第107話 まさかの再会
千裕が勝利を収めた第一戦。互いの手を知り尽くした者同士の心理戦要素があったため、会場は怒号と紛うくらいの大喝采に包まれる。
アミはそれに負けない張りのある声で司会を続けた。
「千裕、リュート、素晴らしいゲームをありがとう! おかげで会場のボルテージが三段飛ばしくらいで上がったわ。
でも、まだまだライブは始まったばかり。ブレイヴハーツ交流戦もこれからよ。さあ、我こそはという猛者はどなたかしら?」
アミの煽動に、会場がどよめく。誰もがたたらを踏んだ。そうだろう。千裕とリュートの戦いは素晴らしい、最高峰のものだった。たったの五ターンだったものの、映画を一本観たようなボリュームのある内容である。ここからこの盛り上がりを維持、しかも更に盛り立てるとなれば、ハードルの高さは測り知れない。
あんな素晴らしい戦いを自分はできるだろうか。会場をブーイングの嵐に包みたくない。ブーイングを起こすのが自分であるのは嫌だ、という思いが、観客たちにゲームを躊躇わせる。
そこで、純冷が立ち上がる。放送席にやってきた千裕とぱしん、とハイタッチをして、テーブルへと向かった。
指名手配犯が悠然とステージに立つのに、会場は別種のざわめきを起こす。そんな中、純冷は真顔でアミにマイクを貸すよう求めた。
アミがマイクを渡すと、純冷はすう、と小さく息を吸い、叫んだ。
「エシュ近くの森に住んでいたライオンの獣人! 来ているのはわかっている。私と戦え」
会場が純冷の言葉にしん、となり、直後、ライオンの獣人探しが始まる。だが、獣人の多い会場で、案外とライオンの獣人は目立たない。皆一様にもふもふしているからだ。
純冷の指名に名乗り出る様子もない。純冷ははあ、と溜め息を吐いた。
「生憎と私は目がいいんだ。会場西端の前から十三列目のお前」
純冷が指差した先に、スポットライトが当たる。そこには呆然とした様子のライオンの獣人が立っていた。雄々しい鬣とは裏腹に、焦り、慌て、逃げようとしている後ろ向きな様が見てとれた。が、もう逃げられない。
暗黙の了解、モーゼの十戒も驚くほどに、そのライオンの獣人からステージへの道が真っ直ぐに割れた。急かすようにその道をライトが照らしていく。
ライオンの獣人は息を飲んだが、意を決して一歩踏み出す。開き直ったように、堂々と壇上へ上がった。
「え、何……純冷の知り合い?」
「俺も会ったことあるよ、あの人。懐かしいなあ」
昴は多くを語らなかった。
ライオンの獣人は、昴がアルーカと戦ってから初めて出会ったアイゼリヤの人物だ。純冷と出会い、初めてアイゼリヤでブレイヴハーツをするきっかけになった人物とも言える。
彼が何をしていたのかは知っている。とても褒められることではない。が、それを糾弾するために純冷が呼んだようではないので、昴はそれ以上は語らない。
「久しぶりだな。リオル」
「……スミレ……」
リオルと呼ばれたライオンの獣人は、その厳つい顔を悲しみに染めたが、何かを言う代わりに、テーブルにデッキをセットする。
純冷からマイクを返されたアミが、疑問符を浮かべながらも明朗に繋ぐ。
「おおっと、まさかの純冷からの指名! どうやら二人は知り合いのようですが、どのような関係なのでしょうか。しかし、語るのなら、ブレイヴハーツで。その潔さがひしひしと伝わってくる佇まいです。
リオルのデッキは何属性でしょうか?」
「青属性だ」
「なんと! 純冷VSリオル、セアラーデモライブブレイヴハーツ交流戦二戦目を飾るのは、青属性同士の戦いだ!」
寡黙な二人の戦いの火蓋が切って落とされる。
「Brave Hearts,Ready?」
「「Go!!」」
純冷は青属性のフェアリーアーミー、[Rainy]。
対するリオルは青属性の動物と昆虫の要素が混ざったキメラアーミーの[守り人の番犬]だ。
「[守り人の番犬]……ということは、青属性でも防御力が高いとされる守り人シリーズということかしら。放送席どうぞ」
「始まりましたね、二戦目! 見所はずばり」
「手札管理とチャーム使いだな」
昴と千裕が仲よさげに会話する。何故か昴たちと黒羽の間には若干距離があった。
「こら、そこ、仲良くしなさい!」
「別に仲悪くないよ!」
「守り人シリーズはチャームチャージガード以外にも守りを高める能力が高いと聞く。だが、通常の守り人はエルフや神のはず。キメラはどちらかというと、白や黒の領分だが」
「流すなー!」
アミがわちゃわちゃと抵抗する中、純冷がターンを開始する。
「ドロー。フィールド[水霊の集い]をセット。[イリュージョナルスター]をアブソープション」
リバースバックアップを一枚セットし、ターンエンド。[水霊の集い]の効果により、[イリュージョナルスター]が現れたことで、純冷はワンドローしている。
リオルのターンだ。
「ドロー。[翼の守り人]をアブソープション」
既に虫のような羽が生えていたライオン頭に狼の胴を持つ守り人の番犬に鳥のような翼が生える。蛇の尾を鞭のようにしならせる姿は混沌としており、神々しい白い翼は一見異端なように感じられるが、翼から光が全身に伝わっていくと、不思議と馴染んだ。
最近は騎士や天使が並び立つ姿を多く見ていたので、昴の炎竜デッキと同じく、アーミー同士が融合、合体をする姿は新鮮だ。
「[翼の守り人]のアブソープションアビリティ発動。山札の一番上を公開。それがアーミーカードなら、チャームに置き、一枚ドロー」
