東支部へ〜道中2
線路が爆破された列車は当然ながら制御を失い脱線し、横転したのちに車体で地面に削り取る形で進み、密林に程近い場所で停止した。
誰がどう見ても大事故であった。
しかしながら、列車自体があらゆる異常天候にも耐えられる様に設計された装甲列車であった事と列車の真下で爆破されていなかった事と場所が人里離れた密林の近くであった事、更には乗員乗客全員が戦闘用スーツを身に付けた戦乙女とハウンドであった事により被害はそれ程大きくなかった。
「───痛ッ……総員列車から脱出ッ!!衛生兵は負傷者を優先に救護ッ!戦闘騎士は外部の安全地帯の確保と衛生兵の補助ッ!機巧技師は積んである物資の確認をしろ!急げッ!!」
愛莉珠は横転の際の痛みに顔を顰めながらも隊に指示を行った。
「…ゔぅ……なぁ、お嬢。すんごい爆発だったけど、なんか聞いてる?演習あるとか」
愛莉珠の隣に座っていた理玖も頭を抱えながら起き上がってきた。
理玖も列車が横転した時に身体のあちこちをぶつけはしたが身体が頑丈なビーストであった為大した怪我も無かった。
「いやそんなのは聞いてないよ。というか密林の近くでそんなのやったら猿軍団と戦争だよ。リクはちょっと僕に付いてきて。あと魔狼を出して皆んなのとこに付けさせて。出来れば1人1匹で無理なら周りの護衛に4、5匹」
「わかった。………起きろお前達、仕事だ」
愛莉珠の命令を受けた理玖はそう言って自分の影を軽く踏んで合図をした。すると影から大型犬サイズの魔狼がわらわらと出てきて四方へと散って行った。
「………それでお嬢はこれから爆発した箇所を見に行くのか?」
「そうだよ。人為的なのか自然的なのか確認しなきゃいけないしね。リクは魔力と物理的な嗅覚で探ってみてよ。この前、匂い嗅ぐ事でその場所のある程度過去を視る事ができる異能力ゲットしたんでしょ?」
「したけど………あんま使いたくない。使うと頭がズキズキする」
「あー………、まぁ、今回は我慢してね?」
そうして2人は横転した列車から出ると爆発が起きた箇所へと向かった。
爆発が起きた箇所の地面は大きく抉れ、線路は無惨にもひしゃげて弾け飛んでおり、今も僅かながら煙が上がっていた。
「あれま……50年は持つ硬化結界仕込みの魔鋼製の線路がおじゃんになってるよ。爆発源は………これか」
愛莉珠は弾け飛んだ元線路を軽く検分した後、周りに多く飛び散っていたナニカの欠片を拾い上げた。
それは鈍色の鉱物の源石の様な物でひび割れて小さくはなっているが、元はそれなりの大きさの物であった事がわかった。
「なにそれ」
「これはマグナストーンっていう準危険魔鉱物さ。魔力を吸収する特性があって、破壊すると吸収した魔力量に応じて爆発力が上がるってやつ。昔、直径1メートルちょっとあったコイツが割れて街1つ吹っ飛んでクレーターが出来たって話がある。リクの銃の弾薬の材料にもなってるよ」
「なるほど」
「それより嗅いでみてなんかわかった?」
「………色々混ざってごっちゃになっているけど、少なくともここ数年は俺達以外の人は来てない。ここ最近のだとその石を担いだ何匹かのデッカい猿が視えた」
「……………まさか魔猿?いや待ってよぉ………ただでさえ、面倒な塊の猿軍団が爆弾使う知識覚えたとか巫山戯んなよ。爆弾はう○こ爆弾だけで充分だっての……」
異能力を使った事で痛み出した頭を抱えた理玖の報告に愛莉珠はゲンナリとした表情を見せて大きく溜息をついた。
「………これからどうすんだお嬢。飛んで東支部まで行くにも距離があるだろうから無理だろ」
「うん。まず、飛んで行くにしても砂漠のど真ん中にあるし、今のメンツはそこまで経験積んでないから事故る可能性があるからそれは却下。ここは素直に救援要請を出して待つしか無いよ。あと、今移動するにも夜中に突入しちゃうから列車のとこで野営だね」
「……………それ猿に刺激与えない?」
「距離があるから大丈夫な筈だし、密林から資材を取らずに騒がなければあっちも黙認する筈。さて、戻ろうかリク…………大丈夫?」
「………無理そう」
そう言って理玖は顔色を悪くしてその場にしゃがみ込んだ。
「やっぱ過去とか未来とかそういう次元関係は負荷が凄いんだね。リクはちょっと寝てな」
「いやでも………」
「そんな状態じゃ何もできないでしょうが。今は回復させなよ」
愛莉珠はそう言ってしゃがみ込んでいる理玖を背負って仮野営地へと向かった。




