南支部へ〜3
愛莉珠が嫌うエロダコ……正式名称はレッカークラーケという。
見た目は茹でタコみたいに真っ赤で胴のてっぺんに鶏の様な鶏冠を持っている。そしてこの鶏冠は生きている年数に応じて大きくそして豪華になる。また、1番小さい個体でも軽自動車並みの大きさで確認されている個体の中ではタンカー船並みの大きさとなる。
その身は高級珍味とされて愛好家が多く、墨の方は加工されたものがとある業界でよく利用されている。
これだけならば南の海域によくいる魔獣なのだが、1番厄介……というよりも1番嫌われている要素がある。
それはレッカークラーケの捕食方法とそれらが吐く墨である。
まず吐き出す墨なのだが、通常のタコは逃走の為の目眩しなどに使うがレッカークラーケは獲物を捕えるために使う。
そしてその墨は捕える目的故に粘着性であり、また水に触れると表面がローションの様になり、更に墨なのに黒ではなく何故か白濁色している。
次に捕食方法なのだが、まずレッカークラーケは小魚や肉類ではなく他の魔獣などの魔力を糧とする。
白濁色の墨には対象の動きを阻害する他に掛けられた対象から魔力が流出しやすくする魔法効果もあり、レッカークラーケは墨を吹きかけてから無数の触腕を使って逃げられない様にして触腕から魔力を吸い出していく。
更にレッカークラーケ自体知能が高く、捕食対象に仲間がいた場合、その捕食対象を盾にして相手の戦意を削ごうとするくらいには狡猾である。
ただし、その盾にしている状態は『両手両足の先端を触腕で飲み込んだまま、半強制的に仰向けにしたあと、身体を撫でるように触手を這わせ、仲間全体に見せつける』というもの。
……………………要は見た目が薄い本案件になる。
一応、魔力が尽きると解放される為動かずに刺激を与えなければまず助かる。しかし絵面がとてもアレな為、戦乙女を始め多くの女性陣に非常に嫌悪されている。
ちなみに戦乙女の間で百合の花園が常に満開している原因の一つとしてこのレッカークラーケが挙げられてもいる。原因はもちろん上記の通りである。
***
「あ゛あ゛あ゛〜〜…………行きたくないよ〜〜………戻ろうよ〜〜」
南支部から小型船に乗り換えて件の殲滅ポイントに向かう途中、愛莉珠は気怠そうに呻いていた。
「今更無理だろお嬢。嫌なら船内に引っ込んでいたら?…………というかそんなに嫌なのか?エロダコってのが」
「いや引きこもっていたら、南支部のジジイに何言われるかわからないし………。確かにあのタコは苦手だよ。好きな奴なんて相当な物好きだよ」
「エイハブ爺さんは肴にいいとか言ってた」
「まぁ、あのタコ自体は美味いって聞くからね。というかジジイのこと知ってたんだね」
「南に来た時、大体父さんと飲みに行ってた。あと泳ぎ方とか教えてもらった」
「あー、なるほど。確かに男共の飲み会とかはやるよね。あ、見えてきた……………………うわぁ」
しばらくすると赤い絨毯の様になって進んでいるレッカークラーケの群れとそれを食い止めている大型の漁船が見えてきた。
海はレッカークラーケの青い血で染まり絶命して白くなったレッカークラーケがぷかぷか浮いており、漁船の側面には無数の小型のレッカークラーケや白濁した液体がびっしり付いており乱戦が行われているのは確かだった。
そして、数十もの漁船の中で一際大きい漁船に全身古傷だらけの身長が2メートル近い白髪の大男が赤い褌一丁で自分の身の丈ほどある大銛を携えて、1匹の一際巨大なレッカークラーケと激戦を繰り広げていた。
「………………リク。帰っていいかな?」
「ここまで来たなら手伝おうよ───ん?」
理玖が愚図る愛莉珠にそう言っていると理玖達が乗っている船が大きく揺れ出した。そして、案の定というべきか数匹のレッカークラーケが船の上へと這い上がってきた。
その中で理玖に一番近い位置にいたレッカークラーケが彼女に向かって墨を吐きかけてきた。警戒よりも物珍しさが勝ってしまっていた理玖はまるでバラエティのパイ投げのように正面から顔面に浴びてしまった。それも大量に。
レッカークラーケは動かないでいる理玖に向かって移動して自身の触腕を巻きつけていつもの様に魔力を吸い出そうとした。
にゅるにゅると無数の触手が巻き付いていくその光景は薄い本の内容そのもの。しかし、レッカークラーケは何か異変を感じたのかその動きを止めて、人間でいうところの首を傾げる動作をした。
レッカークラーケは不思議に思った。自分の墨を被っているのに魔力が吸い出せない……と。念の為、先程よりも量を多くして吐きつけたが結果は変わらなかった。
──それもそのはず、レッカークラーケの墨の効果は魔力由来の効果である為、魔力由来のものが効かない理玖にとってはただの粘ついた液体なのである。
レッカークラーケが疑問に思っていると墨のかけ過ぎで白い繭みたいになっているものの中から通常よりも遥かに巨大な拳銃が出てきて、大砲にも似た轟音と共にその銃口から吐き出された弾が容赦なくそのレッカークラーケの眉間に風穴を開けた。
眉間を穿たれたレッカークラーケはビクリッと身体を硬直させるとその真っ赤な身体を白くさせて力尽きた。
その後、レッカークラーケの墨で真っ白になった理玖は未だ纏わりついている触手を引きちぎると既に力尽きているレッカークラーケの死骸に無言で銃弾を浴びせ続けた。
そして、マガジン内の銃弾を全て撃ち切る頃にはレッカークラーケの死骸は見るも無惨にぐちゃぐちゃになっていた。
「えっと……リク?大丈夫……じゃないね」
愛莉珠が心配そうに理玖の顔を覗き込んでみるとそこにあった彼女の顔は以前愛莉珠が理玖に対してやらかした時と同じくらい冷え切ったものだった。
「イカ臭い」
「うん。だろうね」
「それになんか生ぬるい」
「うん。リク、僕が水魔法で流してあげるからこっちおいで?」
「クソダコ皆殺しにしてからにする」
理玖はそう言い切ると自らタコがひしめく海の中へと飛び込んで愛銃の引き金を引いた。




