第104話 ブレイヴハーツ交流戦
開幕を告げて、アミは小さく黄の魔法を唱える。害のない光が、ステージにきらきらと降り注いだ。
「まず、このライブの目的は[白の王]を取り戻すことよ。そのために今日はスペシャルゲストも招いているから、楽しみにしていてね」
アミがトークで繋ぐ間、昴がハンナと一緒にメンバーに水を配って歩く。アミのところに水を置いたとき、昴はアミに首根っこを掴まれた。
「ちょっ!?」
「あはは! エシュでのライブ、覚えてる人いる? 昴はあのときあたしの騎士をしてくれた子よ。ブレイヴハーツ、滅茶苦茶強いんだから! はい、そんな昴くんから一言」
んな無茶な、と純冷、千裕、黒羽は思ったが、昴はアミのこういう無茶振りに慣れていた。
「皆さん、今日という一日をたくさん楽しんでってください。アミの歌は素晴らしいし、ブレイヴハーツも楽しいです。たくさん戦いましょう!」
すらすらと述べた昴に純冷が自然と拍手を送る。会場からも拍手が起こった。昴の名を呼ぶ者もいたから、エシュでのライブを知っているか、エシュで昴と交流のあった者も来ているのだろう。
「おぉ? あたしを差し置いてブレイヴハーツをしようだなんていい根性ね」
「アミ、素が出てるよ、素!」
「馬鹿ね、あたしはいつでも素よ」
でこぴんをして、アミは昴を離す。
「というわけだから、今日のライブではブレイヴハーツ交流コーナーもあるわ。スペシャルゲストにも出てもらう予定だけど、それは後半ね。
あたしたちは五属性それぞれのデッキを持っているの召喚されたテイカーは五人。ブレイヴハーツの属性は五つ。まるで誰かが仕組んだみたいに揃ったわ。
服を見てもらえばわかると思うんだけど、今日はそれぞれの属性色の服を着てもらっているの。それが持っているデッキの属性よ。一応紹介しておくわね。
ご存知アイドルテイカーブレイカーアミ、あたしは破壊の特性を持つ黄属性よ。ツァホーヴ!」
ごおおお、と雷鳴だけが鳴り響く。会場は騒然としたが、音だけで、害はない。
「ふふっ、驚いた? ブレイヴハーツの魔法は使い方次第でどうにでもなるの。今のツァホーヴは雷の音だけを出したもの。人に害のない範囲なら、魔法は自由に使えるのよ。
この水も、純冷のカホールで出してもらったやつ。天然水みたいで美味しい」
CMか、と純冷が内心で突っ込む。まあ、アミはそういう仕事もしたことがあるのかもしれない。
カホールで出した水が飲み水になるのは驚きの発見だった。応用すると氷も出せる。
「というわけで次に紹介するのは青のテイカーの純冷! 青属性は守りが固い防御の特性を持つわ。チャームゾーンを使った連携も特徴的よね。他属性ではチャームゾーンを使うことはまずないもの」
語りながら、アミは滑らかに純冷にウィンクを送る。純冷はカホール、と唱えた。
すると、ステージにもくもくと煙が上がる。演出で使われることのあるスモークだ。ステージが神秘的な空気に包まれていく中、ラヴァン、という涼やかな声が聞こえた。
アミが宙に浮く。天使か、あるいは魔法使いか。アイゼリヤの人々が思いもよらなかった魔法の使い方をする彼女は確かに魔法使いで相違ない。
アミが降り立ったのは千裕の隣。千裕の容姿は[白の王]に似ているというが、会場からどよめきは一つも上がらない。
[白の王]は謎に包まれた人物だ。今のところ、[白の王]の容姿を知るのは魔王とシエロくらいなものだ。
名前すら伏せたまま活動した[白の王]は、本当に、自分の行いだけが歴史に刻まれればいいと思ったのだろう。何者も差別しない世界。そんなのなんてあるわけない、と知りながら、アミは千裕の手を取る。
「千裕は白のテイカーよ。セアラーにいたなら、一度は戦ったことがあるのではなくて? 彼は変わった戦法を使うテイカーよ。白のテイカーって、あまりいないイメージだけど、あれを使いこなすのは難しいかもね」
千裕は不思議な雰囲気になった、と昴は思う。千裕特有の尖っていたところが、裕弥の丸さを帯びてきたような、そんな気がするのだ。
この中で裕弥に会えなくて寂しいのは、自分くらいなものだろうな、と思っていたが……
「たのもう!」
威勢よく声を張り上げたのは、昴も千裕もよく知る声だった。
「わあ、リュート、久しぶり!」
思わず素で昴が反応する。が、昴はスモークに紛れて見えなくなっていた。
「あたしのライブで妨害行為なんて、いい度胸をしてらっしゃること。でも聞いてあげるわ。いらっしゃい」
「ブレイカーアミは随分と高飛車な娘だな」
そうして虎の獣人が、ステージに招かれる。というか、体が勝手に浮いて、スモークで見えないステージの上に立たされた。
虎の獣人、リュートは少し動揺したが、目の前に千裕がいるのに対し、これ幸い、と千裕を指差す。
「お前と決着をつけに来た! 覚えているか、ユーヤ!」
「俺は裕弥じゃなくて千裕だ。ちーひーろ」
「どっちでもいい。まさか俺様のこと、忘れたとは言わせねえぜ」
「……忘れたよ。勝手にライバルとか名乗ってた人のことなんて」
「ばっちり覚えてんじゃねえか!」
コントのようなやりとりに会場がどっと湧く。昴もこっそり笑っていた。
リュートはアミを見る。
「今回のライブではブレイヴハーツもできると聞いて来たんだ。こいつにゲームを挑みたい、何か問題はあるか? ブレイカーアミ様よぉ」
その挑発的な声色に、アミは不敵な笑みできっぱり答える。
「問題大ありよ。あたしを差し置いて、千裕にブレイヴハーツを挑む野郎がいきなり出てくるなんて、大問題だわ」
でもね、とアミの笑みが艶然と煌めく。
「今日のライブは大問題大歓迎よ! そのために容易したステージだもの。出てきたからには、見世物にされる心の準備はよろしくて?」
「ははっ、[白の王]のためのライブで先陣を切れるなんて光栄なこった。いつでも来いよ」
「リュート、次俺ね!」
「ちゃっかり予約すんな!」
スモークの中からひょっこり出てきた昴の一言にアミが突っ込む。スモークが晴れると、ドラムセットなどが片付けられ、千裕の前からもキーボードがなくなっている。
「じゃあ、始めるわよ! 獣人のお兄さん、名前とデッキの属性は?」
「俺様の名前はリュート! デッキは赤属性を使うぜ」
「よし、じゃあ、ブレイカーアミセアラーデモライブ、ブレイヴハーツ前半第一戦、白属性千裕VS赤属性リュート、スタンバイ!」
向かい合った千裕とリュートの前に、テーブルがせりあがってくる。そこに二人がデッキをセットすると、アミの立ち会いの下、ゲームが始まった。
「Brave Hearts,Ready?」
「「Go!!」」




