クルパドック大戦⑪俺にしかないもの
「どうなっても、知らないからなっ!」
ビュンッ!!───────
「ウゴオオオオオオオオオ!」
「マサムネ、避けろ!!」
「言われなくてもわかってるっての!」
高速移動魔法を利用することで、オロチの攻撃を的確に避け、目指す場所はオロチの頭上。
このゲームの中ではヤマタノオロチを倒す方法はたった一つのみ。それは、3つある巨大な頭の中央を潰すこと。中央の頭には体を動かす脳があり、それを潰すことでヤマタノオロチは動けなくなりやがて死亡する。
「ガッアアアアアア!!」
「っは!?」
波動玉
ギュンッ!!!!
「体がっ、、動かねえっ!」
「ぐああああああああ!!」
「マサムネ!?くっそ、やべえ、あいつの体を止めるにはまだ準備が………」
「師団ーーーっ!!!」
エミリアーツの頭上に、風を切る音と共に猛スピードでオロチヘ突っ込む少女の姿があった。
「ミリアっ!!!」
「今度はちゃんと言えましたね!師団!!」
「くらえ、オロチ!これが私の修行の成果!」
衝 撃 波
「ソニックブーム!!!!!ぶっ飛べええええ!!」
ドカアアアアアアアンっ!!!
ソニックブームを放ったミリアの体はその魔法の反動によって、地上の木へ高速で落下した。しかし彼女の魔法がオロチを倒す鍵となり、繋がれる。
「体が………動いた!!ありがとう、あとはやってやる、!」
「ぐっああああああああああ!」
「耳が、壊れる………でもっ、!これで終わりだ!」
「師団!」
「な、師、」
「今だ!!たのむーーー!!!!」
「っっ任せろ!」
魔法陣
念動力《テルケニス》
巨大な体が大きく曲がり、固定される。そしてヤマタノオロチの中央の頭が無防備となる。
「くたばれ!!!」
スキル
変形体
「龍雲」
雲に隠れた大きな龍が一直線にオロチの頭へ突っ込むと、雷鳴と共に大地を分けるほどの大きな落雷を起こした。
「がっ…………」
ガン………
「っはあ、はあ、、」
ヤマタノオロチの頭が確かに吹き飛んだ時、その巨体が地に倒れ、砂埃を起こした。しかし、その砂埃が晴れた時には確かにいたあの巨体は跡形もなく消えて無くなっていた。
「倒したのか。はぁ、はぁ、今度はちゃんと狙い通りに当てたぞ………」
「ねえ、ダメ、師団………師団!」
「なんだ?まさか………あいつ、」
目の前が暗い、何も見えない、空間も、ない。ここはどこだ?なんなんだ?
「おい!起きろよ!」
「っは!!」
「おお、やっと起きたよ笑」
「は、?なんでお前が、」
「はぁ?何言ってんだよ笑」
「俺は俺、マット•ネルネイだろ?なんだよ忘れちまったのか?悲しいなぁ。」
「マット•ネルネイ………」
そんな、嘘だ。こんなの。こんなの現実じゃない、こいつは死んだんだぞ?魔物に殺されて。生きてるわけがない、俺の目の前に立ってるわけがねえ。
「ほら、さっさと修行しに行こうぜー」
「あ、おう。」
マット•ネルネイは、例のあの事件が起きるずっと前からプレイヤーだったというゲーム世界で俺が初めて出会ったプレイヤーだ。ハッキングされたことによって現実世界とゲーム世界はリンクされ、平和だったただのゲーム世界は強さが必須な地獄へと変化した。
「んーよくわかんねえ、だからなんでこのゲーム世界はやばいんだ?てかどういうシステムだよ」
俺がそんな風に質問すると、いつだってどんな質問もあっという間に返してくれた。頭が良かったんだろう。
「全てのプレイヤーのデータは、AIによって収集されてる。プレイヤーの何もかもがそこにあって、それを乗っ取られたんだ。つまり、運営が動こうともデータは握られたままだし何も出来なかった。」
