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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第4章
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講演会の後の日常〜1

講演会の後、理玖は学校に行きたくなかった。



愛莉珠のハウンドと全校生徒に知られてしまった今、行けば確実にえらい目に遭う。それも転校 (表向きは)初日とは比較にならないくらい。



更には愛莉珠が全校生徒の前でやらかした(濃厚キッスした)せいで過激なファンとかがアップし始めている筈。主に学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る幼馴染2人とか。



だが、根は真面目な理玖は学校を病気や急用以外で休むのは抵抗を感じていた。その為、非常に……非常に行きたくはないが行く事にした。



尚、講演会から帰宅した後の夕食は愛莉珠が昔死ぬほど食べさせられたせいで嫌いになったキノコになり、風呂と寝る場所が別になったのは別の話。……………しかし朝起きると理玖が愛莉珠の抱き枕になっていて、いつの間にか2人仲良く寝ていたのも別の話。



そうして行きたくない行きたくないと思っていると群れの最上位(アルファ)を心配してか魔狼が彼女の影からひょっこりと顔を出してきた。



その光景を見た理玖は頭の中のひらめきの豆電球に光が灯った気配を感じた。




***




衝撃的な講演会の次の日、理玖が通う学校の特別科……つまり理玖のクラスはかなり浮ついた空気を纏っていた。



今まで一体どんな人物のハウンドか分からなかった転校生のバディがあの日遂に分かったからである。



魔術師は横の繋がりを大切にする。その繋がりに戦乙女も含まれている。その中でもハウンドの情報の共有は必須であった。理由は下手に手を出してそれが家系同士の争いの火種となるのを防ぐ目的と対応を誤れば危険な異能力が暴走する可能性があるからである。



しかし今まで色々と調べていたが理玖が誰のハウンドか分からなかったのだ。………ちなみにそれは愛莉珠と夜奈が自身が持っている全ての権力を総動員して隠蔽していた為である。



魔術師の家系の生徒は理玖をきっかけとして戦乙女の中でも指折りの実力者である愛莉珠とコネを作りたい、ビーストの生徒はかの有名な戦乙女のハウンド生活がどんな感じなのか聞きたいという考えがあって理玖と話がしたかったのだが、始業時間間近になっても件の人物は現れなかった。



大方、講演会のアレで行きづらくなっているか急な用事が入ったから来れないだろうと大多数の生徒は思った。



そして授業開始のチャイムが鳴り、教科担当の教師が点呼を取り始めた。五十音順に名前が呼ばれて、呼ばれた生徒が返事をしていく。理玖の苗字はア行なので呼ばれるのは早かった。しかし、名前を呼ばれても当然いない為返事はない。




「─────大泉。大泉はいるか?」




教師が少し声を大きくして確認した。すると………




「います」




聞き覚えのある感情がこもっていなさそうな声が聞こえてきた。



その場にいる全員が一斉に振り返ると先程まで空席だった場所に理玖が座っていた。しかもいつの間にか必要な物も揃えてあった。




「そうか。それじゃあ次は大島──」




クラス全員が唖然としている中で教師だけが普段と変わらない態度で出席確認を続けた。ちなみにその後の授業中、教師と本人を除いた全員が気になってしょうがなかった。



そして授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教師が授業を締めると理玖に用があるクラスメイトは一斉に席から立ち上がって、我先にと彼女の元へ向かおうとした。



…………だが、そこから理玖はいなくなっていた。



椅子も机も朝の時とほとんど変わらない位置にあって、先程まで机の上に広がっていた教科書類も無くなっていた。



まるで最初からそこに誰もいなかった様に。



消えた理玖に周りが騒然とする中、1人だけある一点を見つめている人物がいた。それは詩織だった。彼女は理玖の机……というより机の下の何もない空間を見ていた。




「…………何見てるの詩織?なんかあったの?」




まるで猫が獲物を狙うかの様にジィ…っと見つめる詩織に美桜がそう聞いた。しかし、詩織は何も答えなかった。



そして、しばらく待ったが次の授業の始まりが近づいて来た為、全員が席についた。そこでふと理玖の席を見るとそこにはいつの間にか理玖が座っていた。



その日からしばらくの間、そんなことが続いた。




***




理玖が行った対処法とは自身の影の中に避難することであった。



理玖の影の中は普段魔狼達の居住スペース兼武器倉庫となっており、そこに潜れるのは理玖本人か魔力でゴリ押した愛莉珠か夜奈くらいである為、避難所には持ってこいである。



ただ、この影の中は非常に騒がしい。



気性の荒い魔狼達はストレス発散の目的で定期的に順番で外に出ているが何せ何万匹と存在している為、そのサイクルは非常に長い。



(狩り)に出れなくて欲求不満な魔狼達はどうにかしてそのストレスを発散させようとした。何故なら自分達はいわば理玖(アルファ)のコピーみたいなもの。1匹2匹ならまだしも何百から数千単位で自分達が不調を来たせば理玖(アルファ)も体調が悪くなる。



理玖(アルファ)の方は定期的に愛莉珠が夜のアレコレとかで色々発散させてる為、一応問題ないが気休めである。



そこで魔狼達が思い付いたのが影の中での大乱闘である。



手脚が千切れようとも胴体が弾け飛ぼうとも頭が吹き飛ぼうとも気にせずにひたすら魔狼同士で殺り合った。



どんなに傷ついても身体全てが魔力で構成されている彼らにとってそれは致命傷ではないし、身体が欠ければ肉餌を喰えばいい。



ちなみにこの大乱闘のヤバさというのは以前興味本位で覗いた戦闘のプロである愛莉珠が真顔になって「どんな報酬を貰えても絶対あそこに行かない」と言わしめた程の地獄であった。



更にそこに以前のボイド虐殺パーティ☆で手に入れた自身が手にしたものを吸収し己の肉体の一部にする能力を使って、レイチェルがお遊びで作ったありとあらゆる銃火器及び弾丸を魔狼達が『空想錬金』でコピーして吸収した。



………結果、身体の両脇からは対物ライフル並みの威力の弾をガトリング砲で縦横無尽にブッパして顎からは超高熱ビームを放ち、更には体当たりするとC4爆弾を余裕に超える爆発を起こす地獄の番犬すらも顔から色んな汁を出して尻尾巻いて全力逃走する魔狼が出来上がった。



そうして理玖の影の中は毎日轟音と銃撃音とビーム音と魔狼の雄叫びと微かな肉餌の悲鳴で満たされており、理玖は休む事が出来なかった。



ちなみにこれは影の中での出来事で外には一切被害はない。



更に言えば愛莉珠は素行の悪い隊員にこの地獄の大乱闘を見せて、次やらかしたらここにぶち込むと脅していたりする。今のところ効果は抜群である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 律儀な奴だな理玖も(ʘᗩʘ’) 影に引きこもりつつも学校には通うとは(゜ο゜人)) でもその影の中が安全圏ってわけでもないのか(٥↼_↼)
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