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Brave Hearts  作者: 九JACK
獣王国編
104/127

第101話 音合わせ

 ウィンドチャイムの清廉な音がそよ風のように駆け抜け──

「風よ、草原を吹き渡り

 我らを導け!」

 歌声に勢いづけられたギターの旋律と目まぐるしく回転するドラム。

 不敵な笑みを浮かべた歌姫がマイクをスタンドから引ったくる。

「Brave Hearts and take off

 覚悟はいいか?

 目指す場所はこの先に!」

 ピアノのメロディが間奏を盛り上げ、導く。

 ベースの低音が支える中、ギターとピアノによる二重旋律が絡まり合い、その奥でドラムが一定のフレーズを繰り返す。

 歌姫へ繋ぐために。


「うん、いい感じね」

 歌姫アミの機嫌はそこそこよかった。

 楽器慣れしていないらしい純冷と魔王は若干くたっとなっている。昴は楽器勢の中では一番動いていたはずだが、ぴんぴんしていて、「最初のウィンドチャイムもっとゆっくりのがいい?」だの「サビ前のドラムロールちょっと強すぎた?」だのと本職相手にぐいぐいと意見を求める。

 セアラーでのデモライブに向けて、楽曲を仕上げにかかっているのだ。通し練習である。通算三十回。時折アミのダメ出し入りである。

 ダメ出し回数は演奏回数より遥かに多い。一回通すのに、どれほどの時間がかかっただろうか。

「あとはセアラーでどれくらいのステージが用意できるかだけど、魔王の[音響]は問題なさそうね」

「まさかこんな使い方をすることになろうとは思わなかったが」

 魔王は世界の死神。世界に終焉をもたらす者。その役割のために、最後通告を行うため、世界全土に声を反響させる能力を持っていた。それをアミは[音響]として使用することにしたのだ。

 使えるものはなんでも使っていく。最高のライブにするために。目的がなんであれ、アミにとっては結局[歌うこと]が一番大切なのだ。

「はい、一旦休憩。ハンナ、飲み物ある?」

「ええ、用意してあるわ」

「純冷、氷」

「カホール」

 魔法の運用方法がもはや日用品である。純冷は呆れつつも、もはや慣れきった所作でブロック状の氷をいくつも生み出し、ハンナの持ってきたグラスに入れた。

 魔王も若干引いている。

「便利よねえ、魔法って」

「利用目的が明らかにずれているが」

「いいのよ。わざわざヘレナの意向に沿う必要はないわ」

「それはそれとして、叩き起こすためのツァホーヴはやめてほしいんですけど」

 水分補給をしながら、昴が苦笑いをする。当の本人であるアミは一つも聞いていなさそうだが。

 純冷が切り出す。

「ところで、私たちはずっと魔王のことを魔王と呼んでいるが、ライブでは別な名前の方がよくないか?」

「確かにね。アイゼリヤで魔王の侵攻は確かにあったわけだし、観客に怖がられて逃げられても困るよ」

 昴も続いて意見を出したことから、アミがうーん、と悩み出す。純冷が魔王に目配せすると、魔王は首を横に振った。

「[白の王]復活のためにオレを参加させるのなら、オレが魔王以外の名を名乗るのでは意味がなかろう。魔王も結局、名前ではなく、肩書きの一つだが」

 魔王の声色は激情を秘めるように静かだった。

「あいつにわかってもらえないと、意味がない」

「でも、そうね、最終的に魔王だってわかればいいのよね」

 そこでアミが口を開く。

 何か案があるようだ。グラスの飲み物を一気に飲むと、アミはたん、とグラスをテーブルに置いた。

「魔王に渾名をつけましょう。ライブの途中で正体を明かすの」

「まあ、それならいいんじゃないか? というか、ライブの流れはどんな感じなんだ?」

 純冷が静かにグラスを置くと、アミはハンナを呼んだ。ハンナはアミに一枚の紙を持ってくる。

「当日の大まかな流れはあたしの歌でスタート。一曲歌って、それからあたしのトークを交えて、異種族交流戦としてブレイヴハーツを行う。で、新曲披露。実は目玉はこの後」

「[VS]が二つ並んでるってことは、対戦カードを組んで、ブレイヴハーツを披露するってこと?」

「そ。表向きはあたしの新しいカードの披露ってことになってるけど……魔王、そこであんたとは千裕に戦ってもらうわ」

「なっ……」

 絶句する魔王。昴も驚きの目をもってアミを見る。

 アミがやろうとしていることは知る者からしたら非道な行いである。魔王の地雷(トラウマ)を踏み抜く行為だからだ。[白の王]と瓜二つの千裕と魔王を対戦させるなんて。

 魔王は[白の王]にブレイヴハーツで勝利し、制御できなかった黒の魔法(シャホール)で[白の王]を殺してしまった。そのことで精神を損ない、配下の魔物たちが手を尽くして、どうにか今、ここに立てるようになっている。

 その再現になってしまったら……と昴は危惧する。裕弥と戦い、買ったときも、恐慌状態に陥ってしまったくらいなのだ。

「昴」

 そこに、一陣の風のような強い声が到来する。

 声の先には灰色の目を鋭く輝かせ、不敵に笑う千裕がいた。

「俺が負けると思うか?」

 昴は目を見開く。

 そうだ、久遠千裕は、昴の知る限り、最強のテイカーだ。魔王は裕弥のことを負かしたかもしれない。だが、千裕にはまだ勝っていない。

 それに、カードゲームは全てのゲームが同じ展開にはなり得ない。どんな強者でも、負けることはある。どんなに相性の悪い相手でも、相手と自分の手札回り次第で勝ててしまうことだってある。

 カードゲームは何が起こるかわからないから楽しいんじゃないか。

「ま、そういうことね。っていうか、魔王は手加減すんじゃないわよ? あんたが千裕と対戦する……つまりはあんたが[白の王]を殺した瞬間を再現することが、今回の鍵になる」

 アミが目配せをすると、純冷が説明を引き継いだ。

「死んだものは還らない。それはお前が一番知っているはずだぞ、世界の死神。[王]と我々が融合した可能性が高いのなら、[白の王]は()()()()()ということだ」

「!」

「生きているのなら、まだ取り返しがつく。生きて眠っている[白の王]を呼び覚ますのが、今回の目的。お前が千裕とブレイヴハーツをすることは、千裕の中に眠っているかもしれない[白の王]を呼び覚ます重要な役割(トリガー)となるんだ」

「希望が見えてきたね!」

 昴が魔王に笑いかける。魔王はもう悲嘆に暮れなどしなかった。

「さて、じゃあ、とびっきりのサプライズにするために、魔王の渾名考えましょ」

「ところでもう一組は?」

「あたしとあんたよ、昴。指名手配中の犯罪者をステージに堂々と立たせるわけに行かないもの。まあ、あたしのステージを狙撃とかで汚すやつは倒すわ(ツァホーヴ)ね」

「こわ……」

 こうして、計画は進んでいく。

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