。
「[翼の守り人]のアビリティ。山札の一番上を公開」
公開されたのは[霊界の守り人]というアーミーカードである。ほとんど人間の姿に妖精のような虫の羽があるため、フェアリーかと思いきや、エイの尾がついているキメラだ。妖精という神秘の存在が多い印象の青属性のカードとは思えないゲテモノ感がある。
同じ守り人シリーズを使う者でも、ナリシアとは方向性が随分違うようだ。
「……スミレ、といったか」
「なんだ、リオル」
ぎこちなく、二人が言葉を交わし始める。
「何故、俺をわざわざ指名した? 貴様が指名せずとも、貴様に問いかけを向けたい輩は会場にごまんといる。何故、わざわざ、俺なんだ」
リオルの顔は忌々しげで、苦しげで、悲しげだった。
リオルの素性は昴と純冷のみが知るところだ。エシュ近くの森に、リオルは妻と子と共に住んでいた。昴が出会ったとき、リオルはブレイヴハーツをしていなかった。親切に街へ案内するふりをして、カードを盗むという、まあ、おおっぴらには言えないことをしていた。
その背景にどんなものがあったのか、昴も純冷も知らない。知らないが、盗みは褒められることではない。実際に盗まれた純冷はリオルにカホールを浴びせ、ブレイヴハーツをする度胸もない腰抜け、とリオルを称していた。昴がそれを窘めたのも懐かしいようでいて、鮮烈な、この世界での最初の出来事だ。
昴も気になっていた。指名手配犯である純冷に聞きたいことがある人はリオルの言った通りごまんといる。それを条件にブレイヴハーツを持ちかければ、わざわざ純冷が指名しなくとも押した押したの大騒ぎになるはずだ。何故わざわざリオルを指名する必要があったのだろうか。
純冷は少し瞑目すると、口を開いた。
「お前の家族について、話を聞きたかったんだ」
リオルが目を見開いた。
リオルの家族は純冷が小屋を発見したときにはもう死んでいた。殺されていたのだ。それを純冷が荼毘に伏した。帰ってこない父親の代わりに。
それがこそ泥をやっていたのだから、純冷の口から罵詈雑言が放たれるのも当然だ。
「私はお前がブレイヴハーツから逃げた腰抜けだと思っていた。姑息なことをして、気に食わないやつだ。家族の死に目にも立ち会ってやらない。最低なやつだ、と決めつけていた」
「事実最低だろう」
「ああ。でも、窘められてな」
あ、と昴はブレイヴハーツをしたときのことを思い出した。
「確かに、あの人のやってることは許せないし、許されないことかもしれない。でもさ、純冷……もしかしたら、何か、理由があるんじゃないかな」
「理由?」
「俺たちはまだこの世界のことをよく知らないよ。なんでこんな森の中にぽつんと一軒だけ、獣人の家があるのかとか、亡くなった奥さんと子どもが、誰にどうして殺されたのか、とか……」
そもそも、あのライオンの獣人がやっていたことは倫理的に駄目でも、そうしないと生活できない理由があったのかもしれない。
そんな可能性を昴から提示され、純冷はあのあと、森に残ることを決めたのだ。
「冷静に考えてみたんだ。獣人たちを迫害から守った[白の王]がいなくなったアイゼリヤの世界で、全ての獣人が普通に過ごせているわけではない、ということに気づいた。[白の王]の働きかけのおかげで、異種族に対する偏見はこの世界にあまりない。とはいえ、完全になくなったわけではないし、アグリアル・タイラントが幅を利かせている地域もあった。
お前の容姿はライオンが二足歩行しているようなものだから、どんなに優しい顔をしているつもりでも、人間が勝手に怯えることもあるだろう。……お前の身に何があったのか知りたい。[白の王]が成しきれなかったことがあるのなら、それを知って、どうにかしたい。……それに、お前のデッキは強いから、何故ブレイヴハーツをしていなかったのかも知りたい」
純冷はブレイヴハーツというカードゲームで勝ち抜くために、様々な属性の様々なシリーズ、様々なカードについて情報を集めていた。だが、ナリシアの使う守り人シリーズについて知っていたのは、リオルの家族が暮らしていた小屋に、リオルのデッキの資料があったからだ。
息子がメモしたのであろう辿々しいながらにきらきらとした文字たち。それは父であるリオルが立派なブレイヴハーツテイカーであることを物語っていた。
だから純冷はリオルを招いたのだ。何故戦わないのか、疑問に思ったから。
『その話、ぼくたちも聞きたいな』
どこからか、青年の声がしたかと思うと、会場各所から見えるように表示されていたスクリーンにざざ、とノイズが入る。そこに映ったのは、アイゼリヤの住人なら誰もが知っているエルフの顔だ。
「ナリシア!」
アミがその名を呼ぶと、ナリシアはやあ、と爽やかに手を振った。ほらアリも、と急かされた少女のエルフも小さく手を振る。
