出発
空飛ぶ監獄の中層のどこかの通路で1つの一団が暗い通路を進んでいた。
「さぁさぁ、こっちですよ〜。逸れないでくださいねぇ。逸れたらそこらに転がっている骨の仲間入りになってしまいますからね」
すっぽんぽんから半袖のTシャツに短パンへと着替えたレオナルドはそう言いながら理玖とウィステリアを先導していた。
ちなみに彼女が来ている半袖のTシャツにはデフォルメされた蟹を咥えたやたらリアルなタッチな直立状態のマグロが『I am a shark!』と集中線付きで叫んでいるカオスなイラストが描かれていた。
「ねぇ、大泉。なんであんな変な柄のシャツなんか持ってきたのよ……」
「俺は別に着れたらなんでもいいんで。あと、アレは柳龍局長の自作です」
「え゛っ……マジで?」
「マジです」
ちなみに夜奈はそのTシャツとアロハパンツを着て近所のコンビニまでサンダルでビール缶とカルパスを買いに行っていたそうだ。
「他にもキャッチャーミット構えたネズミの股間に野球ボールが直撃しているやつとかペンギンがシャチホコになっているやつのもあります」
「なにその微妙に店で売ってそうなデザインセンスは」
「可愛いじゃないですかこれ。私は好きですよ?」
「俺も似た感じだ」
「………………私だけおかしいのかな」
と夜奈自作のTシャツの感想を伝え合う3人はマッドサイエンティストに追われている状態とは思えない程和やかな雰囲気を出していた。
***
──── 一方、理玖達がいなくなった後のユグドラシルではやはりというべきか、主に3名が荒れていた。
1人は愛莉珠。彼女は理玖が出発した日に魔術師協会から招集を受けてそちらに行っていた。内容は以前理玖が発見した違法魔道具に関するものだった。
物自体は協会に輸送できたものの管理やらなんやらの書類関係は直接協会で記入しなくてはならず、更にそこに今まで彼女が面倒くさがってやらなかった手続きなども一度にしていた為、丸三日不在にしていたのである。
さてそんな1番やりたくない面倒なものを行きたくもない場所まで行ってネチネチ嫌味言われてきた愛莉珠の機嫌はどうなのかというと………最低と言える。
更にそこに追い討ちで留守番を任せていた愛するハウンドがちょっとした嫌がらせで変態ひしめく地獄の監獄へお使いに行かされていたと聞かされたらどうなるか。
答えはこれである。
ユグドラシル本部近くの主要道路の地面は大きく陥没しており、その中央には肉塊と言っても納得される状態のおそらく生きているであろう人がめり込んでいた。
その現状を作り出した本人は通常青白い光で帯電しているが昂る感情からその電光は赤黒く変色しており、周りには赤黒い雷を帯びた氷の結晶が浮遊していた。
「礼華隊員、そのゴミは放置して出発しますよ」
「さっさと行かねば理玖坊が奴らの餌食になるぞ」
皆が鬼とも悪魔とも言える形相の愛莉珠を遠巻きにしている中、平然と声を掛けたのは荒れている人その2の夜奈とその3の神崎であった。
愛莉珠が不在ならば夜奈か神崎が止める様なものだが、ちょうどその日2人揃って外部へ視察に赴いていた。
愛莉珠からの連絡を受けて文字通り光の速さで戻ってきたのだ。
さて、戻ってきて状況を聞いた2人はどうなったかというと………
まず片方はそこにいるだけで周りの温度計が爆発するレベルの温度を発して、その熱に耐え切れずアスファルトはぐずぐずに溶けて植物は一瞬で灰となっていた。
そしてもう片方は顔には赤い隈取の様な模様が現れ、9つの尻尾はまるで八岐大蛇の様に太く凶悪なものとなり、なにやら白いオーラの様なものを纏っていた。
鬼神と狐の祟り神が降臨していた。
「そんなのわかってるよ」
夜奈と神崎の呼びかけに愛莉珠は普段の数段低い声で答えた。
そして3人は1番早く移動できる夜奈に掴まり、監獄へと向かった。




