表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春花秋月  作者: きさらぎ
3/26

惑う恋 ~春だからⅠ~

《会いたい。会って話がしたい。時間を空けてくれないか》


 彼からメールが来たのは、数日前。


 久しぶりに彼の名前が携帯の画面に写し出された。

 本当に久しぶりだった。

 いつもなら、忙しいからとメールを送り返すところだったけど、この日は何か違うものを感じて、スケジュール帳を見ながら、何とか空いている時間を見つけ出して、メールを返したのだった。



 一年も会っていない恋人。


 入社して三年。

 会社にも部署にも慣れて、後輩もできたし、時間にもゆとりができて、彼ともうまくいっていた頃だった。

 このまま、彼と結婚するんだろうなと思っていた。公私ともに充実した日々。



 そんな時に突然の配置換え。


 新しい部署を立ち上げたのに伴っての人事異動だった。

 責任者は課長で、現場を取り仕切るのは主任。わたしは副主任という立場だった。

 異例の抜擢だったらしい。



 初めての大役にわたしは無我夢中だった。


 今までは、後輩はいても、上司がいたから、指示に従っていればよかった。


 けど、今回は違う。

 副主任という立場上、何度も決断を迫られる。試される。

 最終的なものは責任者が決めることだけど、自分の意見を持つことや、取引先の会社の業務内容から専門的な知識まで、勉強することが必須だった。


 することは山ほどあって、睡眠時間も削って、とにかく、必死だったのだ。

 そんな毎日を送っていると、当然恋人と会う時間は中々取れない。

 それでも、最初のうちは、無理してでも時間を取っていたけれど。

 忙しくて、疲れて、でも、彼に会えば心も体も安らいだから。



 けれど、それも最初のうちだけだった。


 連日の会議と勉強と、相手方との打ち合わせ。

 何度も何度も繰り返される日課は気がつけば、日常化して当たり前になっていた。日常に忙殺されて、彼のことは二の次になる。

 約束をしても、急に会議が入ったりして、ドタキャンが続く。

 その度に彼とはけんか。電話口では彼の顔は見えないから、余計に口は悪くなる。


 彼は公務員だから、土、日、祝日は休み。

 でも、わたしはサービス業。土、日も祝日もない。希望休は取れるけど、わたしが彼に合わせてばかり。

 いつものこと、わかっていても、なかなかわたしの状況をわかってくれない彼にいらだって、当り散らしたことも何度もあった。そのあとは、反省して謝って、仲直りして。それの繰り返し。



 この頃が一番つらかったかもしれない。


 それと反比例するように、だんだんと仕事が面白くなって、楽しくなってきて。仕事にのめり込むようになると、わたしからは連絡を取らなくなった。彼からメールが来ても、電話が来ても、忙しいの一言で済ませてしまっていた。


 会っていろんな感情にかき乱されるのが嫌だったし、何より、休みの日に彼との時間を取るのが億劫になったのだ。

 休みの日はゆっくりと自分の時間、自分だけの時間を取りたかった。


 ここまで来ると末期症状だったのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