第79話 恋バナ
トラオと居酒屋に入って、しばらく雑談をしながら飲んだ。
「そういえば辻風、お前結婚はまだなのか?」
「そうだな……」
「あてはないのか? 彼女とか……」
「いやぁ。俺がそういうの苦手なの知ってるだろ……」
大学のときも、トラオは合コンをセッティングしようとしてくれたり、なにかと俺によくしてくれた。
陽キャで趣味は違うけど、基本いいやつだ。
「苦手っていっても、もう40だろ? そろそろ克服しろよ……」
「うーん、そうは言ってもなぁ……」
「誰かいないのか? あ、そうだ。あの子とはどうなんだ? ひかるん。一緒に異世界にもいってたんだろ?」
トラオがそんなことを言い出すので、俺は思わず酒を噴き出した。
「はぁ!? なに言ってるんだよ。ひかるんはまだ高校生だぞ」
「いや、とはいってもなぁ。卒業まで待てばいいじゃん」
「いやさすがに……それはどうなんだ……?」
おそらくそんなのは世間も許してくれないだろう。
第一、あのひかるんが俺なんかを好きになるはずもない。
「じゃあ、カレンさん……? だっけか。動画よくいっしょに出てるじゃん。元同僚なんだろ? あの子、絶対お前のこと好きだぜ」
「はぁ……? そんなわけないだろ。あいつは男友達のようなもんだ」
「そうかぁ……? お前も鈍いなぁ」
「いやいや……ないない……」
さすがにカレンはなぁ。
一緒に泊まったりしてもなにもないくらい、フラットな関係だ。
まあ確かにカレンもかわいいといえば、そうだが。
向こうとしても俺なんか男として見れないだろう。
「あ、じゃあさりーにゃとはどうなんだよ? 結構仲良さそうにしてるだろ」
「あー、まあ。さりーにゃさんなら、まだ可能性はあるかな……。だけど、向こうがどう思うか……。相手は一回り年下だし」
「いやいや、意外とあの年の子って、年上のおじさんとか好きだったりするぞ?」
「そうかなぁ……。まあ、そのうち考えておくよ」
そういえば、トラオは既婚者らしい。
こんど娘さんの誕生日だとか言ってたから、近づいたらまたなにか送るか。
それにしても、年甲斐もなく、久しぶりに恋バナとかしてしまったな……。
俺も、もう長い間一人で生きてきた。
彼女なんて、そりゃあまあ。大学くらいの頃は欲しいなんて考えもしたが……。
今更、彼女が欲しいとも考えもしなかったなぁ。
だけど、今の俺なら……?
今、金も知名度も手に入れた俺なら、案外すんなりと結婚できたりするのだろうか。
俺に、そんな道があり得るのだろうか。
俺にも春がくるのだろうか。
「いや……まあ、ないよな……」
どうにも奥手な俺は、自分からは行動できないのであった。
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