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クルパドック大戦⑱慢心

「ステクラスペリカ!!<津波魔法>」



魔法発動。トニーのバリタから、水がつらつら垂れると、すぐにそれは大きな津波と変化した。砂の混じった水が勢いよくキャラスフェインガーを襲う。トニーがつられるように一歩前に出ながら、徐々にキャラスフェインガーとの距離間を詰めようと動いていく。それを知らないまま、迫る水面を見て、魔法を発動させる。


「ウィーチャートルネード。<竜巻魔法>」



津波の炎のような勢いは、一瞬にして途絶えた。残ったのは微量の砂だけで、もうこれ以上の攻撃性はない。その攻撃性のネタの少なさの前に、キャラスフェインガーはやはりと、口角を上げた。キャラスフェインガーにとって、今のトニーは戦況を見るに、一番あなどれない、油断のできない相手だった。一番攻撃性の高い、自分がやられる可能性がまだ残っていると考えていたために、ひどく安心した。


「やっぱり、俺に叶う相手などいないか。」


胸をそっと撫でおろして、前を見る。



「ん?なんだ。あいつはどこに行った?影がない、足跡も。」


ふいに風が抜けて、首筋が冷える。ただ、しばらくの風が吹くだけで、やっぱりトニーはいない。影がない、足跡がない。残ったものはさっきの通りで、足元の微量な砂だ。周りを何度も見渡しても、やっぱりいない。攻撃性のなさとは、もはや1ではなくこれっきりのない0だったのか。


キャラスフェインガーの中に、大量の疑問が流れる。その時だった。



「見切った!!!!!」



「は?」



グガあああああああっ!!


頬がつぶれるような激しい音が鳴って、地面に血が飛び散る。キャラスフェインガーはその場で倒れて、大量の砂にまみれた。意識があるのに、鉛のように体が重くなって動かない。気付けば、キャラスフェインガーの体は、すっかりと地面にのめりこむように、固定されていたのだ。



「お返し。まあでも。どっちかって言うと、倍返しか。どのみち、俺の作戦勝ちに変わりはない。一発でKOだ。」



倒れた姿を噛みつくすように眺めて、そんな言葉を次々に吐いていく。トニーは心底残酷だ。首を横に振りつつ、ため息をつく。そんなに余裕なのは、トニーには作戦が最初から決まっていたからだった。



何が弱点かは、対面したときにはトニーの頭に察しがついていた。キャラスフェインガーは近接戦を苦手としていて、単純な物理攻撃に耐性がまったくなかった。だから、簡単に魔法を使う。それで距離を離す。


作戦とまでも言えないほど、ざっくりとしたものだったが、でもそのざっくりだけで、その一つの察しだけで、戦力の差をいとも簡単に埋めることが出来たのだ。


確信。



「自動硬直はマサムネに使ってる。同時使用はできないから、俺を止めることはできない。そんでもって、最強って肩書きを自分で謳っちゃうくらいの自信があって、裏を返してしまえば慢心があった。だから、そこをついた。打撃強化の魔法を最大まで振った殴り、だったけど、まさか、ほんとに一発でやられるなんて、、」



体は消えてないが、相当の量の血が出ている。まあ、時期に出血多量とかで死んだりなんだりはする。だからトニーは、いったんその場を離れた。



「マサムネの硬直、あれに気付いてなかったらまずかった。やっぱり視野って大事なんだな。冷静に周りを見て、ただ突っ込むだけじゃ勝てないから、って誰に言われたんだっけ。」



トニーは考える。色々なプレイヤーの顔がルーレットのように現れては消えてを繰り返す。この人じゃない、この人でもない、こいつじゃない、あるわけないだろって、そんな風だ。マサムネの自動硬直が早く解かれないか、とも思って待つようにその顔を探していたが、そういえば忘れていることがあるんじゃないかと、ふと現実に戻された。



「あ。」



「ミリア!ごめん、今治療する!」



「よかった、、忘れられたのかと思ったよ。」



「忘れてなんかないよ!」



がっつりと忘れていたが、シラを切って誤魔化す。まあこういうところが彼の悪いところ。ポンコツなんだ。今だって、治療をするとか言いつつ、包帯を雑にくるくると巻き付けるだけだ。繊細な作業は苦手なんだって、言い訳をしてみるが、むしろもっと、ミリアは呆れた顔をしてしまうのだ。



ただ単に馬鹿。



「まあ、一応ありがとう。」無理無理とそんなことを言う。この状況でも一応のお世辞はするのが、丁寧なミリアだ。



「ええってことよ。」謎にちょこっと訛りつつ、頼れるお兄ちゃん感を即興演劇。ところが実際は、中途半端な不器用を披露したへっぽこ脇役だ。



「ねえ。よく倒したね、あんな化け物。」



体をゆっくり起こして立ち上がる。砂が空に向かって解き放たれるように、体から落ちていく。トニーが話す。



「あいつは確かに異次元の強さだったよ。あそこまで強いのはなかなかいない。でも、強すぎたせいで、弱いんだよね、ああいうやつって。大抵、足元なんて見ないからな。」



「ふうん。よくわかんないけど、結構強いんだね、トニー。」



「あ。わかった。視野を広く持って。そう言ったの、師団だ。」



頭のルーレットがその顔を前に止まった。エミリアーツ師団が、視野を広く持って、決して慢心をしないこと、そう言ったのだ。無くしたパズルのピースが、裏返っていたのがどんぴしゃにハマった。そんな快感にトニーは笑みをこぼす。



「なんで笑ってるの?」



「いやあ、、なんでだろうね。なんか色々、思い出したよ。」



丁度その時、マサムネの硬直が解ける。


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