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Brave Hearts  作者: 九JACK
獣王国編
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第99話 クリスティンという側近

 黒の街ホシェフは一応アイゼリヤの一部だが、半ば別世界だった。当然のように異形が闊歩しており、人の形をしている者は少ない。

 かつて英雄と呼ばれたパーティの一員であるナリシア・ナジェリは随分と微妙な面持ちで、とある屋敷に入った。

「いやはや、まさか、過去に魔王たまの敵とちて現れた勇者一行の一人をこのおやちきに招くことになろうとは、このクリスティン、思いもよりませんでちた」

 記憶違いでなければ、ナリシアと妹のアリを先導するふわふわの毛玉の丸い生き物は魔物で、知性が高く、言語を操るという強そうなステータスを持っておきながら、ワンパンで倒せるというキューブスクワイヤバトラーのはずである。

 クリスティンという名前のこの生き物はふよふよと宙を漂い、豆粒のような手を振って、食器だのドアだのテーブルだのを動かしている。魔法だろうというのはわかるが、なんだろう。キューブスクワイヤバトラーの体にはおよそ似つかわしくない動きをしているので、怖いような、面白いような。

 クリスティンに案内されたのは、ブレイヴハーツウォーズに巻き込まれてから、魔王が根城としていたホシェフの屋敷である。生き物の気配がない代わりに、あちこちで魔法が発動している気配があり、魔力の動きに敏いエルフのナリシアは落ち着かない。ここがかつての仇敵、魔王の住処であると考えたら、尚のこと。

「ちて、魔王たまはお元気であせられますか?」

「うん。色々あって、他のみんなと合流してる。スバルとアミとチヒロは知ってる?」

「スバルたま! スバルたまにも大変お世話になりまちた! チヒロ……そういえば、スバルたまが[白の王]をそう呼んでいたような気がちますが……あの少年はユーヤたまでございましょう?」

「あ、ユーヤの方を知ってるんだ」

 ただ、クリスティンの言葉が引っかかる。

「[白の王]って……」

 まさか、このクリスティンは、異世界テイカーたちと[王]が融合しているのを知っていたのだろうか。

 そう思ったが、クリスティンの回答は違った。

「わたくちは魔王たまの下僕(しもべ)でございますゆえ、[召喚]という禁忌を犯ちたヘレナを許ちまてん。ですが、それ以上に、禁忌という枠組みを越えて現れた異世界の者に敬意を持っています。そのため、異世界からやってきた者のことを[王]と呼ぶのです」

 想像していたより、禁忌に関する考え方の次元が高い。魔王はあくまで召喚を[行った]人物に罰を与える存在であり、召喚に[巻き込まれた]人物たちには寛大なようだ。

 召喚を禁忌とする以上、そもそも召喚ができないような仕組みになっているのだろう。クリスティンの口振りだと。

 不可能の壁を越えてやってきた、と表現するなら、確かに昴や純冷たちには畏敬の念を抱く。不可能なことをなし得るのは偉人だ。偉人として歴史に名を刻まれ、後世までその名を轟かす。伝わる過程で[王]と称されるのも、よくあることだ。クリスティンの言っていることには何一つおかしなところがなかった。

「驚いた……キューブスクワイヤバトラーが喋れるのは知ってたけど、こんなに理知的な会話ができるなんて……」

「ナル、感慨に耽ってる暇はないよ。スミレに頼まれたこと、しなくちゃ」

「うん、そうだね」

「何か、ご用でございますか?」

 キューブスクワイヤバトラーが、その小さな体をいっぱい使い、疑問符を浮かべたのを表現する。いや、見た目は毛玉がふよふよ浮いているのと変わりないのだが。表現力のある魔物だな。

 マイムから指名手配されているナリシアとアリは、アイゼリヤの者が簡単には入って来られないホシェフに来た。勿論、それには理由がある。

「クリスティン、力を貸してほしいんだ。これは魔王のためでもある。──[白の王]の復活計画に、参加してほしい」

 おそらく、クリスティンに人の顔があったなら、顔色が変わったことだろう。クリスティンの雰囲気がそれだけ変わった。

 そのくらい、ホシェフにおいても[白の王]の名は聞き捨てならないものなのだ。

「詳ちくお伺いいたちましょう」


 獣王に対して、魔王がこれだけ心を開いているのは意外だった。配下である魔物にまで気を配らせるようにしていたとなると、相当である。

 クリスティンは語る。

「最初はわたくちたちも、反発心を抱きまちた。たかが人間ごときに、魔王たまの何がわかるのか、と嘲っておりまちた。けれど、それで愚かちさを実感ちたのは、むちろ我々の方なのです。

 我々は、魔王たまが[白の王]とブレイヴハーツをし、魔王たまの放った魔法が[白の王]の息の根を止めた瞬間を、見たのです。……あんなに取り乱されたお姿の魔王たまを、わたくちたちは今まで、一度たりとて見たことがありませんでちた。そのとき、わたくちたちが[白の王]を嘲った言葉が、そのままわたくちたちに返ってきたのです」

「[魔王さまの何がわかるのか]?」

 アリが返した言葉に、クリスティンはしゅん、と縮こまる。本気で落ち込んでいる様子だった。

「わたくちたちは一体、魔王たまの何をわかったつもりでいたのでしょう。魔王たまは世界の掟に逆らう世界を悉く滅ぼちてきたお方。掟を破った者に慈悲なぞ与える余地もない。そうちて、いくつもの世界を闇に葬り、秩序と安寧を保つための死神とちて存在する、偉大なお方だと、ただそれだけだと、わたくちたちは、勘違いちていたのです」

 語るクリスティンの声が震えていた。それは悔しさからか、悔恨からか。

「世界を治める神とて人の子に割く心を持つのに、何故、魔王たまにはそれがないと、思い込めたのでしょう……わたくちたちが言葉を持ち、喋り、感情を露にするのは、魔王たまがそう造ったからであります。知らないものなぞ、造れるはずもないのに」

 どうちてそんな簡単なことに、気づけなかったのでしょう、と呟いて、クリスティンは嗚咽した。魔物だからか、涙はないが、そこには確かに人間と同じ[感情]が宿っていた。

 これを見て、ナリシアは昴がクリスティンの説明をしたときに言っていたことがわかった。


「クリ坊は魔物だけど、魔物だからって悪即斬みたいな感じで切り捨てちゃ駄目だ。他の魔物はわからないけど、魔王側近のクリ坊は、心ある生き物なんだよ」

「でも、いかに知性が高いとはいえ、キューブスクワイヤバトラーだろう?」

 昴は目を伏せて告げた。

「クリ坊は……魔王が喪失の痛みを思い出すのを怖がってた。魔王の心が壊れるのを、怖がってたんだ。心を持たなきゃ、心の痛みや心が壊れる怖さを理解はできないよ」


 昴の瑞々しい感性から放たれた言葉が、今、形を持ってここにある。

 シエロたちと旅をしたとき、魔物はナリシアにとって、ただの敵であった。けれど、魔物の本質、もとい、魔王の本質はそれだけではなかったのだ。

「ちかちながら、我々はホシェフから出られぬ身。参加するといっても、この街から出ることはできません」

「そうだね。でもきっと、魔王の心を救うには、君たちの言葉が必要だ。僕に考えがある。墓守のモリさんと連絡は取れる?」

「勿論でございます!」

 話を進めていく兄とクリスティンを見て、アリがそっと微笑んだ。

「こっちは上手くいきそうだよ、スミレ」

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