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春花秋月  作者: きさらぎ
20/26

彼と彼女 ~僕だけの秘密4~

「陽菜ぁ。まだぁー」


 僕はベッドの中から陽菜を呼ぶ。


「うん。もうちょっと」


 机に向かって宿題をしている陽菜は、背中越しに返事をする。

 

 まだかかりそうかな?


 宿題は大事だからね。おとなしく待つことにする。



 僕は枕元に置いている陽菜の携帯の電源を入れる。


 陽菜は携帯に別段興味はないらしく、いじっている所をあまり見ない。

 普通だったら、他人に携帯を見せることなんてしないんだろうけど。

 個人情報詰まっているしね。

 メールなんて特に、相手次第では秘密にしときたいところなんだろうけど。誰だってそうだと思うんだけど。僕だって見せないし、見せたくない。


 信用してくれているのか、僕に簡単に渡しちゃうところがね。いいのか、危機感がないと怒るべきなのか・・・・・・

 陽菜の性格から判断して、前者だと思うことにする。


 それに、いくら僕でもさすがに内容までは見ないよ。一応プライバシーは尊重してるからね。そのかわり、誰から来ているのかだけはチェック。

 消音にしていたから、陽菜には聞こえなかったみたいだけど。



 また来ている。あいつから。


 白河悠斗。


 この前消してやったのにな。

 しつこいな。


 今まで、男からのメールって限られていたから。

 航太か、理玖か。

 そのくらいだったと思うんだけどな。

 こいつにしても、最近なんだよね。


 高校に入学してから、もうすぐ一年。


 航太に彼女が出来たと聞いたのはつい最近。それと関係があるのかな? 航太に彼女が出来て、チャンスだとでも思ったとか?


 

 表の航太と裏の僕。


 航太ばかりが陽菜と仲がいいわけではないからね。

 僕がいるから。


 もう一度、履歴を消して、アドレスを消して。



 僕の好きな音楽が着信音。消音から通常の設定へと切りかえる。


 画面を消して、携帯を枕元に置いた。


「やっと、終わったぁ!」


 陽菜がほっとしたように伸びをした。

 時計を見たら、午後十一時を過ぎている。


 陽菜は着ていたカーディガンを脱いで布団の上にのせると、ベッドの中へと入り込む。


「あったかーい」


「でしょ? あっためてあげてたからね」


「ありがとう。ぬくぬくしてる」


 嬉しそうな陽菜のひんやりとした体が僕にも伝わって、ちょっと身震いした。


 今は二月でこの時期が一番寒い。暖房はつけているから、室内は暖かいけど。


「陽菜、ホント冷たいよ。温めないと風邪ひくよ」


 寒くないように布団を陽菜にきちんとかけ直してあげて。


「うん。今夜は冷えるよね。宿題している間、足元から冷えて寒かったんだよ」


 ほんの目の前で、息遣いも聞こえてくるほどに、体をくっつけてくる陽菜。

 小さい頃からずっと一緒に寝てるから、今更、ドキドキもないけれど、陽菜の匂いはとても落ち着く。

 ずっと一緒だったせいかな? 当然のように冷えてしまった陽菜の体を抱きしめる。


「歩夢って温かいね」


 僕の体温を感じて、当然のように満足そうな表情で、陽菜は抱きしめられていた。



 やっぱり、人肌が一番だよね。



 お互いの心臓の鼓動を感じて。

 

 相手から感じる心臓の音は睡眠薬。

 程よい眠りが僕を誘う。


 すでに夢の中にいる陽菜の温かくなった体温を感じていたら、僕もいつの間にか夢の中。



 そうして、週末の夜は更けていく。


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