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極氷姫の猟犬  作者: 骸崎 ミウ
第2章
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目が覚めて〜3

理玖が目を覚ますと今度は愛莉珠が理玖を膝に乗せて抱き締めていた。ちなみに背は理玖の方が頭1つ分低い。




「んふ〜♪」



「……………」




ご機嫌な様子で猫の擦り寄りの様に身体を擦り付ける愛莉珠に対して理玖は無の表情でされるがままになっている。



最初は抵抗したが愛莉珠の戦乙女(ヴァルキリー)としての馬鹿力には勝てず、結果抱き枕になった。




「ねぇ、リク。そろそろ喋ってくれてもいいんじゃなぁい?僕、少し寂しいよ?」



「………………」



「ねぇってば〜〜」



「……………………………今すぐ離して」



「おぉ!やっと声が聞けた。可愛い声だねぇ〜。あ、離すのは無理。だって僕はこの4日間缶詰状態で書類仕事やらされたんだよ?癒しが必要じゃないか。……それにリクは今腹ペコだから"補給"しないとね」



「"補給"?」



「そう補給だよ。リクはハウンドになったばかりだからまだ身体の魔力が安定していないんだよ。だから僕がこうやって肌と肌を合わせて満たしているのさ」



「ハウンドにしたのはそっちだけど………なら、早く終わらせる方法は?」



「それ聞いちゃう?ん〜……、僕とディープなキスをリクからしてくれたらいいよ?」



「…………ハァ。わかったよ」



そう言うと愛莉珠は理玖の拘束を少し緩めた。緩めはしたが離しはしないといった感じか。愛莉珠からの提案に理玖はため息をついて応じようとして愛莉珠と向かい合わせとなった。



期待しつキラキラと目を輝かせる彼女に理玖は呆れながらもゆっくりと愛莉珠の顔へと近づけて行き…………



横から入った手で止められた。



理玖がその手の主の方を見ればそこには黒い笑みの日暮がいた。




「…………なにさ僕たちの営みを邪魔して」



「なにが営みですか。理玖くんにそういうのはまだ早いですよ」



「早くないさ。リクはもういい年なんだから大丈夫。それに過度な制限は良くないよ」



「それでもです。だいたい、魔力補給なんてさっきしたでしょうが。そんなにしょっちゅう与えてたら過負荷状態になりますよ」




といった感じで愛莉珠と日暮の口喧嘩が始まった。2人に挟まれて口喧嘩を聞いている理玖が縁流に視線で助けを求めようとしたが、生憎彼女は不在であった。大方、先の騒動の謝罪に周っているのだろう。



と2人の口喧嘩がヒートアップしかけたその時、病室の入り口が開いた。縁流が帰って来たのかと思った理玖が見てみるとそこには別の人がいた。




「お〜お〜、ずいぶんと盛り上がっておるではないかヌシら」




紫色の髪に眠そうな顔貌、横に垂れた大きな狐耳にはそれぞれ札の様な耳飾りを付けており、腰からは9本の尾が生えていた。




「っ?!神崎管轄長!?……どうしてここに?」



「どうしてって……16人目の覚醒したビーストの顔を拝みにきたんじゃよ。………それで?そのヌシらに板挟みになっておるのが件の童であるか」




神崎はそう言って理玖の元へと近づいて………ニッコリと微笑んだ。



はじめまして(・・・・・・)。わっちは神崎 澪という。ここテルゼウスのビースト管轄機関長であり、汝と同じく覚醒ビーストじゃ。といってもわっちは元からこの性別であったがの」



