第68話 魔女の家4
「それならぼく、なんとかできるよ」
「え…………!?」
なんと、魔女はひかるんの亜人症をなんとかできるという。
だったら、それに縋るしかない。
「頼む……! 教えてくれ! どうすればいいんだ……!」
俺は魔女の肩をつかみ、懇願する。
ようやくつかんだ希望。
目の前に、ひかるんを救う手がかりがある!
そう思うと、興奮せざるを得なかった。
「まあまあ、落ち着いて。魔素ってのは、わかるかな?」
「魔素……?」
きいたこともない言葉だった。
魔力なら、俺たちにも感じられるが……。
もしかして、それも異世界独自のものなのだろうか。
魔導と魔法の違いのような?
「魔素ってのは、魔力のもとなんだ。そして、魔導は魔力ではなく、この魔素に直接働きかける。まあ、魔素と魔力の違いはそんな感じなんだ。それで、君たちの世界にも、魔力はある。向こうに現れたダンジョンにも、魔力は含まれているんだ。だけど、肝心の魔素がない。魔素というのは、この世界の空気中に含まれているものだからね。ダンジョンに魔素がないのは、そのせいだ」
「なるほど……? 地球には魔素がない。そのせいで、ひかるんたち亜人症の寿命は短いと……」
「そういうこと。魔素を接種できないせいで、寿命が極端に縮んでしまっている」
「じゃあつまり、その魔素とやらを接種できれば……!」
「そう、ちゃんと長生きできるよ」
俺はひかるんと顔を合わせて喜び合った。
お互いに手をとって、はしゃいでしまう。
よかった。
異世界まできた甲斐があった。
ついに、ひかるんが助かる方法を見つけたんだ……!
「今から君に、僕が魔素を送る。そうすれば、君の寿命は長くなるはずだよ」
「ありがとうございます……!」
「じゃあ、いくよ……!」
すると魔女は、ひかるんの背中に手を置いた。
そして、なにやら魔素を手に込める。
そして、魔素をひかるんの体内に送り込む。
「んあああああああっ!!!!」
一瞬、ひかるんに衝撃が走り、その後なにごともなかったかのようになる。
「大丈夫か、ひかるん」
「だ、大丈夫です……」
どうやらこれで終わりらしい。
あっけなかったな。
これで、ひかるんはもう大丈夫だ。
「よかったな、ひかるん」
「ええ、ありがとうございますハヤテさん」
だが、こうなってくると、まだまだ解決しなければいけないことがある。
それは、ひかるん以外の、地球にいる亜人症の人たちのことだ。
彼らもまた、ひかるんと同じように、短い寿命に苦しんでいる。
「なあ、他の亜人症の子も、なんとかできないか……?」
俺は、魔女にそう問いかける。
「うん、そうだね……。もとはといえば、ぼくのせいだからね。それも、なんとか協力したいと思ってるよ」
「でも……どうやって……」
まさか、地球から亜人症の子を全員異世界に連れてくるわけにもいかない。
異世界にくるには、あの危険なダンジョンを乗り越える必要があるからな。
この魔女を地球に連れて――あ、ダメだ。
魔女を地球に連れていったら、余計にややこしくなりそうだ。
地球の文明をめちゃくちゃにされるかもしれない。
なんていったって、一瞬のうちにインターネットを理解したりスマホをコピーしたりするような化物だからな。
そうだ。
俺は思いついた。
「その、さっきやった方法を俺に教えてくれよ……! 魔素を注入するやつ……! そうすれば、地球で俺が治療できる」
俺がそういうと、魔女はしばらく考えたあと、くびを横に振った。
「それはできない……。魔素を体内に入れるのは、危険なことだ。加減をすこしでも間違えれば、両者とも死んでしまう。ぼく以外には、許可できないな」
「そんな……」
「僕に考えがある」
「それは、どんな?」
「君が、転移魔法を覚える」
「え……? 転移魔法……?」
魔女の作戦では、こうだ。
まず、俺が魔女のもとで修業をつむ。
そして、魔素を感じ取れるようになる。
魔素を覚えたら、魔導を習得。
上級魔導の一つである転移魔法を覚える。
そうすれば、俺が地球から亜人症の子を魔女のもとへ連れてくることができる。
「転移魔法って、異世界にも転移できるのか……?」
「うん、たぶん可能だとおもうよ」
「でもその転移魔法って、上級魔導ってことは、かなり難しいんだろ?」
「そうだね。この国でも、片手で数えるくらいしか使える人はいないだろうね」
「そんなの、俺に覚えられるのか……?」
「大丈夫、ぼくを誰だと思ってるの? 魔女のもとで修業すれば、大丈夫さ。三日くらいで覚えられるよ」
「ほんとかよ……」
ということで、俺はこれから魔女の家に滞在し、転移魔法を覚えることになった。
魔女の修行は正直、めちゃくちゃきつかった。
魔導を使うのは、魔法とは比べ物にならないくらいの難易度だ。
だけど、俺は絶対にあきらめない。
世界中の亜人症の子を救うために、俺はなんとしても転移魔法を覚えて、地球に帰るんだ……!




