彼と彼女 ~僕だけの秘密4~
「陽菜ぁ。まだぁー」
僕はベッドの中から陽菜を呼ぶ。
「うん。もうちょっと」
机に向かって宿題をしている陽菜は、背中越しに返事をする。
まだかかりそうかな?
宿題は大事だからね。おとなしく待つことにする。
僕は枕元に置いている陽菜の携帯の電源を入れる。
陽菜は携帯に別段興味はないらしく、いじっている所をあまり見ない。
普通だったら、他人に携帯を見せることなんてしないんだろうけど。
個人情報詰まっているしね。
メールなんて特に、相手次第では秘密にしときたいところなんだろうけど。誰だってそうだと思うんだけど。僕だって見せないし、見せたくない。
信用してくれているのか、僕に簡単に渡しちゃうところがね。いいのか、危機感がないと怒るべきなのか・・・・・・
陽菜の性格から判断して、前者だと思うことにする。
それに、いくら僕でもさすがに内容までは見ないよ。一応プライバシーは尊重してるからね。そのかわり、誰から来ているのかだけはチェック。
消音にしていたから、陽菜には聞こえなかったみたいだけど。
また来ている。あいつから。
白河悠斗。
この前消してやったのにな。
しつこいな。
今まで、男からのメールって限られていたから。
航太か、理玖か。
そのくらいだったと思うんだけどな。
こいつにしても、最近なんだよね。
高校に入学してから、もうすぐ一年。
航太に彼女が出来たと聞いたのはつい最近。それと関係があるのかな? 航太に彼女が出来て、チャンスだとでも思ったとか?
表の航太と裏の僕。
航太ばかりが陽菜と仲がいいわけではないからね。
僕がいるから。
もう一度、履歴を消して、アドレスを消して。
僕の好きな音楽が着信音。消音から通常の設定へと切りかえる。
画面を消して、携帯を枕元に置いた。
「やっと、終わったぁ!」
陽菜がほっとしたように伸びをした。
時計を見たら、午後十一時を過ぎている。
陽菜は着ていたカーディガンを脱いで布団の上にのせると、ベッドの中へと入り込む。
「あったかーい」
「でしょ? あっためてあげてたからね」
「ありがとう。ぬくぬくしてる」
嬉しそうな陽菜のひんやりとした体が僕にも伝わって、ちょっと身震いした。
今は二月でこの時期が一番寒い。暖房はつけているから、室内は暖かいけど。
「陽菜、ホント冷たいよ。温めないと風邪ひくよ」
寒くないように布団を陽菜にきちんとかけ直してあげて。
「うん。今夜は冷えるよね。宿題している間、足元から冷えて寒かったんだよ」
ほんの目の前で、息遣いも聞こえてくるほどに、体をくっつけてくる陽菜。
小さい頃からずっと一緒に寝てるから、今更、ドキドキもないけれど、陽菜の匂いはとても落ち着く。
ずっと一緒だったせいかな? 当然のように冷えてしまった陽菜の体を抱きしめる。
「歩夢って温かいね」
僕の体温を感じて、当然のように満足そうな表情で、陽菜は抱きしめられていた。
やっぱり、人肌が一番だよね。
お互いの心臓の鼓動を感じて。
相手から感じる心臓の音は睡眠薬。
程よい眠りが僕を誘う。
すでに夢の中にいる陽菜の温かくなった体温を感じていたら、僕もいつの間にか夢の中。
そうして、週末の夜は更けていく。




