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ハイエルフと行く異世界の旅  作者: めたるぞんび
第7章:宮廷秘書官の探索と救出作戦の旅 [後篇]
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隠れ里での朝食と状況整理の旅(中篇)

「ごちそうさまでした!」

「おそまつさま、なのです!」


 朝食を終えて一服のひと時。各々が腹ごなしがてらに談笑を始めた。

 ライカが拵えた朝ご飯は、みんながこぞって好評であった。特に川魚のムニエルは全員一致。スパイスを利かせているのか、それとも香味野菜を添えていたからか。川魚の臭みはなく、厳しい渓流で引き締まった身がホロホロとほぐれる柔らかさ。口の中で身とソースが程よく絡み合うと、得も言われぬ美味しさのハーモニーを奏でてくれる。

 よってパンで身を挟むもよし。パンをソースに浸して絡めるもよし。誰しもが川魚のムニエルを何回もお代わりしてしまうほど、大盛況といって良かった。


「料理はライカのお手柄だね。朝どれのカルラとサクラもよく頑張った」

「いやー、それほどでもー」


 そう言われると、またもや不意をつかれた獣人族たちとて悪い気はしない。顔のそぶりは見せずに謙遜しつつも、胸の内では小躍りしているに違いない。

 信頼を得た瑛斗のお褒めを与るとなると、つい口元が緩んでしまう彼女たちである。


「あのね、えーと……」


 瑛斗の隣にちょこんと座っていたレイシャが、そわそわしながら声をかけた。

 空気を汲み取った瑛斗は、それとなく察して気取らずに反応する。


「ああ、たぶん今朝の報告なんだろ?」

「ん」

「今日も頑張ってたじゃないか、レイシャ」


 そう言って、つやつやと朝日に煌めく滑らかな白髪(しらかみ)を撫でる。

 いつも寡黙なレイシャとて、どうやら今朝の一件は言いたいようだ。

 よって許可を得て自らを買って出たは、第一の目撃者・レイシャである。


「それで今朝の様子は、どうだったんだ?」

「ん、あのね、きのう『あらーと』いくつかつくった」

「へぇ、警戒魔法を複数も設置するなんて、偉いじゃないか」

「やったわ。それならやった。私もやった」

「で、まちぶせした」

「そうか、隠蔽技能までも会得したんだな。大したもんだ」

「そうそう、それ。私も知っててやってやったわ」

「…………」


 いつもは無表情に柔和をかけたレイシャが、徐々に不機嫌な表情へと変わる。原因と言えば、ただ一人。肘をついてそっぽ向いてしゃしゃり出た、気まぐれハイエルフである。

 わざわざ会話に割って入った理由はよく分からないが、特殊なエルフ二人に挟まれた立場にある瑛斗としては、心の底から苦笑いするしかない。


「アデリィ、ステイ」

「はーい」


 それはまるで犬の(しつけ)、ならぬ、ハイエルフの躾である。

 どうしても瑛斗に目を向けず、頬を膨らませてふてくされているようだ。


「ふんだ、こっちくらい見なさんな、ふーんだ」


 などと、誰にも耳には届かない程度に、かすれた小声でブツクサする。

 だって、瑛斗と二週間ぶりに会えたのだから、面と向かって話したかったのだ。

 いずれにせよアーデライードは、何かにつれて会話を割って入る性格の持ち主だ。如何なる場合でも、当然のように誰からともなく現れては、風のように去ってゆく。

 だからといって、瑛斗メソッドの『褒めて伸ばすタイプ』は、いつでもどこでも褒められたい。とっても褒められたい。いっぱい褒めちぎられたい。けれど二つ隣にたむろする、史上最悪のお邪魔虫だけは、絶対に完璧に阻止したい――などと、ヤキモキしながらヤキモチ焼きの、思春期全開真っ只中な妨害活動家であった。

