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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第5章
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鏡に咲く二季草〜7

〜sideウィステリア



表の繁華街の華やかな街並みとは違って裏街は奥へ行くほど混沌としていく。まるで光と影みたいに。



裏街の奥には色んな物がある。



表と同じ日用品から始まり、違法魔導具や魔獣の素材に捕獲が禁止されている魔獣の幼体に違法薬物とかほんと色んな物がある。



様々な目的を持った人々が行き交う中で私は馴染みの店に向かっていた。



その店は裏街の奥の中でも比較的治安が良い場所に在って、金さえ払えば店にある物に限りなんでも売ってくれる。………例え情報でも。



店に入ると来客を告げる壊れた電気ベルの音が鳴って、店内の何とも言えない匂いが鼻腔に着いた。




「いらっしゃい……なんだ鏡猫か。今日も仕事関係か?」




店の奥のカウンターには小太りの店主が葉巻を吹かしながら新聞を読んでいて、私を見るなりそう言った。ちなみに『鏡猫』はここでの私のあだ名だ。




「そうよ。材料はあるだけ頂戴。あと薬も」



「はいよ。というかお前さん、派手にやったみたいだな。今回も同じとこか?」



「言うわけないでしょ。アンタがどこに情報を売ってるかわかったもんじゃないからね」



「そりゃあそうだな」




私がそう言い返すと店主は鼻で笑って店の倉庫へと消えていき、しばらくすると戻って来た。




「はいよ。とりあえず前回頼まれた分だけは置いておいたぞ。それと薬は流通の関係で少し量が減った」



「減ったってどのくらいよ?」



「大体10分の1くらいだ」



「……………まだ誤差の範囲ね。ありがとう、金はこれで足りる?」



「あぁ、足りるぜ。毎度あり……………そういやぁ、聞いたか?鏡猫」




目的の物を手に入れて代金を払った後、さっさと帰ろうとした時、店主が何かを思い出したかの様に言った。




「なによ?」



「確かお前さんの復讐相手だったか。アナ・グラウシスって奴が数ヶ月前にぽっくり逝っちまったらしいぜ?なんでも、かの有名な『極氷姫』様のハウンドに手出して、暴走させて取巻き共々そのハウンドに喰われちまったって話さ」



「…………………………は?」




一瞬、何言われたのか分からなかった。



あのクソ女は実戦こそ出てなかったけど、実力はあった。取巻きも権力に物言わせたとはいえ、一級相当の実力者揃いだった。



そいつらがハウンドに喰われた?あり得ない。




「まぁ、といっても最近出回り始めた噂だけどな。……ま、あの家系の連中は取り返しが付かなくなったらそうやって定期的に雲隠れするから信憑性は低いがな。いつも贔屓してもらってるからオマケの情報だ。金はいらんよ」



「……………」




そうして私は店を後にした。




─────その日の夜、店で言われた事が頭の中でぐるぐると回っていた。



元々、腐っても実力派のアイツらに対して、絡め手くらいしか出来ない私には復讐なんて根本的に無理な話だったから諦めていた。



というかあの店に集まる情報は6割ほど嘘っぱちだ。あまり信用度は低い。



けど……仮に…………仮にあの情報が本当だとしたら、私を貶めたアイツらはもうこの世にいない。



ざまぁないなと思ってもなんだかやるせない気持ちが胸の内でモヤモヤとしていた。





────材料を買い揃えて必要数の爆弾を作り終えた数日後の夜、私は目立たない様にどこにでもいる様で尚且つ動きやすい服を着て、目的の場所へと向かった。



念には念を入れて、路地裏経由で転がっている酒瓶や割れたガラス片などの反射して写るものを使いながら向かった。



建物以外被害はなかった筈だけど、テルゼウスも何かしらの対策はとっているだろうし、現に下見の際には警備も増えていた。



けれど、やる事は変わりない。



建物の破壊は意外と難しくない。建物を支えていく柱をいくつかを爆破すればあとは自重で勝手に倒れていく。ジェンガとか積み木のお城とかと同じだ。



私がするのはどれだけコストを抑えて尚且つ素早く事を成すかだ。



その為に必要なのが仕事の際に必ず飲む強化魔法薬。服用すると魔術師ならば魔法の威力や効果がハウンドであれば異能力が大幅に強化される代物。副作用は非常に強い依存性と乱用による免疫能力の低下などが挙げられる。完全にアウトな薬だ。



