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呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~  作者: さとう
第四章

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呪装者との戦い③

 一方、レイアースとエリオは。


「ねえ、どうする? レイアースちゃん」

「…………」


 二人は、『汚泥』の中にいた。

 エリオの『風』の力。空気を操る力を利用して空気そのものを固形化し、小さいながら部屋を作った。そこに二人で閉じ込められている状態である。

 戦いが始まるなり、『汚泥』のジュミドロが周囲の汚水をレイアースたちにぶつけ、そのまま押しつぶそうとした……が、エリオの機転で『空気固定(エアルーム)』を作り、こうして無事でいたのである。

 だが、部屋から一歩も出ることはできない状態だ。


「まいったな。この汚泥、おそらく村全体を余裕で飲み込めるくらい広がってるね。能力は『泥化』で確定かな……大地を泥化し、自在に操る呪装備か。敵の位置は不明、もうボクらのこと死んだと思ってる可能性もゼロじゃない」

「……ここから、移動はできないのか?」

「できるけど、無策で移動するのは避けたいね。空気をかき集めて作った部屋だから呼吸の限界もある。部屋に穴を空けて、空気の噴射で移動はできるけど、泥の中で空気が無くなれば窒息する。ここがどの程度深いのか、上も下もわからない以上、下手な動きは命とり。瞬着して鎧状態ならいけるかもだけど……やっぱり、すぐ飛び出すのは危険だ」

「くそ……!!」


 レイアースは歯噛みする……が、すぐに思い直した。


「そうだ。私の『女神軍勢(レギオン)』で、周囲を探ってみよう」

「いや……大丈夫なの? 軍勢は手数を増やすだけなら最高だけど、レイアースちゃん、第三解放に目覚めたばかりでしょ? 細かい操作とか」

「いける」


 レイアースは、『光神器ルーチェ・デルソーレ』を抜く。

 そして、静かに祈りをささげると、四体の白騎士が、光に包まれた状態で顕現した。

 

「よし、お前たち。この空気の部屋をつかんで移動することはできるな?」


 白騎士たちは頷く。

 よく見ると、デザインが違う。

 一帯は一般的な鎧騎士。二体目は女性のように線が細く、三体目は重騎士、四体目は翼が大きな騎士だった。

 

「エリオ。ここでこうしていても意味はない。だったら、行動するだけだ」

「……そうだね」


 白騎士たちは空気の部屋をつかみ、泥の中を移動し始めた。

 エリオは思う。


(……おいおい。これだけのクオリティの『軍勢』を、第三解放に目覚めたばかりのレイアースちゃんが……? 才能ある子だとは思ってたけど、それだけじゃない気がしてきたぞ……それに、この白騎士たち、個々の能力が高すぎる。こんな、力の配分を変えて顕現させるなんて、団長でも難しいのに)


 レイアースを見るが、疲労している感じはしない。


(……なーんか、この子は騎士の中でも特別な気がする。注意、警戒……いや、観察しないとね)


 エリオはレイアースを見て、そんなことを思うのだった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 泥の中を進むこと数十分、エリオは言う。


「間違いないね。どうやら村は、この泥の中に沈んだとみていい……まさか、村を一つ、丸ごと飲み込む呪装備とは」

「弱点はあるのか?」

「さっきも言ったけど、本体を倒すしかない。さっき、盛り上がった泥に目が現れたのを見ただろ? おそらく、本体は泥の中にある……見つけたら」

「全力の一撃を叩き込む、か」

「ああ。懸念もある……本体を倒したらこの泥はどうなるのか。力を使い果たしたボクらは泥から脱出できるのか」

「……そこは、賭けだな」

「分の悪い賭け、ね。やれやれ……団長にも内緒だったけど、出すしかないか」

「……出す?」


 エリオは、空気の部屋の壁に手を触れると、壁を突き破って手を泥に触れさせた。

 触れた瞬間、ジュウジュウと焼けるような痛みがエリオを襲う。


「ぐっ……!?」

「ば、馬鹿!! 何を」

「こうしないと、わからないこともあるんでね……!!」


 エリオは、右手から魔力を噴出……周囲にばらまく。

 そして、泥に紛れ込ませた魔力をたどり、違和感を探る。


「どこだ……」


 脂汗を流し、泥に触れることで敵の命を、魔力を感じて探す。

 そして、カッと目を見開き、ニヤリと微笑んだ。


「見つけた……レイアースちゃん、ここから左方向、距離四十!!」

「ひ、左……」

「細かい位置はボクが指示する。騎士を操作して移動するんだ」

「わ、わかった!!」


 レイアースは騎士に命じ、エリオの指示で動かす。

 そして、しばらく進んだ先に、まんまるとした泥の球体が蠢いているのが見えた。


『んあ!? な、なんでここに!? おま、しんだはずじゃ』


 ジュミドロの声がした。

 球体の泥が落ちると、そこにいたのはミミズだった。

 巨大ミミズ。身体を丸めて泥で塗り固めたような形態をしていたが、泥が剝がれるとあまりにも気持ち悪い見た目に、レイアースは顔をしかめる。


『くっそが。しぶとい、しぶとい!! 溶けてなくなっちまえ!!』


 ミミズの首には、ボロボロの鎖が巻き付いている。

 それが呪装備である可能性が非常に高い。エリオは言う。


「さて、あいつを倒そうか」

「ああ。ここは私が……」

「ボクがやるよ──『瞬着』」


 エメラルドグリーンの風がエリオを包み込むと、そこに現れたのは『鳥』だった。

 緑色の、スタイリッシュな鎧だった。背中には翼が生え、脚は鳥のように細く、かぎ爪のようになっている。

 初めて見るエリオの鎧形態に、レイアースは驚く。

 そして、エリオは『エア・ストライク』を手にし、くるくる回して言う。


「レイアースちゃん。これ、内緒ね?」


 エリオは、ナイフに魔力を込める……すると、ナイフが変化した。

 手持ちのナイフが、風を纏って変形していく。


「第二魔装、『フリューゲルス』」

「……!!」


 ナイフが、一本の長い『槍』へと変形し、さらに鎧の形状が変化した。

 第二魔装。魔装、決戦技、女神軍勢の次に解放される、神器の奥義の一つ。

 エリオは、すでに四つ目の奇跡に到達していた。


「レイアースちゃん。あいつを仕留めてくる」

「ま、待て、私も」

「いいから。キミはとどめ担当で。じゃあ……任せてよ」


 エリオは空気の部屋から飛び出し、泥の中をのたうち回るミミズに向かって飛んで行った。

 レイアースは見てわかった。いかに鎧の力があろうと、この泥の中では鎧もダメージを受ける。

 短期決戦。エリオの狙いはそれだった。


「……私だって!!」


 レイアースは、『光神器ルーチェ・デルソーレ』を強く握り……剣は、淡く発光するのだった。

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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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