 しかして恋なんてものはまだ疎い瑛斗となると、恋の駆け引きなんぞ知りよしもなく。全てが無駄遣い。それでもなりふり構っていられないのもまた、この世の常なのである。


「さて、と。森の中ではどんな状況だったんだ?」

「いーあらそいしてた」


 言い争いしていた――その一言で、ドラッセルがすぐさま反応する。


「や、待て待て、それは……」

「ちわげんか」

「ち、違うって!」

「きくにたえない」

「ぐっ」


 レイシャの切って捨てる辛辣さ。その一言で全員が全員、どっと大笑いした。いつもは笑わないドラッセルの後輩・オルソンとマルティンもである。

 もちろん痴話喧嘩などととばっちりを喰らったソフィアだが、レイシャだけは許してしまう。愛くるしい幼女でありながら、一刀両断にする切り返しは、お見事であった。


「あぁもう、オレの立場が。威厳も尊厳が微塵もねぇよ……」

「あーはいはい。朝食後のご歓談は、これくらいにして」


 朝食のお開きのご様子で、アーデライードが手を打ち鳴らす。


「そろそろエルヴィーラ救出作戦の本題に入るわよ」


 探索から救出へ――鶴の一声が効いたのか。それに見抜いた瑛斗は、背筋を伸ばして気を引き締める。改めて情報交換の確認と本筋となった、救出の作戦会議開始である。


「まずはドラッセルの番よ。今の状況を教えなさいな」

「いや、それは……」

「なによ?」

「いや、コイツらの手前でな……ううむ」


 返答に困ったドラッセルは、気まずそうな顔で口ごもる。

 巨躯の背中を縮こまりつつも、アーデライードに耳打ちする。


「実は、我が騎士団長のお達しでな。騎士団内では機密事項になってるんだ」

「んん? 銀の皿騎士団長のアギレラが?」

「そうなんだ。だからコイツら、いや、オレの後輩のオルソンとマルティンに、この件についての内情を伏せているんだ」

「ああ、そういえばこの子たち、里の視察と警備だと言ってたわね」

「そうなんだよ、だから……」

「だから、なによ?」


 全てに於いて即決即断なハイエルフは、端的かつ簡潔で容赦ない。


「ついでに言わせて貰うけど……オルソンとマルティンだっけ?」

「はいッス」

「ウッス」

「二人とも嘘は吐いていない。私が断言するわ」


 そう言うと、瑛斗の二つ隣にいるダークエルフの方に顔を出す。


「そうよね、レイシャ」

「ん」


 小さな魔法使い(キャスター)のレイシャは、律儀な表情でコクリと頷いた。

 ここ数日の間、エルフたちはオルソンとマルティンを観察していたのだという。恐らく、嘘を見破いて真贋する魔法など、多角的に見て判断したのだろう。


「よってこれは、精霊使いと魔法使い、両方とも総意の一致よ」


 ドラッセルやソフィアがこうなっては、もはや手出しの仕様がない。


「もう正解まで仕上がってきているのよ。だからこそ今の状況を教えなさいな!」


 アーデライードは、天へと声高らかに、あっけらかんと言い放つ。

 拍子木を打ったように会話の流れを断ち切ると、場の空気など躊躇がまるでない。


「ぐむぅ……っ」


 心の底から観念した面持ちのドラッセルは、口を真一文字に結ぶ。ドン引きである。今回の原因は「ハイエルフが一枚噛んだ元凶かも知れない」と諦観めいて悟りながら。


「今の状況は……進展なし、だ」

「よろしい。で?」


 アーデライードのいつもの口癖である。だが問い詰め方は手厳しい。


「なんでこの里に、わざわざ密偵までを向かわせたのかってこと」

「う、うむむ……」

「面と向かって、包み隠さず話しなさいな」


 見目麗しいハイエルフなれど、今に限って目つきだけはかなりキツい。

 だからこそドラッセルはまごついた。何せ恐れ多い高位精霊使い(シャーマンロード)の御前での舌戦なると心許ない。よって不器用で口下手な彼は、説明の脈絡が乱れがちだ。今こそ慎重かつ丁寧に推し進めなければなるまい、と自らの心に釘を刺す。