公開されたカードは[書庫の守り人の飼い猫]というアーミーカードだ。猫の姿にコウモリの翼を持っているのが印象的な奴隷アーミー。どうやら、リオルのデッキはキメラが多いらしい。
キメラとは合成獣である。他種族を疎むエルフは嫌いそうなものだが……
黒羽が解説する。
「アイゼリヤのエルフが崇めるのは精霊王だ。精霊王のもたらした魔法の力が尊ばれるのと同じく、精霊王からもたらされたものならば、それだけで価値がある。精霊王は外郭が曖昧なものを組み合わせて形にするのが得意だ。それゆえに魔法も確立された。キメラも精霊王がもたらした。エルフにとっては精霊の一種、神秘なるものだ」
「ほえー、詳しいね。俺たちの世界ではキメラって禁忌みたいな扱いだよ。道徳に反するって」
「まあ、どんな世界も神様が一番だから、その世界の倫理も神様次第ってことじゃない?」
なんだろう。昴、千裕、黒羽は独特の男の子三人組となっている。特別仲良しというわけではないが、三位一体という雰囲気を醸し出している。
仲が悪いわけじゃないのね、とアミもゲームに集中する。
「[守り人の友人]をアドベント。リバースバックアップを一枚セットし、バトルシーンへ」
[守り人の友人]は人間の体を持つ豹の頭を持つキメラだ。蝶の羽を持つ。組み合わせが奇抜だが、神聖さを感じられる。
「[守り人の友人]でセンターを攻撃する」
「アンシェルターだ。コマンドチェック、ブランク」
「[守り人の友人]のアビリティ。攻撃がヒットしたとき、一枚ドロー」
[守り人の友人]のアビリティは攻撃時のパワーアップとヒット時のドロー。地味な能力だが、堅実な青属性らしい。ここで引いた一枚が後々効いてきたりするのだ。
「センターで攻撃」
「アンシェルター」
「ブレイヴコマンドチェック。ドローコマンドゲット」
リオルの手札が増える。純冷のコマンドはブランク、バックアップも開かない。
「ターンエンド」
「ターンアップ、ドロー」
先程の千裕VSリュートとは真逆の静かで淡々としたバトルが繰り広げられる。ただ、そこにブーイングはなく、観客は固唾を飲んで見守る。
「[イリュージョナルスター]をアブソープション。アブソープションしていたイリュージョナルスターは能力でチャームゾーンへ。[水霊の集い]の効果で一枚ドロー。[Sunny]をアドベント」
それは炎より柔らかな色をした光に体を包まれたフェアリーアーミーだ。名前と言い、Rainyと対のようである。
れっきとした青属性アーミーなので、フィールド効果で純冷は再びドロー。ドローしたカードをアドベントする。
「[Cloudy]をアドベント」
おおっと昴が目を輝かせる。
「あんまり英語綴りカードって見たことなかったけどやっぱりかっこいい~!」
名前の意味はただの天気なのだが。
「Cloudyの攻撃! Cloudyのアビリティで、手札から一枚をチャームに送ることで、パワープラス5000」
「アンシェルター」
手札を減らすのはカードゲームにおいてリスキーな行為だが、行き先がチャームゾーンなら、青属性にとってはむしろ有利にはたらく。しかも、純冷がチャームに送ったカードは[祈りのハレルヤ]だ。ハレルヤはコンボが繋がるカードが多い。
続いて、センターの攻撃。チャームゾーンにカードがあることで、Rainyはパワーアップしている。
「リバースバックアップオープン」
開かれたカードは[書庫の守り人の飼い猫]である。ドローコマンドを持つ猫のキメラだ。
「オープン条件は[相手のセンターがバックアップなしで攻撃してきたとき]だ。[書庫の守り人の飼い猫]は気紛れに守り人の代わりに書庫を管理する。オープンした飼い猫をチャームへ。チャームからシェルターサークルへチャームゾーンのカードを一枚移動する。[書庫の守り人の飼い猫]を選択。シェルターサークルに移動したカードのシェルター値をプラス5000。更にそのカードが[書庫の守り人の飼い猫]ならシェルター値プラス5000」
カウンターによるチャームチャージガードだ。
「このアビリティの恐ろしいところは、シェルター値のないカードにもシェルター5000を与えるところだね」
「そうなの?」
昴の疑問に千裕が答える。
「チャームゾーンの[カード]としか指定がない。チャームゾーンの[アーミー]じゃないんだ。ブレイヴハーツのデッキはほとんどがアーミーカードで構成されているけど、例外が三枚まで認められている」
「ええ!? つまりチャームゾーンに入っていれば、フィールドでもシェルターできるってこと!?」
「だが、あの飼い猫は奴隷アーミー。それくらい反則級の能力を秘めていても何らおかしくはない」
黒羽の言葉に昴が「奴隷アーミー怖」と呟く。
アビリティにより上乗せされたシェルターは合計で20000。コマンドが出ても通らない。純冷のリバースバックアップが開くわけでもない。
ただし。
「リプレイコマンドゲット。Cloudyをアップ、再攻撃!」
「アンシェルター」
リオルのダメージコマンドはブランク。
「Sunnyの攻撃!」
「[守り人の友人]、スライドシェルター」
純冷の攻撃はこれで終わる。が。
「[守り人の番犬]のアビリティで、[守り人の友人]はシェルターサークルからチャームゾーンへ」
見たことのない動きだ。番犬の中に[守り人の友人]は吸い込まれていく。その様子にどこか不気味さを覚えた。
「ターンエンドだ」




