クルパドック大戦⑭生命線
「赤のレーダー、赤、赤。くっそ、、クソ!!やっぱり師団は死んだか・・・・・・。サンダーランドたちはまだ生きてるらしいが、早いとこミリアを拾って合流しねえと、いつなにが起こるかわかんねえ。」
「レンドラピオだ!!」
地図上に赤い点がぽつぽつと点滅して、まるで一つの生命線が続いているようだった。生命線が途切れてしまうその前に、その思いがトニーの心をよりいっそう焦らせた。
まずはミリアのいる国線だ。1番から少し動いたか?
トニーの周りを影が囲む。影を支配する木々が揺らぐとその一瞬にまっさらとした一面の青が見えた。国線はその海のすぐ近くに存在する路線。トニーは魔法を使ってただ一直線にそれを目指していく。
「あとちょっと、生きててくれよ!!!」
「ミリアっ!!」
「トニー!!やっと来たのね、遅いよもう。」
「はあ?俺は心配して、」
「生きてるって報告が遅いって話!!察してよ、男でしょうが。」
「めんどい。」
地図上の赤い点の位置の通りミリアはまだ生きていた。ほとんど無傷に近いような状態だったが、その近くにいたマサムネはすでに限界を迎えたのか、目をつむって横たわっていた。
「ていうか、トニー。足、焼けどしてる。」
「いや俺のことはいい。状況を説明しろ。ここで何があった?横たわってるこいつも、ほっといていいんだよな?}
「だから察してよ。師団が死んだ。これだけでだいたいよ。私も全部把握してるわけじゃない。」
「師団はなんて言ってた、」
「横たわってるこの人、マサムネを味方だと言ってた。さあどうする?助ける?ほっとく?」
死んでしまったものは体が消えて存在ごと世界から消滅してしまう。すなわち、現状瀕死のマサムネは、消滅か存在の二つの鏡、そのどちらに映るかという選択を他人に握られてしまっているというわけだった。
トニーとミリアは考える。ただ寝転がったままのぼろぼろの敵を見て考える。
他人の死や生きるを否定、肯定するのは大変に難しいものだ。少なくともこの選択に迫られている二人にそのような経験はまったくない。ただ幾分の時間が経とうとも二人のその手に、彼の生命線の続きがゆだねられているという事実に変わりはないのだった。
「薬草だ。彼を回復させよう。」
「いや、薬草はないよ。回復させるならもっとほかの手を・・・・・・。」
「そんなん言ってももう無理だろ、薬草じゃなきゃ!」
「あのっ、、う、はあ・・・・・・。薬草ならあります。俺たちが持ってます。」
「君たちは・・・・・・?」
「思い出した。確かマサムネの味方の人だったよね。」
「っはい、、アーチャーって言います。」
アーチャーももうすでに瀕死と言える状態には十分な体であった。腕や顔のいたるところが擦り切れ、その傷は薬草が無ければもう治らないというほどに拡大している。彼はその体に最後のムチを打つように無理やりに立ち上がると、手に「自分用」の薬草を持ちマサムネに近づいていく。
「俺、、いっつもいっつも助けてもらってばかり。本当、情けなくて。なんにも役に立てなかった・・・・・・。だから俺の薬草をこの人に。せめて、マサムネに生きてもらって、俺の活躍の場とさせてくださいね。」
「ミリア、止めるべきだと思うか。」
トニーがそう聞いても、ミリアは黙って、マサムネに向かうアーチャーの方をただじっと見ているだけだった。トニーはそんな姿を見て、ついにミリアの考えを察した。
「マサムネ。またな。いろいろ、楽しかった。」
その言葉を発して、アーチャーの体は空気になった。粉にも塵にもならず、何も残らない。ただぱっと存在が消滅する。これがこの世界の死だ。しかし彼の残したその意思こそが、確かにマサムネの体を動かす最大の原動力となったのだった。
「生きてたのか、俺。」
マサムネは自分の体を重そうにしながらゆっくりと起こすと、それからはずっと地面を見て動かずにいた。驚きだとか、感動だとか、特別な感情を持つというよりも、まだ生きてしまっているのだという喪失感の方が彼の心には多かった。もうすでに、戦うということは愚か、生きるということにすら、彼の意欲は無かった。
「なあ、そこの人たち。どういう状況か、説明してくれないか。」
「マサムネ。いいよ、話してやるよ。」
「トニー・・・・・・?」
トニーの感情は、たったの一つ、怒りというものに絞られていた。




