北方支部へ〜完
水揚げされた玉鯨をその日の夕食にした次の日、特戦隊一行は次の支部へ出発する事にした。
「理玖チャン。もしそこの好き嫌いの激しい気分屋に嫌な事されたら逃げてもいいのヨ?アナタ、なんでも我慢しがちなんだかラ」
「大丈夫だよオ姉様。たまに変な事するけど、お嬢と一緒にいるのは好きだし」
「そう?………マァ、覚醒ビーストって最初のバディが1番相性がいいからネェ。ちなみに変なことって?」
「裸エプロンを着せてきたり、ローション塗れにしてきたり。あとはコスプレ」
「……………それされて嫌な思いしてなイ?」
「してないよ。コスプレは…………まぁ、ちょっと」
「ちなみに聞くケド、コスプレって?」
「チャイナにメイド服にゴスロリ。あと何故かマイクロ水着」
理玖とクリスティーヌがそんな会話をしている一方で件の好き嫌いの激しい気分屋は北方の戦士達の雪玉洗礼を受けていた。
「いや〜………寂しくなりますねぇ。ここには可愛さよりも筋肉第一な屈強な乙女くらいしかいませんから、中央のスレンダーなか弱い乙女が居なくなってしまうと華が無くなってしまいますよ」
「いや充分華がいるじゃんか屈強だけどッ、ちょっとなんで雪玉投げてくんのさ?!」
「寂しくなるから最後の思い出にと。なに……遊びの範疇さ」
「遊びで雪玉に氷仕込むやつがいるの?というか初日の雪玉よりも威力上がってるよ!?なんでみんな僕のこと殺そうとしてくんのかな?!」
「「気のせいだろ (でしょう)?」」
「絶対気のせいじゃない!!」
林杏とロザリアは共に微笑みながら……しかし腕には渾身の力を込めて雪玉を愛莉珠に向かって全力投球していた。北方の乙女達もそれに続いて笑いながら全力投球していた。
時折、雪玉がその力に耐え切れず空中で爆発を起こしているが、特に気にされている様子はなかった。
むしろ、特戦隊の面々は巻き込まれない様に一足先に次の支部行きの装甲列車へ逃げ込んでいた。
「お嬢。遊んでないでいい感じのところで切り上げて」
「リクゥ?!これがッ、遊んでッ、見えるのでッ!?」
「見える」
「見える?!本気で言ッブベラ!?」
愛莉珠が抗議しようと視線を理玖に向けた瞬間、誰かの雪玉がちょうど彼女の横顔にクリンヒットして、愛莉珠は軽く吹き飛んで凍った地面に頭を直撃した。
そして気を失ってしばらく経った後、クリスティーヌとの話を終えた理玖が気絶している愛莉珠を片手で持ち上げ、もう一方の手で彼女の頬に目覚ましビンタをくらわせた。
「………リク最近僕に酷くない?もうちょっと優しくしてよ」
目覚ましビンタを受けて意識を取り戻した愛莉珠はジト目で理玖にそう言った。
「お嬢は優しくし過ぎると付け上がるから。飴と鞭」
「僕は飴を要求する!」
「松茸味の飴ならある」
「その飴じゃない!!…………というかなんでそんな奇天烈な飴持ってんの?」
「この前、売店のおまけで袋で貰った。商品名は『世界のキノコ飴』。舞茸にブナシメジにエリンギに変わり種だとベニテングタケや黒トリュフとか」
「そんな悪魔の食べ物捨てなさい」
「意外と美味しいよ?ほら、お嬢も」
「嫌だ!!そんなゲテモノ食べたくない!」
そうして理玖は愛莉珠の口にその謎の飴を入れようとして愛莉珠はそれを当然のことながら拒み、飴を奪い取っては理玖の口に突っ込む事を繰り返していた。
「なぁに2人して遊んでるのヨ。さっさと列車に乗りなサイ」
そんな2人を見かねてかクリスティーヌは2人をそのまま持ち上げた後、列車の中に放り込んだ。
「理玖チャン。たまにはこっちに遊びに来てヨネ。元気にしてるのヨ」
「わかった。オ姉様こそ風邪とかに気をつけて」
「いや、極寒で常時バニーコスのウサ耳ゴリラに風邪の概念とかないでしょ」
「黙らっしゃイ」
そんなこんなで列車は発車して、次の目的地である東支部へと向かった。




