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クルパドック大戦⑲自然の摂理にそって

「マサムネ。」


キャラスフェインガーの自動硬直から、マサムネが目覚めた。体はそのままで止まっていてたが、意識は戦いのど真ん中に未だ取り残されていたのだ。そのためマサムネはしばらく状況がわからないで、目をしゅぱしゅぱと開いたり閉じたりをしていた。



「あれ、俺、戦ってたよな?なんで、なんで、俺ここに立ってんの?もしかしてあいつ死んだのか。てことは勝ったのか?」



「うん。あいつはトニーが倒した。顔を殴ったら案外脆かったみたいでさ。そろそろ死ぬって。出血多量で。マサムネは、キャラスフェインガーのスキルで固められてたの。」


ミリアがそうやって明るく説明していくけど、マサムネにとっては、仲間の命を背負った戦いだった。自分でケリをつけたかったのだ。この勝負に。

ちょっぴりと、悔しさと悲しさを混ぜ込んだような顔をするマサムネを見て、ミリアも慌ててしょんぼりとした。お気持ち、お察ししますと。マサムネの気持ちに追いつくのが、あまりに遅かった。



────白波が砂を持って、後に退く。光が海の表面で煌びやかに映って、近くに倒れたままの、それに反射を分けた。


バラバラになった巨大な路面電車が、置かれた線路から大きく外れて、そのまま地面に寝転がっていた。車両のつなぎ目が破損すると、続けて車両も砕けて跡形もなくなった。

いつまでも国をつなげ続けると思われたその列車は、もう誰の命も、ストーリーも紡がない、ただの置物と化した。


この列車に目を向けるものは、もういない。



「俺から謝りたいことがあるんだ。」


トニーが、ゆっくりと口を開いた。


「俺に、?」



「そう。」

しばらくの間、唇の端を噛みながら俯いていたマサムネだったが、トニーの声にようやく前を向いた。まるで夢から覚めたように、ぱっと意識がトニーにターゲットして、黒い目がお互いに合った。



「・・・・・・自分の命のために人一人が死ぬって。どれだけ辛いことなのか、その傷に向き合うことがどれだけ難しいかが今になって分かったんだよ。だから。それまで、、マサムネを一方的に殴ろうとしてた俺を、こてんぱんに殴ってやりたい。」


「本当にごめん。」



トニーはそう言った後、深々と頭を下げた。ざらざらとした石と砂の感触を、頭のてっぺんで吸い込むようにしながら、必死に地面に頭をこすりつけた。


海のせせらぎが、静かに耳に響いてきても、転がったままの電車が、風で軋む音がしても。もう大丈夫、そんな声が聞こえたように思えても、頭を下げ続けた。


自分の後悔の念という、そのほとぼりが冷めるまでは、トニーは決して、頭を上げようとしなかった。目と鼻と口の位置が近くなるくらいに、トニーは力強く、ごめんなさいと、そう言い続けていた。ミリアは、ただその姿を呆然と眺めているだけにすぎなかった。でも、謝罪を受けている当の本人は、やはり違かった。



「もういいよ。もう充分だ。さっさと顔上げてくれよ。トニー。」



別組織であるプレイヤーから、初めて名前を呼ばれたのが、その時だった。トニーは驚いて、つい頭を上げてしまった。



「トニー。まだそうやって呼んでくれるの?マサムネ。」



「別のオーガニゼーションだから、会話しちゃいけない。仲間のようにしちゃいけないなんてルールはない。一緒に、一緒の想いを抱えた、それたけでもう、協力をしてもいいという範疇に入ってると、そう思うから。だから、トニーって俺は呼ぶよ。」



「そっか。ありがとう。」



あどけない返事だけが最後に取り残されたまま、三人はついに城へと動き出していく。


バラバラになった路面電車に目を向けるのはその時でさえ、やっぱり誰もいなかった。3人の仲間が死んで、残った三人がまた動き出す。


認知される死、誰にも触れられない死、この二つが混在している世界。どちらも、いずれかは体ごと消えてしまうのが摂理であるが、せめてでも、最後の最後まで死というのは、やはり心と隣り合わせでいてほしいと思う。


空を飛んでいく三人は、どこかにまだ残る寂しさを胸に抱きながら、路面電車が光る、割れた窓の一部に、影を落とした。



「サンダーランド、動き出したみたい。」



「わかった。」



ケラーとサンダーランドは、城の門の前で、仲間の合流を待っていた。この時、二人の頭にはもちろん、トニーとミリア以外のほかの誰かが来ることなど想像はしていない。



「あとは、ニュートンさんだけど。何かあったのかな、やっぱり遅くない?」



ケラーが眉を下げて、困り顔をしながら言った。



「まあ確かに、さっきは気のせいだと思ってたけど、さすがに明らかに遅いよな。」



「連絡しとこう、何かあってからじゃ遅いよ。」



「うん、分かった。」



たった一人で仲間との合流に向かっていたニュートンだったが、合流地点にはなかなか現れなかった。二人は、体の隙間を流れるような嫌な予感に先走り、位置情報の赤いレーダーを急いで確認した。しかし、焦ったのは全く無駄だったのだとその瞬間思い知らされた。まだニュートンは生きていた。少し安堵の息をついて、位置情報のレーダーを閉じる。



森の中、ニュートンは戦闘していた。

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