「……わかった。腹ぁ決まった。オルソンとマルティンもいいな?」

「ウッス、大丈夫であります」

「自分を任せるであります」


 巨躯な後輩であり任務に忠実、仁義に篤いほど心強いものはない。

 揺るぎない信頼を裏切らんと、意を決したドラッセルは口火を切る。


「今朝では、野生の勘だとか直感だとか言ったがな、それなりに証拠があるんだ」

「まずは、それを言ってみて」


 今朝と同じ轍を踏まないと、頭の中で整理つつ噛み砕いて説明していく。


「まずは――そうだな、前回の河原で見つかった香を焚いた灰のことだ」


 エルヴィーラの痕跡を残す、浅瀬の河原にある三角州の中心付近であった。


「香を使ってエルヴィーラの痕跡を消すこと。それは証拠隠滅するつもりだろう」

「その根拠は?」

「根拠はある。香についての種類と販路を虱潰しに調べたところ、公国府・ヴェルヴェドにある香舗(こうほ)の間で売り歩いた行商人と、里の接点があることを掴んだ」

「ふむ」

「さらに香の購入と使用方法を問い詰めると、件の屋敷が原因だと確認できた」

「ついでだけど、香の購入理由とその種類は?」

「何でもエルヴィーラ消息の日数と同じく、約三か月くらい前らしい。使われた種類は、主に空間の浄化や緊張をほぐす効果などがあるそうだが、それ以上は詳しく分からん」

「つまり?」

「よって香を使ってエルヴィーラの痕跡を消すために、誘拐、監禁による証拠隠滅ないし隠蔽を企てた、と推論づけたのだ……!」


 癖が身についてしまったドラッセルは、いつもの力任せに掌と拳をぶつけ合う。

 自らを落ち着かせようとしても、怒りを込めて、つい歯ぎしりまでしてしまう。


「では、件の屋敷にある、かなりの膨大な魔力の蓄積量については?」

「そうだな……魔法を使って何らかの方法で、屋敷内で拉致監禁しているのだろう」


 確かに屋敷内には今も、異常なまでに感じさせる魔力(オド)が蓄積しているようだ。


「最近に至っては、屋敷の周りは静かで不気味なまでに動きが見えない……以上、結論は結びつかず道半ばだが、これには何ががあるに違いないんだ」

「それが原因で密偵に向かったってワケ? ふん……まだまだ浅はかね」


 辛辣なアーデライードは、軽蔑に似た視線を向けて一笑に付した。


「あなたは密偵なんかじゃなくて、本気で屋敷に殴り込みに来るつもりでしょ? わざわざオルソンとマルティンを引き連れたのだって、きっとそうでしょうよ。でもね、だからといって怒り心頭にかまけて屋敷に打って出るなんて、莫迦げているわ!」

「むっ……だがな、エルヴィーラ探索途中にダークエルフの遺体は見ただろう? ヤツは間違いなく暗殺部隊の手先だった。そうなると、裏には必ず指示役がいるハズなんだ。もし情報漏洩となれば、先んじてエルヴィーラ暗殺部隊を再び送り込んでくるだろう。ならばこちらも先手を打たねば、暗殺阻止はできなくなるんだぞ!」

