異常事態〜1
その日の午後、ソフィアに案内された客室はベッドにテーブルにバスルームとよくある格安ホテルの様な内装だった。
違う点は窓が無くテレビといった外部の情報端末が無いのと入り口の扉が二重構造になっている事くらいである。
ウィステリアは荷物をベッドに放り投げるとすぐにバスルームへ向かい、しばらくするとシャワーの音が聞こえてきた。
理玖は愛莉珠に連絡を入れようとしたが、携帯の電波は圏外となっていた。愛莉珠からの連絡がなかったのもこれが原因かと理玖は考えた。
ちなみにウィステリアの精神安定剤であるカラアゲは持ち込み不可だった為にターミナル駅に併設されていた使い魔預かり施設にいる。
「……次どうぞ。先に入って悪かったわね」
「別に気にしてませんよ。というか監獄内でも泊まれるんですね」
「例外中の例外よ。大体野営訓練みたいに地下の入り口ら辺でキャンプしてたし」
「…………なんでですか?」
「訓練所の掲示板に貼ってある臨時バイトの広告は見たことある?破格な報酬なやつ」
「あー、なんかありましたね」
「それ、ここに派遣されるやつ。内容は地下の暴徒の鎮圧。色々キツいから報酬も破格なんだけどやる奴なんてお金に困った奴が騙された新人くらいよ」
「そんなにキツいんですか……」
「キツいわよ。こっち行くくらいなら西の激戦区に行った方がいいわ」
ちなみにウィステリアが言う"キツい"は肉体的ではなく精神的な意味である。
「というか大泉。少しくらい話は聞いた事あるんじゃない?ご主人様とかに」
「前にお嬢に聞いたけどはぐらかされたし、夜奈姉に至っては饅頭やらなんやら口に詰め込んで来て言ってない事にされた」
「…………あんた随分大事にされてるわね」
「過保護過ぎる気もする」
そんな風に会話をした後、理玖はシャワーを浴びに行き、2人はそのまま就寝した。
────その日の深夜。
部屋の扉が音もなく開き、そこからスルスルと床を滑る様な動きで数人の人影が入ってきた。
全員、ハロウィンの日のシーツを被っただけのお化けの仮装の様な格好をしており、全員が理玖とウィステリアが眠るベッドを囲んでいた。
そしてシーツのお化け達はそれぞれが眠るベッドを担ぎ上げると何処かへ運んで行った。
こんな事をすれば2人は飛び起きそうなものだが彼女達は眠ったままであった。まるで眠り薬でも飲んだかの様にぐっすりと………。
***
「────ッ!────ッ!」
眠りから醒めるか醒めないかの境界線にて理玖が微睡んでいると何やら意識の向こう側から声が聞こえてきた気がした。
最初は愛莉珠かと思ったが、なんか違うと思った。
「────さいッ!ちょっと起きなさい大泉ッ!!大変な事になってるわよッ!!」
その切迫詰まった声が同室で寝ていたウィステリアのものだと理解できた理玖の意識は一瞬にして覚醒して飛び起きた。
「……………は?」
そして周囲を見渡してそんな声をあげてしまった。
そこは眠る前の質素なホテルみたいな内装の部屋ではなく、コンクリートが剥き出しの牢屋であった。




