冥府六将『罪滅』のエクスパシオン
魔界。
魔界は、六つの地域に分かれ、それぞれ一つの地域を『冥府六将』が管理し、冥府六将の下には三人の高位魔装者が補佐に付き、その地域を管理している。
冥府六将、三人の高位魔装者、その下にさらに魔人……そして、その地域に住む魔人たち。
一つの地域には、一柱の『魔神』を信仰し、崇める文化があった。
「で? ヴァルケンくん、死んじゃったの?」
「は、はい……申し訳、ございません」
魔界『罪滅』区。
『紺玄金斗』カトレアは、冥府六将『罪滅』エクスパシオンの前に跪いていた。
エクスパシオンは、どこか安っぽい椅子に深く腰掛け、欠伸をする。
「そっかぁ……彼、いい子だったんだけどねぇ」
真っ白な髪は所々がツンツン跳ね、頭には仮面が引っかけてあった。
服装は、黒を基調としたダークスーツで、胸元が大きく開き、首にはチェーンが掛かっている。
場所は、魔界『罪滅』区にある、エクスパシオンの執務室。元々豪華な調度品で満たされた部屋だったのだが、豪華な物を嫌うエクスパシオンが、わざわざ安っぽい椅子とテーブルを運ばせた。
カトレアは言う。
「人間側に付いた魔人……ダンテと名乗る魔装者が、ヴァルケンを殺しました」
「ああ、知ってる。『蛇』が見ていたからね」
そう言うと、カトレアの背後に、顔色の悪い少女が現れた。
ショートヘアの、首に蛇を巻き付けた少女だ。
よく見ると、蛇は本物ではない。鉄で出来たニセモノだった。
「シュネク……いつの間に」
「……ずっといた」
か細い、今にも消えそうな声で言う少女、シュネク。
エクスパシオンは「あはは」と笑い、テーブルの上に足を乗せ、後頭部で腕を組む。
「暗黒鎧のダンテくんかぁ。どの神を信仰しているのか知らないけど、まさか魔神を裏切って、魔神の天敵である女神の眷属である人間に着くとはねぇ」
「…………」
「そして、オレの可愛い部下を殺し、食らったと……うんうん」
「え、エクスパシオン様……」
エクスパシオンは笑っていた。
そして、椅子を掴んで足を振り上げ、テーブルを跳び越すように飛んで立ち上がる。
「さて、どうする?」
「……え?」
「ヴァルケンくんが死んじゃった以上、このまま見過ごすわけにはいかないでしょ~? カトレアちゃん、シュネクちゃんの二人でその魔装者と戦うかい?」
「そ、それは」
「うん、無理だねぇ。間違いなく、女神の使徒である『七曜騎士』が現れる。それに、一人は一番未熟なのに、一番伸びしろのある少女だって言うしねえ」
レイアースのことだった。
決戦技、そして女神軍勢を同時に発現させたことは、エクスパシオンにとっても驚きだった。
「三人の魔装者のうち一人が殺され、残る二人じゃ倒せない。じゃあどうする?」
「……ま、まさか」
エクスパシオンはカトレアに顔を近づけると、子供のようにほほ笑んだ。
「もう、オレが行くしかないよねえ?」
「そ、それはさすがに……まさか、冥府六将自ら出向くなんて」
「まあね。でも最近は運動不足だしねえ、リンボ様もお忙しいのか、ちっともお声がけしてくださらない。少しは、外出してもいいと思わないかい?」
「え、えっと……」
「それに~……部下が死んだなんて、他の五人に知られたら馬鹿にされるだろ~?」
「…………」
どうも、それが本音のように聞こえた。
カトレアは何も言わず、シュネクも隣で跪いたまま動かない。
「はい決まり。じゃ、ダンテくんだっけ? まずはスカウトだねぇ」
「え」
「ヴァルケンくんを倒したんだ。オレの部下にするのも悪くないよ」
「……し、しかし」
「ま、ダメだったら殺すさ。ふふ、じゃあ二人とも、お出かけの用意をしてくれ」
「……ほ、本当に参るのですか」
カトレアは、まだ信じられなかった。
冥府六将が、管理する土地を離れるなんて、聞いたことがない。
「心配性だねえ、カトレアは。さあさあ、久しぶりに楽しもうじゃないか」
「…………は、はい」
こうして、冥府六将『罪滅』のエクスパシオンが、魔界を出た。
向かうは人間界。そして、ラクレスの元。
この、魔界最強戦力の一つが人間界に向かうことを……ラクレスは、まだ知らない。