アミがマイクを持った。
「今回のライブはナリシアの協力を得て、黒の街ホシェフにも放送しているわ」
『はーい、ホシェフからお送りしています。ナリシアでーす! セアラーデモライブ、盛り上がってるみたいだね』
「アリやホシェフのみんなも楽しんでくれてる?」
『わたくちたちはこの街から出ないことを条件にアイゼリヤにおりますゆえ、カードゲーム観戦は新鮮でたのちいです!』
「わあ、クリ坊! やっほー!」
昴ののりが軽いなー、と思いながら、アミが進行していく。
「[白の王]は[黒の王]とも親交が深かったと聞いているわ。獣人だけでなく、あらゆる種族を差別なく受け入れよう、というのが[白の王]の思想だった。そんな[白の王]を呼び戻すために、ホシェフの住人たちにも見守ってもらおうということになったの。快諾していただけて嬉しいわ。ありがとう。
さて、リオルの家族の話……もしかしたら、[白の王]の行き届かなかった何かがあるのかもしれない。あたしにはそのように感じられるけれど……」
「違う!!」
これまで静かだったリオルが吠えた。マイクを通さなくとも、会場中にその声が轟く。
「違う! あの人が至らなかったとか、そういうことじゃない。ただ俺が、私が、弱かっただけだ……ターンを続ける。[霊界の守り人]のアビリティ発動!」
[霊界の守り人]とは、先程チャームに入ったアーミーカードだ。
「[霊界の守り人]は霊界に漂う魂を操る。このアーミーがチャームゾーンにいるとき、チャームゾーンから他のアーミーをアドベントする。今一度ここへ! [守り人の友人]! チャームループコーリング!!」
チャームゾーンからアドベントする能力。[守り人の番犬]の能力と合わせれば、シェルターをしつつ、強力なカードを送り込んだり、手札消費を最小限にして盤面展開することができる。
「アドベントされた[守り人の友人]はパワープラス3000される」
[守り人の友人]はアビリティによるアドベントであるため、リオルはここからまだ三枚展開できる。
「[篝火の守り人]をアドベント、リバースバックアップを二枚セットし、バトルシーンへ。[守り人の友人]の攻撃」
「[ウンディーネ]でシェルター」
「センター!」
「アンシェルター」
「ブレイヴコマンドチェック、リプレイコマンドゲット! 効果は全て[守り人の友人]へ」
「ダメージコマンド……ブランクだ。ここでリバースバックアップオープン!」
[Thunder]、オープン条件はシェルターなしで3ダメージ目を受けること、だ。
「大いなる天よりの恵みと共にもたらされる災いは、崩壊をもたらす! [守り人の友人]とリバースバックアップ二枚、合計三枚を破壊に指定し、このアーミーはアドベントされる。[水霊の集い]のアビリティでドロー」
「リバースバックアップオープン、ダブル!」
破壊に指定された二枚のバックアップが開かれる。
「一枚目[守り人の雫RINDOU]! オープン時アビリティで、相手センターのパワーマイナス5000。このアーミーは破壊されず、アドベントされる」
体から花を生やした人の体に猫の手を持つキメラがRainyへと体の花の蔦を伸ばし、Rainyを蔦で締め上げた。Rainyがしゅわしゅわと縮んでいく。RINDOUは[篝火の守り人]の後方にアドベントされたため、バックアップが可能となる。
「二枚目[守り人の花壇IVY]! 蔦が壁となり、味方を守る。[守り人の友人]を守護し、守護された[守り人の友人]は破壊されない代わり、パワーマイナス5000。更にブレイヴポイントを一つ消費することで、IVYは相手のアブソープションを道連れにする」
「なっ」
IVYというのは蔦の壁だった。その壁についた炎。蔦が伸びて、純冷のイリュージョナルスターを捕らえる。これにより、Rainyがパワーダウンするだけでなく、階級もダウンし、シェルターに正規兵を呼べなくなった。かろうじてスライドシェルターはできるが。
何より、純冷にとってイリュージョナルスターの能力はチャームチャージガードのベースとなっているものだ。それを失ったのは手痛い。
「[守り人の友人]、再攻撃!」
[守り人の友人]はIVYの守護の代償にパワーダウンしている。だが、コマンドのパワーがあったため、帳消しとなっている上、Rainyはアブソープションを失い、パワーダウンしているため、攻撃は十分通る。
「[精霊の巫女アリシア]でシェルター」
「RINDOUのバックアップにより、[篝火の守り人]の攻撃!」
「イリュージョナルスター、チャームチャージガード!」
「ターンエンド」
ターンは純冷へと返っていく。




