クルパドック大戦⑮傍観者の足
「お前のために、人が死んだ。お前の仲間が消えた。」
「トニーっ!いきなり何言ってんの!!」
「何言ってんのって、ミリアも思うだろ・・・・・・。おかしいんだよあいつ。」
「え?」
トニーの目は真っ黒だった。光を通さないで昼間の猫の瞳孔のように細くとがっているその目が、彼の震えあがるような心の奥底からの怒りを表していた。
ミリアは仲間であるはずのトニーに対し、一瞬の恐怖を抱いた。後ずさりをしながらも、トニーの怒りをどうにか収める必要があるために、決して走り去るようなことはしなかった。頭に血を巡らせて、状況の転回を狙うばかりである。
「違うっ、違うの。マサムネは。」
「何が違う?俺が間違ってんの?}
違う違う、勘違いと間違いを指摘する声がトニーの声をさらに大きくさせていく。もはや、ミリアに止められるような怒りや覚悟ではないのだろうか、無情にもトニーは声に反論するだけで、マサムネに近づく一歩を止めようとはしないのだった。
「マサムネ、聞こえていなかったようだからもう一回言おう。お前のために仲間が死んだ!!!」
ドっ!!!!!
「がっ、、、、!」
「へっ!?トニー?}
ガンっ!
トニーの一歩はその時にようやく止まった。ここまでどんな言葉をかけようとも動かなかった体が、1秒だ。トニーは見えない何かに衝突をしたかのように、近くの木の下までたった1秒で吹き飛ばされていた。見れば完全に意識を失った状態で、木に横たわっているのが分かった。
「なに?どういうこと、、」
マサムネは未だ地面を見たまま固まっており、とても動ける状況にない。しかしながらミリアも、ついさっきまで前を歩いていたトニーを止めるためだけに頭を使っていたので、状況の整理に少々の時間を要した。
「敵がいる?いや、どう見たってどこにもいない。じゃあ、なんで、どうして、いつ、だれが?」
「ダメだ、どうしたら・・・・・・。」
「マサムネ。君が、そうかい?}
「は、、あいつ。」
これもまたやはり一瞬だった。マジックショーみたく彼は影も落とさないで、再びそこに姿を現していた。そこ。とは、マサムネが俯く地面だ。マサムネを煽るように、少し不気味な半笑いを浮かべていたのは、ヨーゼフ・キャラスフェインガーという男。
キャラスフェインガーの顔を確認したミリアは、無意識に自分の首を抑えていた。過去にキャラスフェインガーによって首を絞められたトラウマによる行動だ。
首を絞めつけられたというトラウマが、彼女の心のボーダーラインを狭めていく。近づけば、今度は確実に殺されるかもしれない、不確かな危険性が確信をさしているように、足はどうやったって動かない。
ただそうやって傍観者になることを望んでここにやってきたわけではないと、ミリアは分かっていた。自分自身が、ここにどういう覚悟でやってきたかなど当然理解していた。ミリアの覚悟とは、「仲間を死んでも守る」という信念のことだ。その信念の上に、彼女は立っている、立っていなければならない。
もしもそれが嘘ならば、嘘と証明されてしまったならば、彼女を待つのはこれ以上にない苦い死。仲間を裏切ったという、その事実を味わうように静かに死んでいくことだけが、今の状況で少なからず確信できる絶対。
「どうした?もう生きる気力もないか?なら死んでくれ。」
「私は、、私は。」
「吹き飛べっ!!」
「テル・・・・・・ケニスッ!!!!<念動力>」
「ちっ。」
ギギギ!!
「はあっ、はああ。私のできる精一杯。だけど、今度こそ状況変えられた!!」
ミリアの使用した魔法は念動力、テルケニスだった。彼女の一番の得意技であり、この技を使うことによって、圧倒的格上であったキャラスフェインガーにも妨害を通用させられるという一石二鳥。それでいて、自己だけのウィンウィンが有効となる。
「はっはははは・・・・・・!面白い、状況を変えられた?所詮は馬鹿だなっ!!!俺が最強であることに変わりはないし、ということはどれだけやっても、お前はただの時間稼ぎ要因にすぎないってことだ。それ以上でもそれ以下でもない。いや、以下にすることは、俺にとっちゃ簡単だがな。」
どうしようもない恐怖。怖い、怖い、怖い。
「でも、私はっ。私は、時間稼ぎでいい。時間稼ぎができるのが私。首を絞められても、泡吹いて気絶しても、何度でもあんたに魔法を打つのがこの私っ!!かかってこいよ、このクソ野郎!!」
「ほんとに、バカだな、お前。」
「はあっ、はあっ・・・・・・。」
「灰にして、消してやる。ファイアーイフリートッ!!!」
「バリア。ゴールズ・・・・・・。ぐ!!!」
「え、、」
「すまなかった。ずっと、おかしな現実逃避をしていた。だが、お前らが俺を呼び起こしてくれたっ!!!よく、よく我慢してくれた!」
「マサムネ!」
マサムネはバリアゴールズを使うことでダメージを通さず、ミリアを庇いきることに成功した。
もう彼は覚悟をしたのだ。仲間の意思を継ぐということ、そして目の前の自分を信じてくれる仲間を助けるということを。
「さあ、もう一回、やろうか!!!」




