第105話 読み合い
ブレイヴハーツのシステムにより、開かれたリバースメインアーミーがプレイヤーの後方に顕現する。
[竜騎士ハイカー]
[Knight]
リュートの後方には竜国の紋章が刻まれた鎧を纏い、マントを翻す槍を持った騎士。千裕の後方に現れたのは質素な装備の騎士。剣を持っている。
マイクを手にしたアミが実況を始める。
「リュート選手は赤属性、千裕は白属性と異なる属性であるものの、因縁のあるらしいこの二人のデッキは双方とも[騎士]をリバースメインとしている模様。ここで、放送席にお送りします。昴、純冷、黒羽の見解を聞いてみましょう」
アミが手で示した先には、いつの間にか長テーブルに並んで座る三人の姿が。同時に会場にはどの位置からでもゲーム展開、実況解説が見られるように映像が展開される。
まず口を開いたのは純冷だった。
「赤属性の中でも破壊特性が強いのが竜騎士シリーズだ。昴は同じ赤属性だが、どう思う?」
「俺はリュートと戦ったことがあるけど、竜騎士同士の連携によるクリティカル上昇能力もなかなか厄介なんだよね。その上、竜騎士シリーズは波状攻撃、つまりはリプレイ能力もある。クリティカル乗せの連続攻撃なんて強すぎるよ」
純冷は挑戦的な笑みを浮かべる。
「なるほど、確かにそれは強い。昴は千裕が劣勢と見るか?」
「いや」
昴は知っている。エシュのカードショップで、それまで無双をしていたリュートの性根をねじ曲がらせるほどに常勝不敗を誇っていた裕弥のことを。
そして、裕弥の使っていたノーマルの[Knight]を主軸とするデッキこそ、千裕の本来のデッキなのだ。
裕弥と千裕は二人総合で見ても、黒星を取ったのは魔王と対戦した一度のみである。
「それはまだまだこれから、全然わからないよ。千裕は今回鎖使いデッキではなく、ノーマルデッキを使っている。俺たちが見たことのない千裕の本気がまだ隠されているってことだ。わくわくするね」
昴のコメントに、黒羽が口を出す。
「まだ白のテイカーは本気を一度も出さずして、常勝不敗を誇っていたということか。末恐ろしいな」
「となると、リュートの方が劣勢になるのか?」
「いいや、ゲームはまだ始まったばかり。リバースメインをオープンしただけだからね。リュートもテイカーの一人だ。裕弥に勝ち逃げされたままだと思っているリュートがあれからデッキを強化していないはずがないよ。デッキを進化させているのは、俺たちだけじゃないんだ」
それに、と昴は付け加える。
「今回は千裕の先攻、リュートの後攻で始まっている。後攻の方が赤属性は本領を発揮しやすい」
そんな昴のコメントに、リュートがわかってるじゃねえか、と口角を吊り上げる。
というわけで、まずは千裕のターンである。
「ドロー。エボルブを飛ばしてチューンシーン。フィールド[時動かしの古城]をセット」
千裕の後方に大きな時計のある貫禄に溢れた城がずずず、と現れる。その他にリバースバックアップをセットすると、[時動かしの古城]のアビリティが発動する。
「この古城は盤面が動いたとき、その力を発揮する。リバースバックアップをセットしたとき、一枚ドロー。更にリバースバックアップを一枚セット。ドロー。ターンエンド」
アミがぐっとマイクを握る手に力を込める。
「なんと、エボルブもアブソープションもせずに盤面を展開する千裕! しかもフィールドの効果により、千裕の手札はほとんど減っていません」
放送席も盛り上がっている。
「後攻の方が赤属性は有利って話したけど、先攻で有利なのは白属性の特徴だよね。あの二枚のリバースバックアップは準備万端って証だよ」
「白属性の十八番はカウンターと行動阻害だからな。攻撃をしなくていい先攻で準備を整えられるのは利点だ」
「あのリバースバックアップは攻撃を待ち受けるトラップというわけだ」
「フィールドもね。千裕がノーマルデッキでいつも使っているのは[時止まりの古城]、だけど今回は[時動かしの古城]だ。どんなアビリティが眠っているのか、わくわくしちゃうね」
リュートにターンが回る。
「ドロー。[竜騎士ラゼル]をアブソープション」
ハイカーの隣に並び立つ、同じ紋様の入った鎧を着込む騎士。挨拶のように互いの槍の穂先をかん、と合わせる。
昴がかっこいい、と目を輝かせるのをよそに、リュートはターンを進めていく。
「フィールド[団結の剣]をセット! [竜騎士アルフ]をアドベント。アルフのアビリティで、その忌々しいリバースバックアップを破壊させてもらうぜ」
「リバースバックアップ、オープン」
千裕の宣告に、リュートが驚くことはない。リュートにとっては予定調和だ。
例えば、破壊に指定されたカードではなく、その隣にあったカードが開いていたとしても。
「[夢見うさぎメメ]のオープン条件は隣のカードが破壊されたとき」
「けっ、そんなこったろうと思ったぜ」
破壊系デッキを使うアミは思わずうわあ、と声をこぼす。
リバースバックアップのオープン条件は様々あるが、その中でも多いのは[破壊に指定されたとき]である。そうと見せかけて、[隣のカードが破壊されたとき]をオープン条件に持つカードを合わせてくるとは、実に嫌らしい戦法だ。
しかも、メメの階級は奴隷。ろくでもないアビリティが待っている。
そのアビリティを千裕は朗々と謳い上げる。
「メメは夢見る寝坊助うさぎ。隣に座ったあなたまでをも抱き枕にして、眠りに誘う。メメのオープン時アビリティ。相手のセンターを強制ダウン!」
