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3.永久の名を謳う規律―12


「むっ、」

 アギトの全力に気付いたのか、フレギオールも今の一撃には全力で対抗する。杖のアクセスキーを両手で構え、斜に立ててアギトの一撃を受止める。鋭利な轟音が轟いて、火花が衝突点で激しく散る。引き裂く様な音が炸裂する。

「とっととお前を殺して、エラーを消滅させて、全部終わらせてやる!」

 アギトが一歩、圧し迫る。

「それはどうかな?」

 一歩分、圧されたフレギオールはそれでも、ニヤリと不気味に笑んで見せた。――と、同時、風が吹き荒れた。アギトはすぐにその正体に気付いた。気付いてしまった。アクセスキーを弾き、フレギオールとの距離を取って離れる。そして、上空を見上げると、漆黒の巨大な影が通り過ぎたのが見えた。あの、漆黒の龍だ。

(クソッ! きやがったか!)

 アギト達の上空を過ぎ去った漆黒の龍は暫く飛ぶと、旋廻してアギトの下まで戻って、向かってきている。

「楽しめ、だ。言っただろ?」

 吐いて、フレギオールは杖を構える手を片手に戻した。踵を返し、そのまま、先へと向かってしまう。

「逃げるか、フレギオール!」

 叫ぶが、返事は仕草の一つにすらならなかった。即座に追いかけようとも考えた――だが、どうしても、漆黒の龍の存在がそれを邪魔する。

 辺り一帯を引き裂くような轟音が、漆黒の龍の雄叫びが空気を震わしたかと思うと、漆黒の龍はアギトの頭上に差し迫った。そして、鋭利な牙を剥き出しにして、口を開き、炎を口腔に宿した。後、数秒もカウントしないその間に、口内に宿った炎は爆発的勢いで肥大化し、そして、あっという間に――アギトへと降り注いだ。

「クッソォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 雄叫びをも掻き消さんと言わんばかりの勢いで、酸素を燃焼しながら炎はアギトに降り注いだ。アギトごと、辺り一帯へと広がった炎は渦となり、ハリケーンとなりながら、収縮するまでに相等な時間を要した。

 バチバチと内部の水分が一気に蒸発させられる音が辺りを包んだ。熱気が浸透し、吹き荒れ、ありとあらゆるデータに攻め入る。煽られたデータは余りの負荷に耐えられず、次々と消滅していく。木々さえもが、紫色の光お粒子となって消滅――つまりは、殺されていく。

 そんな渦中、ど真ん中にいるアギトは絶対絶命。いや、死んだと確定しても良かった。

 ――だが、炎が広がり、収縮して消えたその場に、一つの影が残っていた。口に炎の余韻を残す漆黒の龍の真下、そこに、一つの半球体があった。純白の表面は艶めかしく輝き、地を穿つようにそこに鎮座していた。表面に走る幾何学的紋様は時折赤い光を流す。それはまるで血流のようであり、生命らしさを感じさせた。

 そんな異常な光景を、漆黒の龍は大そう不思議そうに見下ろしていた。自身の炎は全てを焼き尽くす業火だと知っているかの様な表情。そして、何故そこに物体が残っているのか、という驚愕の表情だ。

 暫くすると、その半球体は持ち上げられた。して、数秒の間でそれは半液体状へと変化し、姿形を変えて、あっという間に、剣の形を取った。そして、その剣を握るのが――、

「なんとか、なったか……、俺一人しか守る力がないのがどうしようもないがな」

 ――アギトだ。漆黒のコート、そして細身ながら筋肉質なその体に一つの火傷どころか焦げすらない状態で屹立していた。手に握る剣、アクセスキーはその形を剣へと取っていた。だが、刀ではない。今までアギトが好んで使っていた刀、日本刀の様な形ではなく、ムカデの様な節を持った刃を宿す両刃の剣となっていた。

 ――これが、

「これが、俺のアクセスキーのスキルだ」

 ――アギトが持つ、フレミアの最高傑作であるアクセスキーだ。それをフレミアはこう名付けて分類している。

『マルチウエポン』と。

 アギトが剣を遥か上空で滞空している漆黒の龍へと向けて突き出すと、節が別れ、その刃は急激に伸びて漆黒の龍へとあっという間に到達した。その切っ先が間抜けにも油断していた漆黒の龍の首下へとズブリと沈むように突き刺さって、漆黒の龍の碇となった。

 漆黒の龍はその痛みでやっと我に返り、巨大な翼をはためかせ、飛び出した。だが、それにはアギトが、アクセスキーが付く。

 アギトが意思上でアクセスキーを操作。すると、節を分断してその身を何倍にも伸ばしていた刃は下に戻り始め、アギトの体をあっという間に飛びまわる漆黒の龍へと到達させた。首下まで到達したアギトは剣を引き抜き、漆黒の龍の首下を蹴って漆黒の龍の頭上へと降り立った。

 突然の出来事に状況を追えていないのか、漆黒の龍は勢いを緩め、滞空してしまった。そのまま、首だけを動かして辺りを見渡し始める。

 その間にアギトは動く。アクセスキーを振るうと、アクセスキーは一度柄の状態へと戻り、そして、また、変貌した。その姿は鞭、まさにそれだった。柄の先から垂れる純白の色をした固体ではない紐状の何かはしなり、垂れている。だが、そこには何故か屈強さ、硬さを感じさせる。

 アギトが漆黒の龍の頭上でその鞭を振るうと、紐状の部分が急激に伸び、漆黒の龍の口元を一回転して、口を縛り上げた。一周して周ってきた紐をもう一周させ、漆黒の龍の炎を封ずる。

「これで炎は吐き出せねぇだろ!」

 鞭状となったアクセスキーをしっかりと握り締め、アギトは声を上げた。するとやっと漆黒の龍はその存在に気付いたのか、急に両翼をはためかせ、暴れだす。

 雄叫びを上げようともがくが、アギトの縛り方の上手さからか口は開ける事はなかった。宙返りし、旋廻し、なんとか頭上の異物を振り払おうと暴れる漆黒の龍だが、どうしてかそれは上手くいかなかった。一度離れれば、次はない。アギトはそれに気付いているのだろう。

「とっとと殺してしまいだ」


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