「………はじめまして。大泉 理玖です。この様な格好での挨拶、ご了承ください」



「構わんよ。汝はある意味病み上がり。まだ魔力も空に近い様じゃし、パートナーが魔力補給をしていることはなんの不自然ではない」




と神崎は理玖の頭を撫でながらそう言った。




「え、待ってください神崎管轄長。まだ魔力補給が足りないってどういう事ですか?もう既に普通のハウンドの3倍は魔力補給してますよこの子」



「覚醒ビーストは強力な分、必要魔力も大量じゃ。ただ、理玖の場合は覚醒ビーストの中でも断トツで必要みたいな様じゃ。………そろそろ来る筈じゃ」



神崎がそう言って少し経った後、開いたままの病室の入り口から息を切らした縁流がやって来た。そして、その背にはドラム式洗濯機サイズの無骨な箱が背負われていた。



「持って………来ました………。ここで、いいですか?」



「ふむご苦労。──愛莉珠。ヌシだけでは理玖の補給は時間がかかり過ぎる。今の調子では一ヶ月後の本契約には間に合わん。そこでじゃ。とある有志からこの魔蓄箱が送られた。含有魔力量は1級戦乙女10人分じゃ」



と神崎は得意げな顔で魔蓄箱と呼んだその箱を叩きながらそう言った。



常人を超えた戦乙女(ヴァルキリー)といえど力を使うにも魔力という代価が必要である。そしてその魔力は体力と同じく自然には回復するが、長期戦ではそれが間に合わない。



そこで開発されたのが『外部補給魔力蓄蔵機』である。これはあらかじめ自身の魔力を溜め込む事で緊急時に瞬時に魔力が補給できるという物だ。



画期的ではあったが、大容量を実現する為に巨大化かつ重量化してしまい、持ち運びに手間がかかってしまう。更にその外部補給機は小型化に成功している為、この箱はあまり使う機会がないのだ。



「いやそれ基本的に本人かそのハウンドしか使えないじゃん。合わない魔力だと拒絶反応起こすし、その魔力がリクに合うかわからないじゃん」



「それは問題ない。この魔力は特別性じゃからのぉ。ヌシほどではないが理玖に合うはずじゃ。…………ほれ、理玖。これを咥えて吸いなさいな」



「え、ちょッんぐ」



神崎は魔蓄箱から伸ばしたホースを文言無用で理玖の口に突っ込み、装置を起動させる。



「呑みなさい」



神崎の眠そうな目から覗く紫色の瞳からは拒否する事を許さないといった圧が見え、理玖はただ頷いて指示に従った。



そうして理玖の口に流れてきた魔力は愛莉珠のものとは違い、少しパチパチと刺激のある駄菓子の様な味がした。



ちなみに愛莉珠の魔力は蜂蜜をたっぷり使った飴玉の様な味である。



そうして理玖は最初は恐る恐る、最終的には夢中になってその魔蓄箱に貯蔵された魔力を吸い出した。パタパタと尾を嬉しそうに振り、感情が薄く感じた表情も少し綻んでいた。



「お〜お〜、美味いかの?存分に味わって自身のものにするのじゃぞ?───── (今夜、また会おうぞ) (理玖坊)



神崎は理玖の耳元でそう囁いた。



「……………ん」



理玖は目だけ神崎を見て不自然のない様に答えた。



その嬉しそうな表情の理玖に愛莉珠はあまりいい気分ではなかったが、理玖の補給が間に合わない事は彼女自身もわかっていた。故に気に入らなくても神崎の提案に乗るしかなかった。



「…………リク。その魔蓄箱の魔力、そんなにいいの?僕のより」



それでも棘のある言葉が出てしまうのは彼女の独占欲故のことだろう。



理玖は愛莉珠のその言葉に首を傾げて反応した。その反応に愛莉珠は可愛いと思ったのか笑みを浮かべ、後ろから抱きついた。



「………さて。そろそろわっちらは帰るとしようではないか。ほれほれ愛莉珠。いつまでも抱きついておらんで帰るぞよ。理玖も呑み終わったみたいじゃし」



「えっ………え、ちょっと理玖くんあの量の魔力全部呑み干したんですか?!」



「うん。………ただ、ちょっと足りない気がする」



「え、えぇ……」



愛莉珠は神崎に首根っこを掴まれ引き摺られ、日暮と縁流は2人で空になった魔蓄箱を運んでいった。



「………………」



残された理玖はというと布団を整えてベッドの上で夜までぼんやりと過ごすのであった。

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