「ええ!? そんなのあり!?」
アミの声が全ての者の代弁となる。そんな中、メメから放たれた不思議な雲に包まれたハイカーとラゼルは眠ってしまう。
メメはそのままアドベントされた。
「よかったの? リバースバックアップを破壊したら、またリバースバックアップがセットできちゃうよ」
「てめえと何戦したと思ってんだよ。早く終わらす、リバースバックアップの発動回数を減らす、とんとんだろうが。それにリバースバックアップが破壊できたから、アルフはパワーアップする。お前に一ダメージを与えるには十分だぜ」
なんと、リュートは千裕の動きを読みきっていた。その上で破壊ができたら、パワーも得られるアルフのアドベントなのである。
「バトルシーン、アルフの攻撃だ」
「ふふ、受けてあげる」
対する千裕は余裕の笑み。アルフの曲刀がKnightを切りつける。千裕に一ダメージ。
「ドローコマンドゲット。一枚ドロー、パワーをKnightに」
「けっ、運のいいやつ。ターンエンドだ」
再びターンは千裕に回る。
「千裕がとんでもないことをやってのけましたが、放送席の見解はどうでしょう?」
アミからの問いに答えたのは昴だった。
「たぶん千裕に対しての対応、リュートのが最良手だと思うよ。ダウンチャームに行ったのもメメだったから、どっち選んでも同じだったと思う。ちゃんと破壊を視野に入れて、パワーアップタイプのアーミーを出して、攻撃に繋げた。やっぱり裕弥と戦い慣れてるだけあるよ」
どちらを選んでも、というわけだ。それに、リュートはリバースバックアップの発動回数を減らすのでとんとん、と言っていた。メメが一枚しか発動できないことを読んでいるのだ。
それに、デッキに同名のアーミーは四枚までしか入れられない。既に四枚中二枚が出たメメが展開される確率はぐっと低くなる。
「ドロー。[機を待つ蒼穹アズハ]をアドベント」
上空から、天使が飛来する。Knightの隣に降り立つなり、翼で全身を覆い隠し、動かなくなってしまった。
アズハは階級が志願兵でありながら、10000を超える高パワーの持ち主。そんなアタッカーとして便利なアーミーだが、当然、制限がある。
「アズハのキープアビリティ。このアーミーはアタックできないという[縛め]を持つ。そして、[縛めを解く]!」
メメをダウンチャームへ送り、リバースバックアップが二枚セットされる。これがアズハの[縛め]を解除する方法だ。アーミーを一体ダウンチャームへ送り、リバースバックアップを二枚セットすることで、アズハの翼がばさりと開かれ、赤紫の髪が露になる。紫色の瞳がきっと敵を見据えた。
「アーミーの[縛め]解除と同時に布陣を整えて、フィールドの効果で手札を増やす……隙のない展開だ」
「しかも[時動かしの古城]の効果で手札がほとんど減ってない。さっきのターンのドローコマンドの効果もあってむしろ増えてるまであるね。竜騎士相手だと、サークルは埋めておくに越したことはない」
[竜騎士ラゼル]のアビリティで、空きサークルが四つ以上のとき、クリティカルが上乗せされる。その脅威は計り知れない。
「[時動かしの古城]のアビリティ発動。リバースバックアップを一枚選び、オープンする」
開かれたのは[藍染AIZEN]である。
「それが白属性のカードであれば、オープン時効果発動。AIZENは孤独を好む。ラゼルのアブソープション効果を無効化」
放送席の昴が首を捻る。
「アブソープション無効化のAIZENの能力は強いけど、それってカウンターしてこそだよね」
それに、AIZENのオープンアビリティは山札に戻るところまでだ。これではせっかく埋めたサークルが一つ空いてしまう。
それに答えたのは純冷だった。
「いや、アズハを運用し続けるのなら、バックアップサークルの空きは必要だ。バックアップサークルは三つしかない。毎ターン先程のメメのようにダウンチャームに送るわけにもいかないし、相手のターンで必ずしも開くとは限らない。そうすると、セットしたバックアップが意味をなくす。デッキを回し、生かすという意味では、山札に帰るAIZENを開けたことは有意義だ」
「でも、白のAIZENのオープン条件は[破壊に指定されたとき]だよ? 破壊特性の竜騎士相手なら、残しておいた方がよかったんじゃない?」
「もう一つも破壊指定時がオープン条件なのかもしれない。メメを二枚重ねして保険をかけていた要領なんじゃないか?」
「いずれにせよ、見たことがない戦い方なのは確かね。千裕がバトルシーンに入るわよ!」
放送席の解説や考察が捗ってきたので、アミがそこそこで切り上げさせる。
「Knightの攻撃」
「ふん、受けてやるぜ」
「ブレイヴコマンドチェック、クリティカルコマンド」
「はああああ?」
うーん、と他のテイカーたちも遠い目をする。千裕は先程ダメージコマンドでドローコマンドを引いたばかりだ。コマンドの巡りがよすぎる。
千裕の強みでもある、コマンドを引くときに引く力。これはタウンショップで戦い続けて、呆れるほどリュートも目にしたものだ。
それでも驚くものは驚くが。
「ダメージコマンドチェック。一枚目、ブランク。二枚目、ドローコマンドだ。センターにパワー、一枚ドロー」
「アズハの攻撃」
「アルフのスライドシェルター。コマンドはてめえだけが引くもんじゃないぜ」
「それはそうだね、ターンエンド」
まだまだ、ゲームは始まったばかりである。




