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Brave Hearts  作者: 九JACK
獣王国編
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第102話 隙間の空間

「ヘレナ」

 黒い空間で、ヘッドフォンをしているアルーカの猫耳部分がぴくりと動く。彼女がヘッドフォンをしているのは猫耳の部分ではなく、人間の耳に相当する部分だが。

 黒い空間で、スポットライトのように照らされているのは、ベッドに臥せる少女と、その傍らでラジオを聴く黒い猫耳の少女。猫耳の少女アルーカは、ベッドに臥せるヘレナに目をやった。

 呼んではみたが、ヘレナはまだ昏睡状態である。時折、目を覚ますのだが、ヘレナの体調は安定しない。

 それもそうだろう。ヘレナは禁術を使った。何の代償もなしに、禁忌を犯せるわけがないのだ。それに、高い魔力を持つ人間の姫巫女であるヘレナが使ったのは禁術だけではない。というか、それは現在進行形で使っている。

 ヘレナとアルーカのいるこの空間はアイゼリヤの中に存在しない。ヘレナが異世界同士を平行にさせる姫巫女の能力を使って作った隙間の空間だ。世界と世界の合間を縫って存在するこの空間を介することで、召喚の成功率を高めようと作ったものだった。もしもの場合、魔王に召喚がバレても、簡単に魔王に見つからないように作った隠れ家でもある。

 まあ、その魔王はブレイヴハーツウォーズに参加したことにより[アイゼリヤ]から出られなくなっているのだが。これはこれで幸いだった。

 全てが予定通りというわけではない。テイカーを五人召喚するという目標は達成した。だが、その中に[(ノイズ)]が混じったのは予想外だった。けれど、そのテイカーと融合した[王]の中に魔王が含まれたのもまた幸い。

 概ね順調だ。

「ハンナから連絡があったわ。あの子たちはあなたを疑い始めているけれど、ひとまずは[王]の復活に力を注ぐそうよ。三番目の子が今のところ結びつきが強くて騎士階級のカードを顕現したって。まあ、天使長は敵にも味方にもいてほしくないジョーカーだから、微妙な気持ちね」

 ハンナ、シン。ヘレナのための兵士(アーミー)。彼らをアイゼリヤ内に潜ませることで、アルーカは現状を隙間の空間から出ずに把握することができる。

 潜ませる、といっても、ハンナはド派手に目立っている。よりにもよって黄のテイカーアミと行動を共にしているのだ。危険人物の監視としてはとてもいいのだが……

「もう一人くらいいてもよかったわね。スミレという少女は立ち回りが上手いし。まあ、マイムから指名手配されているから、プラマイゼロかしら」

 あわよくば、勘のいい精霊の巫女を消せればいいと思ったのだが、そう上手くはいかない。精霊の巫女を召喚の生贄にし、召喚という禁をエルフが犯すことで、世界を混沌に落とし、天使たちの立ち回りを阻害しようと思ったが、それは失敗。だが、精霊の巫女を拐って、純冷が指名手配となり、天使でも高位のナターシャを巻き込んだのは充分天使たちの動きの阻害となる。

 ナターシャは頭を悩ませていることだろう。指名手配犯と魔王を匿っているのである。彼らを騙して、差し出せば大手柄だが、そうすると禁術を使ったヘレナに繋がる道、対抗する道が絶たれるのだ。彼女はまだ[アイゼリヤ側]に立っているつもりのようだが……

「[白の王]の復活か……懐かしいな」

 獣人の国を築いた賢王。彼は獣人のみならず、差別される者たちに手を差し伸べる聖人君子だ。アルーカもかつて、救われたことがある。

 彼が手にしたのは白属性のデッキだった。白属性は使い手が少ない。使いにくいデッキだからだ。

 裕弥や千裕が当たり前のように使いこなしているが、あれは異常なことなのだ。いくらカードゲームに造詣の深い世界から召喚したとはいえ、あそこまで使いこなすとは、アルーカも思ってみなかった。けれど、だからこそ()()が賢王の器として選ばれたのだと納得する。

「あれは気づいたわね……白属性の本質に」

 はあ、とアルーカは肩を落として溜め息を吐く。白属性の本質はもう少し有耶無耶にしておきたかった。

 やはり、アグリアル・タイラントのところでの彼らの動きから、予想だにしない方向で歯車が噛み合ってきている。昴と純冷はブレイヴハーツウォーズの台風の目となるであろう。

「でも」

 アルーカがにやり、と不敵な笑みを浮かべる。あるいは無邪気だった。

「予想のつかないことが起こるから、面白いのよね~」

 策の練り甲斐もあるってもんですわ、とアルーカが伸びをする。猫耳と指先がぶるぶると震えた。

 寝込んでいるヘレナの代わりに、ハンナとシンにはアルーカが命令を送っている。命令といっても、今のところ、ほとんど自由にさせているが。

「[白の王]が蘇ったら、もうちょっとややこしいことになるんだろうな。あー、あの人と敵対したくない。心理戦上手なのよねー」

 千裕と純冷に元の世界で繋がりがあったことも予想外であった。白のテイカーが二重人格なのはわかっていたが、どちらが主人格なのかまではさすがにわからなかった。魔王との接触で失っていた記憶を取り戻すところまでは予測できたが、純冷が知り合いで、元の自分を受け入れるまでの時間が短縮されてしまったことが状況を厄介にしている。

 おそらく、裕弥が表に出ていたのは裕弥という人格の方が[白の王]との融合性が高かったからだ。名前が同じというのもある。それに、[白の王]は穏やかな気質の人物だ。千裕は少し尖っているため、裕弥の方がよかったのだろう。

 現状において最大の謎は[久遠裕弥]が何者か、なのだが……この答え次第では、先行きが怪しくなってくる。

 アルーカはヘレナのために存在する。ハンナとシンはアルーカのために存在する。この違いは大きい。

 ハンナとシンはヘレナの目的を知らないのだ。

「いつ気づくかしらね」

 アルーカはヘッドフォンを外した。人間の耳が露になる。普通、獣人には人間の耳は存在しない。アルセウスのように、一部のみ人間の形質を持つコトカタは例外だが。

「……お兄ちゃん」

 そう呟いたアルーカの笑みは()()()()()()()()()()()

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