第103話 セアラーデモライブ開幕!
荒廃したセアラーの地に突然現れたステージ。誰もが目を奪われた。
「ツァホーヴ!」
そこに落雷と共に現れる、五人。ドラムの位置に座った人物がハイハットを叩き、合図を送る。
豪快なクラッシュシンバルの音と共に、響いたのは歌声。
ばっとステージライトが照らす。
「Brave Hearts,Brave Hearts
勇気の剣掲げ
今、炎切り裂いて」
そうして始まった曲は今や全世界で知らぬ者がいないほどのアイドルテイカーブレイカーアミのアイゼリヤでの代表曲[勇気あるもの]だ。
ベース、ギター、キーボード、ドラムを伴った生演奏。ツァホーヴを利用した派手な登場演出に誰もが手を止める。いつの間にか、多くの獣人がセアラーに押し寄せていた。
[白の王]がいなくなって、ブレイヴハーツウォーズの激戦区として荒れてしまったセアラー。セアラーに住んでいた獣人たちは世界各地に散り散りになっていた。それが今日、ブレイカーアミの呼びかけにより、集まったのだ。
間奏中にマイクを持ったアミが叫ぶ。
「みんな、来たわよ! このあたし、ブレイカーアミの歌! [白の王]を呼び戻すためにあたしは歌い、戦いに来たの! 見せてあげる! 焼きつけなさい、あなたたちの胸に!」
そうして、Aメロが始まる。
「遥かなる世界から呼び覚まされた戦士たち
決意と夢を抱き歩き始めた」
それは異世界からやってきた彼らの歌だ。ギターがボーカルに寄り添い、キーボードが並ぶ旋律を奏で、ベースが支える。ドラムの動きはテクニカルで、上手く他を繋げ、調和を取っている。
次のフレーズが始まると、ギターもコーラスに加わった。
「全てを覆う炎」
「優しく包む水」
「「風が揺れ動いたとき戦士は立ち上がる」」
そのギターの人物を見て、会場がざわめく。
それもそうだろう。ギターの少女はマイムから指名手配されている人物だったのだから。
「You have Brave Hearts!」
「「Brave Hearts,Brave Hearts
果てしない翼広げ
高く飛び立とう、今!
Brave Hearts,Brave Hearts
勇気の剣掲げ
今、炎切り裂いて
Brave Hearts!」」
しかし、誰も通報する者はなかった。
音楽が魅力的で、歌に惹き付けられた。ブレイカーアミの歌、ギターの描く旋律。ライブはまだ始まったばかりだから、楽しみはこれからだ。
むしろ、指名手配犯を堂々と出演させる辺りが、ブレイカーアミらしくてたまらなかった。そのパフォーマンスを邪魔するような野暮な真似をする輩はいない。
「思いが一つとなり迷いが消えたとき
戦いの世界から解き放たれる
全てを覆う光」
「優しく包む闇
願いに揺れ動いた心が叫び出す」
「You have Brave Hearts!」
「「Brave Hearts,Brave Hearts
限りない夢を掲げ
遠く踏み出そう、今!
Brave Hearts,Brave Hearts
剣は胸の中に」
夢はそういつもここに……」
サビの盛り上がりから一転、静かなピアノの間奏が始まる。なだらかなメロディにベースの低音が囁きかけ、タムが合いの手を入れる。全体の息の合った演奏が心地よい。
ギターとクラッシュシンバルが同時にしゃーん、と鳴ると、少女たちが歌い次ぐ。
「「Brave Hearts」
勇気あるものたちの物語
「Brave Hearts」
諦めないのなら
夢はずっと「終わらないから」」
ドラムが駆け抜け、一気に熱が戻る。
「「Brave Hearts,Brave Hearts
果てしない翼広げ
高く飛び立とう、今!
Brave Hearts,Brave Hearts
勇気の剣掲げ
今、炎切り裂いて
Brave Hearts!」」
後奏の中でも叫ぶように歌い続けるアミ。ボルテージは上がりっぱなしで、アミの主導で曲が締まる。
盛り上がった勢いで歓声が上がる。ステージが明るくなり、アミだけでなく、他メンバーも手を振る。
アミはマイクを持って、そのまま司会に入る。
「みんな、今日は来てくれてありがとう! ブレイカーアミよ!」
わー、というもはや轟音のような観客の声。相当な人数が集まっていることがわかる。
「今日はあたしの仲間たちを連れて来たの。紹介するわね。まずはドラム!」
ドラムの少年がドラムセットをアドリブで回す。クラッシュシンバルの余韻の中、アミが名前を告げた。
「昴!」
昴が立ち上がり、一礼する。ドラムの立ち回りが忙しい曲だったはずだが、昴の顔には疲れなど一切なく、爽やかな笑顔まで浮かべてみせる。
次にアミはキーボードを示す。スポットライトがそちらに動いた。
「キーボード! 千裕!」
千裕は即興で軽く[勇気あるもの]のアレンジフレーズを弾き、一礼する。
「ベース! 黒羽!」
結局、魔王は渾名というより、体の人間の名前に落ち着いた。じゃかじゃかとベースを掻き鳴らすのも随分と様になったものだ。
最後にぃ、と溜めて、アミは隣を示す。ばっと照らされたのは指名手配犯の少女。
「純冷! ギターとサポートボーカル担当よ!」
純冷は堂々とギターを鳴らし、アミとハイタッチをする。
五人はそれぞれの属性色のTシャツを着ていた。黒羽はマントを短くして羽織っている。千裕は肩口に切り込みの入ったパーカーを着、昴と純冷はパーカーを腰に巻いている。
アミはTシャツにショートパンツとレギンスを合わせた格好だ。ハイカットスニーカーには翼がデザインされていて、さりげないお洒落を演出している。
「言いたいことは色々あるだろうけど、本日のライブはこの五人でお届けするわ。あたしたち五人でやることに意味があるの。
あたしたちは異世界からやってきたテイカー。アイゼリヤの姫巫女ヘレナによって召喚された存在よ」
召喚、という言葉に一部がざわつく。召喚が禁術ということが知れ渡っていなくとも、アイゼリヤの役目は誰もが知るところだ。平行世界を平行に保つことがアイゼリヤの役割であり、姫巫女の存在意義である。
異世界からの召喚。それはアイゼリヤがどこかの世界に対して平行ではなくなったことを示す。
「召喚されて、ブレイヴハーツウォーズに参加して、様々なことを見て、聞いた。それで、みんなに今日集まってもらった。
集まってくれたうちのほとんどは獣人よね。声を聞かせてくれる?」
アミが客席にマイクを向けると、獣人たちが各々に雄叫びを上げる。
「[白の王]が[黒の王]によって倒されたことはみんな知っていると思うわ。けどね、死んでいないことがわかったの。だから今日は、[白の王]を思うあなたたちと一緒に気持ちを届けたい。あたしができる方法は、歌と、ブレイヴハーツよ! だから新曲と新しいデッキを携えてきたわ。もちろん、仲間たちもね」
アミが客席にウインクを送る。
「ブレイカーアミのセアラーデモライブ、開始よ!」




