事件発生
『ポーション』
それは魔術師ではない一般人が『魔術師が持っていそうな道具は?』という質問をされて杖や魔道具の他にそれなりに候補に上がる魔法の薬。
魔術師にとってポーションとは魔法を液体という形にして保管しているもので基本有事の際に使用する為に備える物であったが、今では廃れてきている。
というもの液体で持ち歩くには当然容器が必要であり、その容器もそのポーションに合わせて作らなければならない。また、使用する際にも量が多くても少なくても上手くポーションの効果が現れない。
更に付与護符板が発明されて量産されて以降、使い勝手が良く嵩張らないといった具合で付与護符板の需要が増え、逆にポーションの需要は更に減っている。
ただし、ポーションでないと効果を発揮しない魔法もある為、完全には廃れてはいない。
最近では回復薬などの魔法薬もポーションと呼ばれる様になってきており、その名前が一緒であるから故の誤飲事故なども度々起きている。
そして現在、第二特殊戦闘部隊の押収品保管庫でその事故が起こった。
「こ、こっちに来るなぁ!というか使い魔なら言う事聞きなさいよ!?」
被害者は『現状保持』の魔法が入ったポーションを頭から大量に被ってポーションの不完全作用により『現状保持』ではなく術式ベースが同じの『現状退化』により成人から子供となり、その際記憶も退化した。
月の様に輝く長い銀髪はふわふわとした雪の様な銀髪に少し釣り目気味な紅眼は丸い苺の様になり、端正な顔立ちは幼さ特有の丸みを帯びた可愛らしさのあるものとなっており、ブカブカとなった服は子供化以前に着ていたとても見覚えのある白い軍服ドレス。
………そう、被害者は第二特殊戦闘部隊隊長の礼華 愛莉珠である。
そしてその子供化した愛莉珠と対面しているのは当然彼女のバディである理玖である。
理玖は子供化した上に記憶喪失になってしまった愛莉珠の前に棒立ちしていた。ひと言も喋らずただアメジストに似た紫色の瞳をジィ……と目の前の涙目になっている幼女愛莉珠に向けながら。
その光景はミィミィ鳴いて怖さよりも可愛さが勝る威嚇をする子猫を物珍しげに眺めている大型犬の様であった。
理玖が一歩近づけば愛莉珠はおっかなびっくりに後ろに下がっていき、そんなよくわからない攻防をしていると遂に愛莉珠は部屋の角っこまで追い詰められた。
最後の抵抗と言わんばかりに愛莉珠は現状使える魔法を理玖に放ったが、魔力関係を無効にできる理玖には全く通用せず、目と鼻の先まで接近されてしまった。
………尚、何故バディである愛莉珠の命令権が理玖に通用していないかというと単純に魔力不足だからである。
結果、何も覚えていない愛莉珠からすれば知らない場所で契約しているのに言う事を聞かない上に自分の魔法が効かない明らかな格上がただ無言で接近してくるという危機的状況が完成された。
もはや涙を流して震える事しかできない愛莉珠を上から下まで観察した理玖はそのまま彼女に手を伸ばして自分の方へ手繰り寄せた後、涙で濡れた顔をポケットに入れてあった手拭いで拭いた。
そしてその後自分が被っている軍帽を愛莉珠の頭に被せた後、彼女を抱き上げて保管庫の入り口へと向かった。
「随分捕まえるのに手間取った様じゃな理玖坊」
入り口付近で待っていたのは近場のスーパーの袋を持った神崎であった。
「うん、まさかお嬢に泣かれるとは思わなかった」
「その愛莉珠はおそらくまだ学院にすら行っておらん箱入り娘じゃろからな。オヌシがよく知る豪胆なあやつとは違うぞ」
「そうだね。………というか今のお嬢凄く甘い匂いがするんだけど」
「間違っても食うんじゃないぞ?」
「わかってるよ………うん」
「ほんとにわかっておるのか??」
そんな会話をした後、神崎はスーパーの袋から棒付き飴を取り出すと包装を取って理玖に抱き上げられている愛莉珠に手渡した。
先程まで泣いていた愛莉珠は飴を渡されたなり目を輝かせてそれを受け取って食べ始めた。
「あの『白銀の狂竜』も幼い頃はこうも愛いものだったんじゃな………時間とは恐ろしいのぉ」
目を輝かせて飴を食べている愛莉珠を見ながら神崎はそう呟いた。
そんな愛莉珠を理玖はまた無言で見つめており、その視線に気づいた愛莉珠は飴はやらんと言わんばかりに飴を遠ざけた。
彼女のその行動に何を思ったのか理玖は愛莉珠顔に自分の顔を近づけて彼女の頬をベロリと舐めた。
理玖の奇行にあり得ないものを見たと言わんばかりの表情の神崎に突然の事に何が何だかわからない様子で目を白黒させた愛莉珠。
「うん、やっぱり甘い」
そんな周りの事などお構いなしに今度は匂いを嗅ぐ理玖とその場はカオスであった。