「じゃあつまり、一度ログインした人物のデータは全部握られてるってこと?」
「そう、だからゲーム世界や現実世界でその乗っ取った人物を殺そうとするプレイヤーが多く増えたんだ。そして強さが必要な世界へと徐々に変わってしまった。」
「そっか、、お前ほんと、頭いいな。」
「そんなことねえよ笑」
マット•ネルネイからたくさんのことを教わった。魔法もこの世界のことも、何もかも。全てを。そうやって俺はだんだんと強くなっていった。オーガニゼーションには入らずとも、マット•ネルネイとならばどんなモンスターともプレイヤーとも戦えた、無敵だった。
「ほら、次の魔物だぞ!早く立て!」
「っ、、おお!」
自分たちの拠点の近くには、魔物の拠点が多くあった。俺たちはその拠点を全て潰すために、毎日修行と言って魔物を倒していた。
弱かった俺はすぐに倒れてしまい、そんな俺を助けてくれたのはネルネイだった。
「終わったぞ、お疲れ様。」
「ありがとう………俺、弱えな。いっつも戦犯ばっかで、それに比べてお前は完璧で、」
「いいんだよ!俺は俺、お前はお前だ!完璧が、完璧にいいわけじゃねえよ!」
俺は俺、お前はお前だ。懐かしいなぁ、これが口癖だったっけ。
俺には俺にしかないものがあるって言ってくれたけど、明らかに俺にあるものは全部お前が持ってたよな。
ボタッ、ボタッ
「っわ、わああああ………!!」
その日も同じ修行、でも敵の強さはいつもより段違いだった。それでもネルネイはまたも、すぐ倒れてしまう俺をカバーして、助けながら戦ってくれた。だが、そのせいで全力を出すことがまったくできなかった。
「おい!危ねえ!!」
俺が倒れた時、偶然に近くに魔物がいて俺を殺そうと狙っていた。その時、通常では間に合わない距離だったために、ネルネイは全力の技を出した。
魔法陣
マクシム•アクセル
だが、この技はネルネイには不完全だった。なんでもできた、なんの技でも使えた最強のネルネイが、この技のみ使うことができなかったのだ。
ネルネイの両足はもげて欠損し、顔から腕にかけて大きな火傷をした。
「っわ、わああああ………!!」
俺は情けなかった、その時の俺はレンドラピオを使ってネルネイだけをその場に置いて逃げてしまった。
俺の目に最強として映っていたあのネルネイの両足が、欠損して無くなり地面に倒れる様子は恐怖と絶望という感情の両方を一瞬で俺の心に落とした。
マクシム•アクセル………
魔法陣、、
あの時逃げた俺が、今や師団。サンダーランドやトニーなどのたくさんの団員によく慕われる師匠的存在になった。
お前のおかげだ、全部。
ネルネイ、ネルネイ………
マクシム•アクセル、全然出来なかったな、まだまだ不完全だった………
「いいんだよ、俺は俺、お前はお前。完璧なんて求めなくていい、成功なんて求めなくていい、俺は求めちゃいねえ、自分にも他のやつにも。」
あいつの口癖………
「お前は本気で人を助けようとした。そして助けた。立派じゃねえか。失敗も成功も全部受け止めて、お前は前向きに師団として頑張った。俺になくてお前にしかないいいところは、」
「お前の真っ直ぐな全力と思いやりだ。」
「師団!師団、師団………」
「き、君。」
「っ!なに!?戦う気?まだやれる、やってやる!」
「違う、俺はこの人に助けられたんだ。俺の仲間も、命懸けで助けてくれた。敵だった俺たちをだぞ。感謝くらい俺にも言わせてくれ。」
マサムネが頭を下げて感謝をすると、エミリアーツ師団の顔は、満足げな優しい笑顔にほんのりと変わっていった。
「師団………ありがとう、」
プレイヤー
エミリアーツ•モレノ 魔法師団13段 死亡




