クルパドック大戦⑯絶望に
「ぐおおおおおあっ!!」
グギャン!
マサムネは、キャラスフェインガーに対して、あえての近接戦をしかけていた。魔法を放とうとキャラスフェインガーはバリタ(=鳥の羽、杖と同じ役割。)を構えていたが、白く逆立った羽の裏側にはもうすでに、マサムネの拳が接近していたのだった。
強く固められた拳はキャラスフェインガーの顎のあたりをなぞるように強打した。骨のズキズキと唸る音を認識したマサムネは、これでとどめだと言わんばかりに、また追撃をしかけようとする。
しかし、キャラスフェインガーには、奥の手を使う準備はもうとっくに済んでいたのだった。ぐりっと、後ろにひっくり返った頭を正面に戻すと、口を大きく開いて大笑いをし始めた。
スキル
自動硬直
「ふははっ!!!」
「もういっぱ、つ。」
「残念だったねえ。君は俺に一発与えただけ誇っていいと思う。だが、痛くなかった。ちっとも。」
スキル、自動硬直。近接戦最強のスキルの1つを、キャラスフェインガーは所持していたのだ。一定の範囲にいるものは、その時点で自動的に体が硬直状態となってしまい、戦闘不能に陥る。この硬直時間は2分、秒数にすれば120秒だ。日々、体感で刻む120秒は人間の内のほんの1、にも満たさないような微量な時間だ。
だがしかし、キャラスフェインガーが手に入れたこのスキルの上に並んだ120秒とは、ただ、まったく平らな時間が流れるというわけではなく、形勢をそれだけで逆転できてしまうという強力な代物だ。強制的停止、強制的縛りがマサムネの体の120秒を刻々と進めていったのだった。
「今度こそ。死んでもらおう。」
「やめろー---------!!!」 レンドラピオ<加速魔法>
ミリアの足は、泥にハマったかのように、なにか後ろに引き込まれそうになるほど重くなっていた。どうにかそんな足を魔法で無理やり加速させていくが、ひりひりと足の先のあたりが痛んで、減速は仕方がなかった。
「またか、そんなに吠えても何にもならんぞ。」
吠えることで、両足の指の皮が破ける焼けどのような痛みから、ミリアは逃れようとしていた。回転する足に合わせて、口も振動を繰り返すように無意識に叫んでいた。びり、びり、とまた皮が足先の方で剥がれては破れていく。それでもミリアは死と隣合わせの恐怖の中で、足を必死に動かしていた。
死ぬわけにはいかない、ただ、仲間を死なせるわけにはもっといかないと、変わらず叫びながら目の前に迫るキャラスフェインガーに向かって、バリタを構え、すぐさまに魔法を唱えた。
「テルケニス!!<念動力>」
ギ。ぴしゃっ・・・・・・・。
「へっ。。。。。」
「2度目の技は簡単に対処できる。俺が学習できない馬鹿に見えたのか。ショックだなあ、見た目は気を付けてるのに。」
キャラスフェインガーはやけにあっさりと腕で、ミリアの放った念動力魔法を地面に跳ね返した。地面が少しだけ歪んだのを見て、ミリアは思わず呆気に取られていた。
念動力によって腕が曲がったり、はたまた体の骨がズタズタに曲折することを期待したうえでの、2度目のバックアップだったのにも関わらず、驚異的な肉体の上にはなすすべもなかったのだった。
「まったく。無駄な時間を過ごさせるなよ。おかげで20秒も経ってしまったじゃないか。あと、、100秒とちょっとか。まあいいや、お前から殺すか。」
「え?}
キャラスフェインガーの攻撃対象はその時、マサムネからものの数秒でミリアに変更された。キャラスフェインガーは、手に持っていたバリタをナイフに切り替え、方向を転回すると、頬が斜めに引きつるような笑いをしながら、腕に青い血管を浮き出すくらい強い力でナイフの柄を握っていた。
キャラスフェインガーは、ゆっくりとミリアの方に歩みを進めて、急いでいたような言動とは真逆に、今か、今かと殺すタイミングを模索しているようだった。彼にとって人を殺すまでの時間とは、それほどまでに貴重で、圧倒的に甘い愉悦なのだろう。
ただ一方のミリアと言えば、剥き出しになった殺意が、自分にしか向いていないのだという、これ以上に歪みが効かない、無限の恐怖に打ちひしがれていた。皮が破れた両足で、必死に逃げようと後ずさりをするが、地面の砂にべったりと足を奪われてしまい、もう立つことも出来なくなってしまった。
死ぬ。動かない足を見ながら、ミリアは着実に死へと近づいていく絶望感を味わっていた。胃の奥の方から、何かがぶわっと上がってくるような息苦しさに、ミリアはついに口を覆って、大粒の涙を流していた。
「さあ。時間だ。これ以上はダメだ。」
「あ。あ、、、」
「ミ、リア。」
「ん?なんだ。まだ動けるって感じ?」
「仲間が泣いてるんだ、動くのに理由は十分だ・・・・・。」
「もうとっくに瀕死じゃん。どうすんの?」
「へ、、今に見とけよ。」
とは言ったものの、トニーの体はすでに鎖に繋がれたように、全く制御の効かない体になってしまっていた。本当のことを言えば、起きることで精一杯、状況を把握することで限界で、他の策など到底編み出せずにいたのである。
「なんとか、、こっちに、意識を向かせるしか・・・・・・ない。」




