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クルパドック大戦㉒仇

「う、が・・・・・・・・。」



「だーから嫌なんだよ。お前みたいな無駄に抵抗してくるやつ。そのせいで、乱暴なことしなくちゃいけない羽目になったわ。まじ、頭悪。」



ごにょごにょと焦燥を嚙み砕きながら話すフォーサー。なんといっても彼は、人を喰うということだけが目的だった。そのため、自分よりも弱いやつの抵抗などは心底どうでもよかった。ドラマチックな演出などは気にしない、そんなの気にする時間など無駄でしかない。喰うことだけ、人を喰うというある意味作業的なものを、遂行することにのみ、意味があるのだ。



「聞こえてないか。」


自らの膝で徹底的に痛めつけた相手に対しても、この鬼畜の様と来てしまえば、文字通り鬼だ。一方のニュートンと言えば、とっくに生きることを諦めていたのか、それとも、とどのつまり、これは全て演技で、不意打ちをもう一度試みようとしている演出なのだろうか、どちらにしても、ニュートンは応答をしようと口を開くことはしなかった。口から出てくるのは、荒い息の混じった言葉よりも、赤黒く染まり切った血の残りばかりだった。



フォーサーは、完全に意識が途切れたことを確認し終えると、横たわった体と正対した。ポケットに納まったサバイバルナイフを取り出し、鋭利な部分が隠された革のケースを引っ張ると、刃をわが物にした。


焦燥の溢れる心持ちとはかけ離れ、想像もつかないような冷静さで巧にナイフを操った。サバイバルナイフが、ニュートンの蜜柑色の囚人服を縦に裂く。


心臓を突き刺して一発。この殺し方が頭に存在しないわけではもちろんないし、その方が手っ取り早いのも知っている。


だが、彼は心臓など露ほども意識の範疇に入れてはいなかった。なぜなら、彼が現在進行形で引き起こしている行為の数々は、あくまでも殺しではなく、食事の調理に過ぎなかったからだ。ただ焼いて喰うよりも、奥深くまで炙ってから喰った方がより美味しいことを、彼は強く覚えていたのである。



「悪いとは思ってるさ。」



この言葉のどこに罪悪感の鎖があったことか。罪悪感と同情の縄に縛られることが無かったから、今の時に辿り着き、淡々として嘘を吐いた事が出来たのであったのに。



「やめろ。」



「貴様、なぜ・・・・・・。」



「お望み通り。もう一回だ。」



細い指の隙間を撫でるように、雨の零れ落ちた格好を取ったサバイバルナイフのセレーションが、ギチギチと物の詰まるような音を立てていた。フォーサーが無理やりナイフを腹部へ動かそうとすると、指に刃を喰いこませながら必死にナイフの動くのを堪えた男の力によって、サバイバルナイフはピクリとも動かなかった。



「離せよ。刺さないって約束してやるから。その手をどかせ、」



ニュートンの腹部を今にも刺そうとしていたフォーサーを止めたのは、頭の片隅に置かれていただけの、脅威のかけらもない男だった。



「サンダーランド。」



サンダーランドは、ナイフに血がびったりと滲むまで握りしめてから、言われた通りに手をどけた。血が付着した手でバリタを構え、フォーサーの様子を伺うようにしながらゆっくりと後ろに下がっていく。フォーサーも約束をした通り、腹部を引き裂いたりはせずそのままで立ち上がった。



「くそっ、、もっと早く俺がここに来れてたら。ごめんニュートン。」



「何言ってるのだ我が教え子よ。こいつは甚だしくも、俺に手を出そうとしてきた許されざる者なのだ。先生はちと優しく教えてやっただけさ。」



「いい加減やめろ。」



舌打ちをしたサンダーランドは、今までにない以上に激昂していた。もともとは同じオーガニゼーションの師団であったことは、決して揺らがない事実ではあった。今となってはその事実ほど消したいものはない、つまりは悔いであったと言えるだろう。


フォーサーはサンダーランドを弟子としたあの日にはすでに、スパイとして計画を内部から練っていたのに関わらず、サンダーランドはその事にまったく気づくことなく、「師匠」としてフォーサーを尊敬していた。悔いは憎しみになって、憂いは怒りとなるのごとく、サンダーランドの怒りの矛先は今、フォーサーのたった一人に絞られていたのである。



「教え子とか、俺はお前をそんな風に思ってない。今更許されると思ってんのか?そこに転がってるのは俺の仲間でニュートンだ。顔が血だらけだが、何をした?」



ズタズタに歪んでしまった顔はもう、二度と戻らないのではないかと思わせるくらいの、とてつもない形相だった。



「急に襲い掛かってきたもんだから、右膝でしょうがなくね、何発か打った。そうしたらこいつ信じられないくらい弱くて、びっくりしたんだー。俺にはどうせ勝てないだろうなくらいに思ってたけど、それどころじゃないわ、異次元の弱さ。スライムかよ。」



地面に足を何度も何度も擦り、たちまち砂埃が風の中に混濁した。



「お前はやっぱり消えるべきだ。俺の直感がそう言ってる。」



「あっそう。なら別に消えてもいいさ。俺は別に生きる事に拘ってるわけじゃないんだ。楽しんでっからね。でも師団てのはしんどいね、教え子にこんなこと言われる仕事なんだから。」



「御託はどうでもいいよ。始めよう。」



「いやだなーお世辞も言えない口か。」

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