子狼の微睡み〜3
「いやぁ、子供は体温が高いってよく聞くけどほんとなんだねぇ。凄くあったかいし、どこ触ってもぷにぷにだし」
「……むー」
そう言って愛莉珠は笑いながら理玖を抱きしめた。もちろん幼児という点を気にかけてかなり加減して抱きしめているが。
そして理玖はというとそんな愛莉珠を鬱陶しそうに彼女の顔を手のひらでグイグイと押して離そうとしていた。
そんな嫌がっている行動も愛莉珠からすれば可愛い行動に見えてしまう。ぺしぺしと叩かれても別に痛くも痒くもない。
「………ねぇね、あかいボールちょうだい」
遂に我慢の限界が来たのか理玖は夜奈の方に体を向けてそう言った。
「赤いボール?…………あぁ、アレですか。いいですよ」
夜奈は初めは何の事かわからなかったが、すぐに思い出して懐からピンポン球よりもやや小さい赤い玉を取り出して理玖に手渡した。
「えーと、リク?それはなにかn「…せいばい」ァア゛ンギャアアアアアッ!?!?」
何かただならぬ気配を察知した愛莉珠がその赤い玉がなんなのかを聞こうとした時、理玖がその赤い玉を手のひらに乗せてそのまま愛莉珠の眉間に向かって叩きつけた。
赤い玉は見た目よりも軽い音で割れて中から赤い粉が愛莉珠の顔全体を覆った。その瞬間、顔全体に強烈な痺れと痛みが降りかかり堪らず愛莉珠は乙女らしからぬ絶叫を上げてしまった。
──理玖が夜奈からもらった赤い玉の正体は夜奈が常にストックしている唐辛子爆弾である。
普段の用途は目に付いた暴徒に向かって投げ付けて鎮圧するものだが、元々は幼い理玖の防犯用に作ったものである。
理玖と夜奈の関係は秘匿されていたものの、第二特殊戦闘部隊の隊長と副隊長の子供というのもあって狙われたりもしていた為である。
尚、その唐辛子爆弾の効果は愛莉珠の悶絶具合からよくわかる。
理玖は崩れ落ちた愛莉珠を踏み台にしてそのまま夜奈の元へ走って行った。
「無事ですか理玖?」
「……ねぇね、あのひと、ママよりいいにおいだけど、へんなひと」
「アレはそういう人です。……ほら、前にもいました上着だけ着て、誰かの前に行くと上着を脱いで小さなゾウさんを見せてきたあのおじさんと同じですよ」
「……ママがぞうさんをけってころばせて、ぞうさんふみつけられたおじさん?」
「そうです。アレはぞうさんはいませんが、見えないぞうさんを持っているのですよ。あといい匂いなのは貴方を食べようとしているからですよ」
「お゛いちょっと待て。な゛に僕のリクに吹き込んでんだグソババァ」
夜奈の説明に対して何とか復活した愛莉珠は若干の鼻声になりながらもそう反論した。
「……しろいおねえさん」
「ん?それは僕のこと?僕の名前は愛莉珠だよ。お嬢と呼んでもいいからねリク」
「おじょ」
「ん〜〜………やっぱり可愛いねぇ」
愛莉珠がそう言って顔を緩ませながらまた理玖を抱き上げようとするが、理玖は夜奈の後ろに隠れて身を守った。
「礼華隊員。理玖は私達で預かりますので」
「あー、うん。そうだね。いきなり知らない人と一緒は不安定になるだろうし」
「決まりですね。……ではリク、ねぇねとみーねぇのお家に行きましょうか。そこの白いお姉さんに挨拶をしましょう」
「うん。バイバイおじょ」
「また明日ね〜」
そうして夜奈達はそれぞれの自宅へと帰っていった。
年末年始で忙しいので来週と再来週はお休みします。
少し早いですが良いお年を




