中層へ
長時間にも及ぶレオナルドの布教演説に耐えた2人は動いてもないのに物凄く疲れた様な気分を味わった。
長い縦穴を登り切り、中層の入り口である吹き抜け広場でひと息ついたその時監獄全体が鈍い駆動音と共に揺れ始めた。
「ちょ、ちょっと今度はなに?まさか構造の入れ替え?」
「…………いえ。この感じは要塞変形ですね。揺れの感じからして空中要塞化で」
突然の揺れに驚くウィステリアに髪をタコ脚から元に戻していたレオナルドがそう答えた。
「……変形ってなに?」
「このラビュリンス監獄がある地帯は変則的な気候変動をしています。下手に同じ場所に留まっていると要塞自体がペシャンコになる様な雹とか岩とか降ってきたり、地割れとかで真っ二つになってしまったりしますからね。なので危険気候に鉢合わせたら要塞ごと逃げられる様にしているんですよ。………まぁ、殆どの場合はご主人様の気分次第でめっちゃ移動しますが」
「職権濫用じゃないか?それ」
「ここの王はご主人様なので問題ありません!」
と親指を立ててキラッと星が出る様な笑顔で言い放つレオナルドに理玖は呆れた表情を見せた。
「さぁさぁ!では皆様私の案内に着い──『ニャッハァァァ!!』─アベシッ!?」
それは突然であった。
レオナルドが有り余る袖をブンブン振り回しながら案内を始めようとしたその時、吹き抜けの上層部から奇声を上げながら何者かが飛び降りてその勢いでレオナルドに向かって巨大な何かを叩きつけた。
叩きつけた際に発生した衝撃波と轟音により理玖とウィステリアは碌な体勢が取れずに吹き飛ばされた。
「ウィステリアさん無事ですか!?」
「だ、大丈夫……頭打ってないから……それよりなにいきなり」
「────おやおやおやぁ??仕留めたのは1匹だけですか?イケると思ったんですがねぇ?」
舞い上がっていた粉塵が晴れるとそこにはレオナルドの代わりに小柄な女性が立っていた。
ぐるぐると壁面に張っている蔦の様な癖毛が目立つ金と赤が混ざった色の髪にゴスロリメイクが施された幼さが残る容姿は可愛いと表現されそうだが、鮮血の様な色合いの瞳には狂気が宿っておりかなり危ない気配を纏わせている。
服装はゴスロリと看守服を足して2で割った様な独特なものでその上から身の丈以上の白衣を纏っている。……尚、そのどちらも明らかに返り血やら薬品などのシミで彩られている。
そして彼女の両手にはまるで大剣の様な大きさの巨大なチェンソーが握られていた。
「まぁ、いいでしょう。あとから捕まえればいい事ですし。では初めまして!私、ラビュリンス監獄研究部長のアレーヌ・双竜と申します!早速ですが、被験体になってくださいなッ!」
一方的に自己紹介を終えたアレーヌが手元を操作すると彼女の巨大チェンソーはバイクの起動音の様な音を立てた後、チェンソー特有の唸り声をあげた。
「逃げますよッ!」
「いやでもッアイツは!?」
「さっきのアレとあのマッドの足元を見る限りじゃ即死ですよ!早くッ!」
そう急かす理玖の視線の先には床一面に広がる真っ赤な血に人であったであろう肉のパーツが無数に転がっていた。
理玖はもたついているウィステリアを抱き抱えると自身の影から数匹の魔狼を出してアレーヌの足止めをさせた。一方アレーヌは魔狼の方に興味が向いた様でそっちの方に突っ込んで行った。
アルファの命令により足止めを任された魔狼は幼体が3匹に成体が2匹でどれもマシンガンやレーザー銃など装備した近未来的な外見をしていた。5匹は高火力の弾幕攻撃を廊下を埋め尽くす勢いでアレーヌに撃ち放った。
アレーヌはその弾幕攻撃をチェンソーを床に突き立てて盾にして防いだ。弾丸により廊下の天井や床や壁面は銃痕だらけとなり、当たった際に発生する火花は薄暗い廊下を閃光弾が破裂したかの様に眩しく彩っていた。
守り一択となってしまったアレーヌは嫌そうに舌打ちすると何処からか端末を取り出して操作し始めた。すると天井から分厚い遮断壁が降りてきて、魔狼とアレーヌを分断した。
「いや〜、あれはやばいですねぇ。流石は戦闘狂のアリスちゃんのハウンド……って言ったところでしょうか」
アレーヌはそう呟いて再度端末を操作して今度は別の通路を開いた。そして床からチェンソーを引き抜いて肩に担ぐと鼻歌を歌いながらその道を進んでいった。
残されたのは見るも無惨になった廊下に血溜まりに沈むレオナルド……だったものであった。




