抵抗戦線〜始まり
ユグドラシルに銃声と爆発音が鳴り響く。それは訓練などではなく戦闘によるもので建物は崩れてあちこちで黒煙が立ち昇っている。
上空には薄い皮膜の様なものがユグドラシルをドーム状に覆う様に展開されていた。これは対ハウンド弱体化結界であり、これが展開されている間は戦乙女と契約して身体能力などが向上しているハウンドは全員一般人のビーストレベルまで身体能力が落ちて異能力も使えなくなる。
つまり暴動を起こしているのはハウンドであり、ユグドラシルに常駐している戦乙女はその鎮圧に当たっているのである。
そして今現在抵抗が激しい場所では他とは比べ物ににならない程の爆発と銃声が鳴り響いていた。
『コラァッ!!いい加減抵抗を辞めて大人しく捕まれ駄犬共ォッ!!今なら拘束はすぐに終わるからッ!』
「じゃかわしいじゃボケェッ!!ウチらは騙されへんでッ!?すぐ終わるつうたって丸一日拘束するやろがッ!!」
『それは暴れるからでしょ!?大人しくしていればすぐに終わるわッ!!いいから無駄な抵抗を辞めて出てこいッ!!今なら北方で獲れた最高級品の山盛りの肉があるぞッ!!』
「そんなんで出てくる阿保がおるわけないやろがッ!!」
戦闘の最中、銃声と爆発音に負けない程の会話が続いている。片方はメガホンを持った鎮圧部隊、もう片方は武装した抵抗軍で膠着状態である。
「………金持姉さん。ロケランの催涙弾あと3つだけだよ。あとは唐辛子爆弾くらいしか」
「よし唐辛子ぶち込め。いいかオメェらァ!!死ぬ気で抵抗するぞォ!!!」
「「「ウォォォォォォォッ!!!!」」」
地下倉庫の管理人である覚醒ビースト金持の呼びかけに続く犬系のビーストの雄叫び。
その光景に理玖はどうしてこうなったのかと遠い目をしていていた。
***
────ことの発端は数日前の愛莉珠と理玖の日常の会話からであった。
「あぁそうだ。リク、今度の土曜日予定空けといてね。予防接種行くから」
「……なんの?」
「犬系のビーストが感染する変犬ウイルスのだよ。あれ予防してなきゃ大変なんだから」
「確かそれって重い風邪みたいな症状のやつじゃなかったけ?市販の薬でも治るとか聞いたけど」
「普通のビーストならね。だけど戦乙女と契約している若しくはしていた子が感染するとその症状がない代わりにワンコになるから」
「ワンコ?犬みたいな感じになるってこと?」
「いや文字通り犬に変身する。その子自身の原型の犬種になるんだよ。思考とかはそのままだし長くて4日くらいだけど業務に支障をきたすし、何よりリクが感染したら一体何になるのか未知数過ぎるし」
「まぁ、とりあえずしなきゃいけないのはわかった。………というかそんな連絡来てないけど?」
「多分決まったばっかりだから行き届いてないんだよ。それじゃあそういう事でよろしくねリク」
「わかった」
なんて事ない普通の会話。しかし、愛莉珠はここでミスを犯してしまった。
まず理玖に本来ならば機密情報をそれも特に犬系ビースト限定での機密情報である予防接種の件を伝えてしまったこと。
次に理玖に対してその情報を拡散してはいけないと強く言い付けなかった事である。
ここでテルゼウスの情報伝達事情を説明をする。
まずテルゼウスはその業務の都合上、世界各地に支部が点在しているが、支部間での連絡ならともかく個人間の連絡にはどうしても時間が合わない事がある。また、多種多様のビーストや魔術師が在籍しているため何処何処の繋がりなど色々と面倒な一面もある。
そこで使われているのがグループチャットである。
数人だけのグループや数百人にも及ぶグループも存在しており、それぞれがそれぞれに合った連絡事項などを共有している。
……ただし、ほとんどが雑談で占めらている。
魔術師のグループチャットならばどこの店の魔法の材料の質が良かったなどの会話がほとんどで、猫系ビーストのグループチャットとなるとどこの店のマタタビが良かったなどの会話となる。
そして理玖が入会しているグループチャットは犬系ビーストと覚醒ビーストと第二特殊戦闘部隊である。
理玖はその犬系ビーストのグループチャット……普段は肉か骨の良し悪しかバディの愚痴が流れているチャット欄に愛莉珠から聞いた予防接種の件を書き込んで共有してチャットを閉じた。
…………これがのちの大騒動になる事など微塵も思いもせずに。




