東支部へ〜8
最近、スランプ気味であります………
北方の寒冷地とはまた違った砂漠地帯特有の夜の冷え込みに思わず身体を震わせる愛莉珠。一応、外套は羽織ってはいるが寒いものは寒い。
彼女は流れる様に隣を歩く理玖の腰を引き寄せると自身の外套の中に理玖を入れた。
「………歩きずらいんだが?」
「まぁまぁ、ゆっくり歩けば転ばないよ。それか僕が持ち上げるかい?」
「………いや、持ち上げなくてもいい。まだ残ってるだろ。ダメージが」
「あー、全快とまではいかないけど、リクを持ち上げて歩くくらいは問題ないよ。それくらい出来なきゃ戦乙女はやってけないし」
「なるほど。……だけど持ち上げるのはやめて」
「はいよわかった」
そうして2人は二人羽織の様な形でゆっくりと歩き始めた。
しばらく歩いて行くと香辛料の香ばしい香りが風に乗ってきて、そちらの方へ行くと賑やかな群衆の声が聞こえてきた。
そこには支部の大通りで道の両脇には昼間よりも種類が豊富となった出店や料理店などが点在していた。
「ここの大体の食事処は夜に営業するんだよ。夜は採掘場の労働者やらが1番出てくる時間帯だからね」
「そうだったんだ」
物珍しいそうにしていた理玖に愛莉珠はそう説明した。
「そんでリクが言ってたビリヤニの店ってどこ?」
「確かあそこ……あっ」
理玖が言っていたビリヤニの店の中は暗くなっており、明らかに閉店している様子だった。
「……閉まってる」
「……閉まってるね。別のにするか」
「じゃあ、あそこ」
「ん〜?……えぇ」
ビリヤニの店の代わりにと理玖が指を指して示した先を見た愛莉珠は思わずそんな声を出してしまった。
そこにあった店は比較的新しい店でそれなりに繁盛している様に見えた。また、他の店よりも香辛料の匂いが強く出てもいた。そしてその店の看板にはやたらポップな字体でこう書かれていた。
『金ちゃんのカレー王国店〜byテルゼウス東支部店〜』
………そう、それは以前理玖と愛莉珠と夜奈が食べに行き、あまりの辛さに愛莉珠の記憶が吹っ飛んだカレー専門店の支部店だった。
「いやなんであるんだよ。というかあの店チェーン店だったわけ?別の店にしようよリク。帰ったら行けるんだし」
「……………」
「リク?お〜いリクさんや〜?」
「……………」
愛莉珠の呼びかけに理玖は応じなかった。愛莉珠は彼女を引っ張って別の店に行こうとしたが、理玖は愛莉珠の外套を掴んで動こうとせず、更に持ち上げようとするとわざわざ異能を使って自身の体重を増やして船の錨の如くその場に留まろうとした。
「いやリク。異能使ってまで拒否するもん?近くにあるじゃんか本店が」
愛莉珠が理玖にそう説得するも理玖の態度は変わらなかった。
愛莉珠が途方に暮れていると理玖は突然愛莉珠に抱きつく体勢を取り、少し背伸びして彼女の胸に顔を埋めながらジィ……っと上目遣いで愛莉珠を見つめた。
おまけに垂れ気味の狼耳を寝かせて、大きい尻尾を膨らませてながら。
「………………………………………………………………」
理玖の構って行動に愛莉珠は目に見えて固まった。そして理玖は駄目押しと言わんばかりに甲高い鼻にかかったような鳴き声を出しながら甘えてきた。
「よし今夜はカレーにしようかリク」
遂に愛莉珠の方が根負けしてカレー店へと足を向けた。理玖は『計画通り』といった表情を浮かべて愛莉珠の後をついて行った。