ちなみにこの薬、飲むと気分が少し良くなるから定期的に服用している。



……………私は別に副作用の事は気にしちゃいない。だって、死ねるなら死にたいと思ってるし。



そうして私は薬で異能力をブーストして、目的の建物であるテルゼウス名義の雑居ビルに侵入した。



………なんでビルばっか指定してくるだろうか依頼主は。目立つは目立つけど、もっと他にもあるだろが。



そうして監視カメラの目を避けながら重要箇所の柱に爆弾を設置している時、ふと違和感を感じた。




「……………静か過ぎる」




そう、静か過ぎるのだ。人が出す音がしないのはまだわかる。けれど、空調の音や侵入する前まで聞こえていた外の僅かな喧騒までも聞こえないとすると明らかに異常だった。



嫌な予感がして、今すぐここから離れようとした次の瞬間、自分よりも巨大な肉食獣がその顎を開けて喰らい付こうとする様な殺気に襲われた。



私はほぼ反射的にその場で出せる全力の回避行動をした。そして、私が回避行動をしてからほんの一瞬間を置いた後、至近距離で大砲でもぶっ放したんじゃないかってくらいの轟音が鳴り、さっきまで私がいた場所からほんの少しズレた場所が爆散した。



突然響いた轟音とそれが齎した何かの威力に全身から冷や汗が止まらなくなり、心臓も鼓動がうるさく感じるくらい鳴っていた。



…………電気が付いてい無いせいで暗く奥までよく見えない廊下の先から『ソレ』がやって来た。



夜に溶け込む様な肌の露出が一切ない真っ黒な軍服を着ており、軍帽の端から覗く茶色みがかった獣耳と腰辺りから伸びる3本の尻尾から相手はビーストだとわかる。その両手には明らかに常人が使う事を想定されていない赤黒く鈍く光っている銃剣が付いた大型の拳銃が握られていた。



そして、その両手両足は獣のそれを模した鎧の様なものとなっており、尻尾も何処ぞの物語か何かに出て来そうな先端に死神の鎌みたいな形状の刃をつけていた。



なにより………その深く被った軍帽から覗くその顔はまるで三日月の様にぱっくりと裂けた笑みを口元に浮かべて、感情を感じさせないアメジストに似た紫色の瞳が私を見ていることにゾッとした。



一歩一歩、近づいてくる度に感じた事のないプレッシャーが襲いかかってくる。近づかれる度に冷や汗の量が増えていく気がして、鼓動も早くなってきている。



そして、『ソレ』はゆっくりとまるで私に見せつける様に右手を挙げて………ジャキンッと音を立てて銃口を私に構えた。



気づけば私は『ソレ』に背を向けて逃げていた。依頼なんてどうでもいい。ただ一刻も早く逃げたかった。



走っている途中で後ろから狂った笑い声がして、早くもなければ遅くもない靴音が私を追いかけてきた。



その笑い声を聞いた時、『怖い』と思うよりも捕まったら『喰われる』という感情が逃げる私の頭の中を占領していった。

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― 新着の感想 ―
[一言] わかりやすくも会っちゃいけない奴、遭遇したら最後、ホラーゲーム夜露死苦・悪夢の鬼ごっこになる狼さんに会ってしまったぞ(٥↼_↼) 一応保護が目的なだけに殺しはせんだろうが(ʘᗩʘ’)明らか…
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