第30話 うちではスライムは診れないですよ……
サリナさんとデートしたこともあってか、あれからひかるん関連の炎上は沈静化している。
これを見越して俺をデートに誘ってくれたのだとしたら、サリナさんはすごいな。
優しい人だ。
炎上騒ぎがひと段落して、
それから数日が経ったある日のことだ。
その日はおもちとだいふくの様子が少しおかしかった。
なんというか、いつものような元気がない。
「大丈夫か? おもち、だいふく」
「きゅい?」
「がう……」
こいつらにきいても、なにもわからないか……。
なんだか漠然と元気がない様子なんだよなぁ。
食べ物はちゃんと食べてくれるんだけど……。
どうしたものかなぁ。
「よし……」
そこで俺は、近所の動物病院に連れていくことにした。
まあ、スライムは動物病院でも診れないだろうが、
だいふくのほうは犬とさほど変わらないだろうし、
なにかわかるかもしれない。
「辻風さん」
「はい」
待合室で名前を呼ばれて、診察室へ。
するとそこには、若い女性の医者がいた。
医者は俺のほうを一瞥すると、怪訝な顔をした。
「あの……辻風さん、うちではスライムは診れないですよ……」
「で、ですよねぇ……」
俺の頭の上にのっているおもちを見て、そんなことを言う。
おもちはなにもわかっていないようすで、「きゅい?」と首をかしげている。
まあ、スライムの首がどこかはわからないけど。
「スライムは診れなくても、こっちはどうですか? 子狼だと思うんですけど……」
「うーん、一応、犬と同じ感じでみてみましょう」
だいふくを医者に見せる。
しばらく医者はだいふくを触ったりして診察し、検査までしてくれた。
だが、特に身体に異常はないとのことだった。
「うーん、とくに異常は見当たりませんねぇ。なにも体に悪いところはなさそうです。健康そのものですよ」
「そうですか……」
「ですが、一応犬とは違いますからねぇ……。モンスターにしかないなにかがあるのかもしれません……」
「ありがとうございました……」
「あ、一応写真とらせてもらってもいいですか……?」
獣医がそんなことをきいてくる。
なにかレントゲンのようなものだろうか。
「いいですよ。レントゲンですか……?」
「あ、いえ。おもちちゃんとだいふくちゃんの写真がほしくって……。サインももらえますか? 院内に飾らせてもらっても? えへへ……」
「あ、そういうことですか……もちろんいいですけど……」
まさかの獣医さんもおもちとだいふくのファンだった。
さすがの俺もかなりの知名度になってきたなぁ……。
◇
動物病院でなにもわからなかったので、
俺はモンスターを専門に研究している大学の研究室を訪ねることにした。
「すみません、お忙しいところ」
「いえいえ、こちらも研究になりますので、大歓迎ですよ。それに、今人気のおもちちゃんとだいふくちゃんに会えるなんてね」
そこの大学の教授はひとがらがよく、快く迎えてくれた。
メガネをかけて、白衣をきた、美人な女性だった。
しばらく教授に二匹を預けて、待つ。
しばらくして、教授がなにかわかったというような顔でやってきた。
「辻風さん、これはですね。明らかな魔力不足ですねぇ」
「魔力不足ですか……」
って、つまりどういうことだろう。
「ええ、モンスターには魔力がどうしても近くに必要なんですよ。そして、もっとも魔力が多い場所はダンジョンです」
「なるほど……その魔力って、俺が供給してやることはできないんですか?」
当然、俺たち人間も、魔法が使えるわけだから、体内に魔力がある。
魔力不足っていうんなら、俺でよかったらいくらでも魔力を出すんだけどな。
「まあ、一時的にはそれでも可能でしょうね。ですが、やはり定期的にダンジョンに潜ったほうがいいかと思います」
「そうですか」
「いいですか? たしかに人間にも魔力はあります。ですがそれは、水に例えると、ペットボトルのようなものです。必ず限界があります。ですが、ダンジョンはいわば海なのです」
「なるほど」
教授の話によると、普段は俺が魔力を出しておもちとだいふくに食わせるだけでなんとかなるということだった。
だが、モンスターのストレスや運動不足的にも、やはり定期的にダンジョンにはいったほうがいいみたいだ。
「では、具体的にはどうすればいいんでしょう」
「そうですね。ダンジョン探索に連れていってあげてください。ついでに、配信もすればいいんじゃないでしょうかね」
「でも……俺あまりダンジョン探索者としては……。自信がないですね……。俺はせいぜい上層で遊んでいたくらいですから……」
「まあ、そこまで本格的に下層まで行く必要はないとは思いますが……。心配だったら、他の人とパーティーを組むといいかもしれませんね」
「パーティーですか……」
「それに、きっと辻風さんは大丈夫ですよ。回復魔法が得意なんでしょう?」
「ええ、まあ……」
「きっと、おもちちゃんとだいふくちゃんと一緒なら、素敵なダンジョン探索ができますよ」
俺は教授の言葉を信じて、ダンジョン探索に乗り出すことにした。
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