「そう。それはその通りだわ。でもあなたは先走りすぎて情報不足し過ぎなのよ。それとついでにソフィア、あなたは逆に慎重し過ぎる。もっと大胆で攻めなきゃダメよ?」


 ついでに「えっ、私も?」と面食らったソフィアは、とばっちりを喰らった。

 しかしアーデライードは、情報戦と交渉術は得意で大胆なのに、恋の行方はいつだって奥手――とは、今に至っては絶対に言えないし、誰にも口が滑っては言うまい。


「そのために警戒魔法(アラート)をばらまかせといて、正解だったんだけれど!」


 理解した瑛斗は「なるほど、そういうことか」と呟いて、腕組みしつつ頷いた。

 先んじて警戒を怠らなかったレイシャは、術者として有能であり忠実であろう。


「そう……だな。オレなんかの情報は乏しくて、探索の状況も芳しくない。とても悔しいが、反対派の連中からは、真犯人はエルヴィーラで彼女による殺人と逃亡だの、イリス姫暗殺計画の疑いだの、証拠の隠滅の恐れだのも、その線は消えてはいないんだ。確実な物的証拠や動機理由も見つからず、闇の中へと葬り去られるかも知れん。それでも里の視察と警備と銘打って、地道に密偵を続けるしかない……だがそれでは堪えられんのだ」

「ふーん、そう。ついでだけれど、内部機密に関わった人物とその人数は?」


 苦悩の内面を絞り出したドラッセルの居場所はどこへやら。素っ気ないアーデライードに翻弄された上で、さらに容赦なく峻断に追求された。そのおかげで面食らった顔と怪訝な顔が交差する。何でもかんでも聞きたがるハイエルフとは、実に困った御仁である。

 だが天下随一の六英雄の一人がここに御座すのだ。答えを出さねば仕方があるまい。従って説明する前に「騎士団内の機密事項だから内密で」と念を押す。


「先日にも話したが……ホラ、騎士学校時代に行軍訓練に参加した十二名の仲間でな。その仲間のエルヴィーラを除き、後輩のソフィアを加えて現在は、十二名だ」

「あなたのことだから、口を滑った人は、他にもいるんでしょ?」

「口を滑るとは失礼だな……そりゃあ、他にと言えば、騎士団長くらいだ」

「最初から言っているんだけれど、現在の隠れ里の状況が知りたいのよ。今の持っている情報を、正確に共有している者がいるとするならば?」

「ううーむ、そうなってしまうと、アードナーとエアハルトらが新騎士団設立などに手間かかっている最中なんだよ。だから一つ一つを消していくとなると、里の件での情報共有できる者は、公国府・ヴェルヴェド内に在籍中の銀の皿騎士団の連中しかない」

「それをさらにアンタたちや騎士団長を除いては、誰かしら?」

「だから、ええっと……オレらを除いて、合計で五名かな」

「よろしい。だったらそんなのもう、勝ったも同然じゃない!」


 みんながみんな、雲を掴むくらい何の話のようで、まるで話が読めなかった。

 もしや迷宮入りに組み入れるんじゃないかと、途方に暮れることこの上ない。

 だが、一人を除いては――


「アデリィとしては、珍しいね」

「なにさ?」


 真相究明の討議を耳を澄ませて傾聴していた瑛斗が、初めて口を開いたのは、意外な一言であった。


「ドラッセルに対して、こんな怒っているなんて」

「それはそうね、エイト。もうすぐに分かるから」


 ドラッセルは思い切ったか、懐疑的な面持ちで疑問を投げかける。


「な、なぁ、さっぱり情報が掴めないんだが……一体どういうことなんだ?」

「ふんだ。それじゃ今回に限り、あなたたちに教授(レクチャー)してあげるわ」


 じっと黙って聞いていたソフィアが、小さいながらも挙手をした。


「だったら、私からもお願いします、アデルさん」

「そうね、私だってしっかりと調査してたんだし、ねっ!」


 口を尖らせたハイエルフは、伸ばした指先をくるりと奇麗に回す。

 指を差したその先は、今回の旅の依頼者(クライアント)である。


「じゃ、こちらからも調査結果を報告するわね。瑛斗もいい?」


 若者ながら質実剛健な瑛斗は、何も言わずにこくりと頷いた。


「それじゃ、ちょっぴり謎解きをしましょう!」

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