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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第5章
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鏡に咲く二季草〜終

「………それで?何か弁解はありますか?」



「「ありません。申し訳ありませんでした」」




ウィステリアの捕縛が完了して一夜明けた次の日、愛莉珠と理玖は夜奈の執務室に呼び出されて、その部屋の主の前で正座させられていた。



理由は明白で神崎からの報告でウィステリアは理玖の最後のダメ押しのせいで白目をむいて泡を吹いて意識を失っていた。途中、呼吸困難になっており、流石にやり過ぎだったという事で説教が始まったというわけである。




「今回は状況が状況でありましたから、手段は問わないと言いましたが、それでも限度というものがあります。わかっていますか?」



「「………はい」」



「彼女には今後ユグドラシルでしばらく療養させた後に今までの慰謝なども行って、できればテルゼウスで後方勤務をしてもらいたかったのですが…………医療部の見解ではかなりの確率で今回の脅かしがトラウマになっているとの事。とりあえず理玖は戦闘スーツを着た状態で不用意にウィステリアに近づかない様にしてください」



「………わかった」



「なんで戦闘スーツだけ?」



「あの暗闇で形がはっきり認識できるのが理玖の戦闘スーツの形状だったからです。………まぁ、理玖の特徴的な尻尾などからも連想されるかもしれませんが」



「…………それって僕もじゃない?」



「そうですね。というわけで、しばらくの間貴女達には今年度入隊した隊員を連れて各支部を周って来て貰います。これは毎年行っている新人達の挨拶周りと各支部の通過儀礼ですから。理玖の方は覚醒ビーストとなった件の顔合わせです。


その間の隊の維持は白銀(しろがね)副隊長にしてもらいます」



「あれ?(ぎん)ちゃん帰って来たの?」



「えぇ、つい先程。では準備の方をお願いします。出発は1週間後です」




そうして夜奈からの説教兼指令が終わった。




***




「いやぁ………やらかしたねぇ」



「やらかした」



「しっかしまぁ、そんなに怖いもんかな?あれって。僕は別に怖くなかったけど」



「俺もそんなには。参考の映画をマイルドにした筈」



「だよねー」




夜奈の執務室を後にした2人はまず最初にそう話し始めた。



…………そもそも2人のホラーに対しての耐性は非常に高い。まずスプラッター系とサバイバル系とパニック系は2人の仕事の関係上慣れており、サイコ系は愛莉珠の方はお家柄でよくある事な為で理玖は『人を切り刻むってどんな感触だろう?』といった具合にかなりズレた思考のせいでいまいち恐怖を抱けずにいる。



オカルト系は何故か愛莉珠は大爆笑して、理玖も笑いはしないもののコメディ物を見ている様な雰囲気を出している。



この様にこの似た者同士の2人は普通と定義される人の反応とはかなり違うものとなっている。



ちなみに神崎も2人と似た様な感じであり、逆に夜奈はホラー系は無理である。ウィステリアは言わずもがな。




「………そういえば、副隊長の白銀って人どんな人なの?」



「そうだねぇ。見た目はボーイッシュで性格は………明るいわんこ系かな。あと、覚醒ビースト持ち。ちなみにその覚醒ビーストは理玖と同じで元男。そっちの方が話がしやすいんじゃない?」



「そうなんだ……」



「───あっ!いたいた!アリス先輩ー!お久しぶりでーす!」



「………噂をすれば。はいはい久しぶり銀ちゃん、元気にしてた?」




と理玖がまだ見たことない特戦隊の副隊長について愛莉珠に聞いているとちょうどよくその件の人物がやって来た。



スタイルは全体的に細く、背は理玖よりも少し高いくらいであり、セミロングの茶髪に透き通った水色の丸みを帯びた瞳はどこか人懐っこい子犬を思わせる。服装はオフなのか白いジャージにタックショートパンツのみとなっている。



そして、その彼女の後ろには彼女よりも頭2つ分背の高いビーストがいた。



毛先に行くにつれて赤みがかる金髪を腰まで伸ばしてポニーテールにして纏めてあり、スタイルの方は愛莉珠とタメ張れるほど抜群である。特に胸部装甲はかなりのものである。容姿の方も整っているのだが、銀色の瞳は死んだ魚の様な目になっている。背中からは身体を覆い隠せる程に巨大な蝙蝠の様な翼が生えており、腰には爬虫類を思わせる鱗に覆われた金と赤のグラデーションがある長い尻尾があり、頭には後ろに流れる様に野太い角が生えていた。



