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【書籍化&コミカライズ】失格聖女の下克上~左遷先の悪魔な神父様になぜか溺愛されています~(web版)  作者: 紗雪ロカ
お知らせ/番外編

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好きって言うゲーム

 ――告白にらめっこ。


 それは二人がお互いに向き直り、相手の目を見ながら交互に「好き」と告白していくゲームだ。

 照れて先に目を逸らした方の負けとなり、勝者のおねがいをなんでも一つ聞くというのが定番である。



「……っていうのを、村の酒場で聞いたんだけどやってみないか?」

「そういうのを、神父が率先してやらないで下さいよ」


 夕食後のまったりタイムに差し掛かった頃合い、いい笑顔で開口一番これである。最近の定番化しつつある読書の本を持ってきたネリネは、ソファに座るクラウスの横に腰かけながら呆れた。


「だいたい何ですか、なんでも一つ言うことを聞くって。一種の賭け事では? 本部に知られたらお咎めがありますよ」

「相変わらずお堅い……ちょっとした恋人同士のじゃれ合いじゃないか、金銭を掛けるわけじゃあるまいし」

「金銭以上の物を要求される気がするのですが」


 ジト目で視線を流すと、ニヤッと悪い笑みを浮かべたクラウスはズビシィッと指を差す。


「そうさ、イチャつくのが目的のゲームだからな。私が勝ったら膝枕をして貰うぞ! その上さらに『なでなで』だっ」

「はぁ、なでなで」


 そんなもので良いのかと少しだけ拍子抜けする。この間、頭を撫でてから妙なクセがついてしまったようだ。


「……まぁ、そのぐらいなら良いですけど」

「本当かい!?」


 パァッと顔を輝かせた彼にクスリと笑ってしまう。だが、この悪魔の色気を忘れてはいけなかったのだ。そう後悔するのは数分後……。



「……」

「……」

「そんなに身構えなくても……」


 真顔になって真正面からのぞき込まれること数十秒、ネリネは真っ赤になりながらクラウスを睨み返していた。その身体はぷるぷると震え、今にも逃げ出しそうに見える。苦笑した神父は冗談めかす。


「この分なら、こちらの圧勝かな?」

「はっ、早くして下さいよ!」

「はいはい」


 赤く染まっていく頬が愛おしくて、つい見つめてしまったとは言えない。改めて柔らかい微笑みを浮かべたクラウスは、彼女の頬に手をやるとそっと囁いた。


「好きだよ、ネリネ」


 確かな響きに、ことさらシスターの顔がボッと染まる。だが視線は逸らさない。彼女はふわりと笑うと添えられている手に自分の手も重ねた。幸せを享受することにも、ようやくなれ始めて来たのだろう。


「さて、攻守交替だな」

「えっ」

「次は君の番だぞ」


 しっとりとした雰囲気から出し抜けに悪魔が笑う。

 はた、とルールを思い出したネリネは一気に焦り始めた。


「わっ、わたしが?」

「そうさ、勝負に乗った以上は公正に。途中で降りるなんて言わせないぞ」


 慌てるシスターを見ていた悪魔は心底楽しそうにニヤニヤしている。もしかしてこのゲーム、最初から彼しか利点がないのでは……。そう気づいた時にはもう遅かった。


「さぁ、真っ直ぐに目を見つめてどうぞ」

「うぅ……」


 軽く涙目になりながらも真面目なネリネは任務を遂行しようとした。間近にいる彼を見上げて、その瞳を見つめる。


(――あ)


 普段は茶色がかった瞳の奥で、美しい炎の色が躍る。それを見た瞬間、羞恥や焦りなどといった感情は波のように引いていった。普段は心の奥底にしまい込んでいる素直な感情が、口からぽろりと零れ落ちる。



「好き……好きです、愛しています、クラウス」



 本当に自然に出てきてしまった言葉だった。お互いに見つめ合い固まること数秒、先に反応したのは勝負を仕掛けた方だった。不意打ちについ顔を覆ったクラウスは、呻くように一言呟く。


「~~っ、それは、その上乗せは卑怯だろう……」

「え……? あっ! 好きだけで良いんでしたっけ。ごめんなさい余計でした!」

「いや余計じゃない、ないけど!」


 なんだか必死になる神父だったが、クッと息を呑むこと一拍。負けたぁぁと、ソファにぶっ倒れてさめざめと泣くふりをした。よく分からないが、勝ってしまったらしい。


「あの、大丈夫ですか?」

「断言してもいいよ、この世で私にここまで致命傷を与えられるのは君だけだ……この悪魔殺し」

「いりませんよ、そんな称号」


 戸惑うネリネに向けて、顔を上げたクラウスは尋ねる。


「あぁぁ、自信あったんだけどなぁ。そういえばそっちの勝った時の条件を聞いてなかったっけ」


 観念したようにしょぼんと座りなおした神父は、何なりとお申し付けください。と、しおらしく言う。契約を迫る悪魔がそれでいいのか。と、少しだけ思わなくもないが、それに対して少しだけ考え込んだネリネは、頬を染めながら口を開く。


「ええと、それじゃあ……」

「うん?」


 ちらりと見上げながら、


「…………もう一回、やりませんか?」


 意外な申し出に、クラウスは二、三度瞬く。ようやく理解すると目を細めながら彼女を引き寄せた。


「やっぱり君には、一生勝てない気がするな」

「ふふ」


 二人は額を突き合わせながら笑った。

 勝負の行方は、まだ着きそうにない。



 おわり

日付も変わって、本日いよいよコミックス完結巻発売です!

この作品に関わって下さったすべての方に感謝を込めて…。


今後もちょこちょこ番外編は追加していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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ぐああ!甘い!糖尿病になりそう! この悪魔!リア充!末永く爆発しろ!
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