そして服装は何故かミニスカメイド服だった。




「もちろんですよ!いやぁ、たまには思いっきり暴れるのも悪くありませんねぇ。……お?アリス先輩、その隣にいるのは噂になっていた先輩のハウンドですか?」



「そうだよ〜。ほらリク、この子がさっき話してた特戦隊の副隊長の銀ちゃんだよ。んで、後ろで死んだ魚の目やってんのが覚醒ビーストの柔造」



「初めまして!第二特殊戦闘部隊副隊長の白銀(しろがね) (さつき)って言うよ!よろしくね!で、こっちのドラゴン娘が………ちょっとテンちゃん!いつまでもそんなしょげた顔してないの!ほら自己紹介!」




見た目通りの元気の良い自己紹介をした皐は明らかに疲れた様子でいる後ろのハウンドに自己紹介する様に急かした。




「……………天野(あまの) 柔造(じゅうぞう)。……よろしく。言っとくがこの服は俺の趣味じゃねぇ。このチビとの賭け事で負けたからだ」



「大泉 理玖です。よろしくお願いします。……………大変ですね」



「あぁ………大変だ。君は元の性別はどっちだった?」



「男です。最近、ようやく慣れて来ました」



「そうか……俺も男だったんだ。大泉くんはよくこんな格好されてるのか?」



「されてますね。お嬢の実家のメイド服とかチャイナ服とかゴスロリとか。酷い時は裸エプロンです。そちらは?」



「………ビキニにボンテージにアイドル衣装」



「………大変ですね。正直言ってジャージがいいです」



「それな」




2人の自己紹介と会話はそこで終わり、2人は遠い目になった。




「いやリクは最近ノリノリじゃんか。メイド服になるの。いつもの化け物拳銃2丁でハイテンションでバトってたし」



「それとこれは話が別」



「大泉ちゃん、拳銃使いか。ウチのテンちゃんはパイルバンカー2丁でゴリゴリの脳筋スタイルだよ」



「パイルバンカー………あったんですか」



「あったんだよ。今んところ俺以外で使っている奴いないけど。………それより大泉くん。君に確認したい事があるがいいか?」



「なんですか?」



「そのぉ…………君は殴られることに快楽を覚えたり、実は本性がゴリマッチョだったりするかい?」



「俺はM思考じゃないですよ。痛いのは嫌ですし。筋肉には憧れていますが、今のこれが素です」



「………………………あぁ、まとも枠だぁ」




天野は理玖の回答を聞くと膝から崩れ落ちたかと思うと急に安心した様な表情を浮かべて泣き出した。その急な変化に思わず理玖は愛莉珠の背後まで逃げた。




「いや、まとも枠って……そりゃあ他と比べたらリクはまともだけどさぁ。覚醒ビーストって大体ぶっ飛んでんじゃん」




急に泣き出した天野に愛莉珠も少し引き気味でそう言った。




「そのぶっ飛び方がエゲツないんですよッ!論外ドMにエセオカマに虫狂いの爆弾魔に変態サイコパスッ!!女性陣だって物理的に光ってる騎士とか取立で身体毟ってくる守銭奴とか性格クズな不幸体質管轄長とかッ!!まともな奴がいないんですよ!


大体、なんで管轄長はいっつも俺ばっかりアイツらの舵取りさせてくるんですか!?トップやってんのになんでですか!?局長と乳繰り合ってる暇あんならあの変態共の舵取りくらいしろよあのババァ狐ッ!!」




愛莉珠の言葉に反応して天野は今まで溜め込んでいたのか鬼気迫る勢いでそう叫んでいたその時だった。




「───誰が性格クズな不幸体質でまともではないババァ狐じゃと?」




いつの間にか現れた神崎が天野の頭を鷲掴みにした。天野が顔を青くして見てみれば、額に青筋を浮かべて黒いオーラを背負った笑顔の神崎が居て、天野は思わず『ピィ……』と鳴いた。




「どうやら躾が足りん様じゃな。白銀や、ちいと此奴を借りるぞ。良いな?」



「あー……、うん。いいよ」



「あ、ちょっと皐?待って、待ってください、待ってください管轄長?!すみませんすみませんすみませんでしたぁぁぁぁぁ!?!?」




そうして天野は黒い笑みを浮かべた神崎に頭の角を掴まれてどこかに引き摺られていった。




「とりあえず、今後の打ち合わせしよっか銀ちゃん」



「そうですね」




愛莉珠と白銀はその後、白銀が不在だった時に変更になった点や追加された業務などの説明を行って解散となった。



…………ちなみに天野がどうなったかは不明である。


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― 新着の感想 ―
[一言] 取り敢えず(ʘᗩʘ’)確保完了、後は医者に任せる、形になったが(٥↼_↼) 次会ったら漏らさんといいが(-_-;) そして新キャラで理玖とほぼ同類(元男)のドラゴン娘?(゜o゜; しかも…
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