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春花秋月  作者: きさらぎ
19/26

彼と彼女 ~僕だけの秘密3~

 抱きしめるのがダメでも、手はいいよね。


 僕は解いた腕をおろすと、陽菜の手に触れる。

 手を握りしめて、


「ねっ、陽菜。今から帰るんでしょ? 遊びに行っていい?」


 うずうずと待ちきれない気持ちで尋ねた。


 どっちにしても遊びに行こうとは思っていたけど、こんなに早く会えるとは思わなったから、すっげー、嬉しい。


 しかも、街中でこんなに偶然に会えるなんて。

 見かけなかったら友達と遊びに行っていたからね。

 今日はついてるよね。


「いいけど、歩夢」


 よかった。このまま一緒に帰ろって言おうとしたら、待ったがかかった。

 なんで? と思っていたら、


「白河くん、ちょっと、待っててくれる?」


「・・・ああ、うん」


 男の声に初めて陽菜が一人ではなかったことに気づく。


 陽菜しか見えてなかったから。



 陽菜の隣にいる男。


 白河? 


 陽菜、今、そういったよね。

 こいつか。

 携帯の着信履歴の男。


 僕は陽菜の後ろに隠れるようにして並んだ。

 陽菜の手に指を絡めて、こいつに見られないように隠す。



 いつものことだから、陽菜も僕にされるがまま。


 さり気なくを装う、日頃の努力って大事だよね。


 弟だと思っているから、何の疑問も持ってないんだよね。

 でも、ホントの弟だったらこんなことしないよ。

 わかってるのかなぁ?

 簡単に騙される陽菜ってホント可愛い。


 僕は満足して、目の前の男を見た。


 どんなやつだろう。


「・・・」


 イケメンじゃん。

 王子様的な正統派の美形。

 すらっとしていて身長も理玖ぐらいありそう。見上げる目線が同じくらいだから。


 うあ。なんでこういうやつが陽菜の隣にいるんだろ?

 女に不自由しなさそうだから、陽菜でなくてもいいんじゃないかな?


 あれ? 

 そういえば航太いないよね。


 僕は視線を左右に動かして航太を探す。


 いないじゃん。


 航太のやつ、何してんだろ?

 いつも航太と一緒にいると思ってたから。

 他の男のことなんて想像もしてなかった。


 何か、あったのかな?


 それにこいつ、陽菜とはどんな関係なんだろう。

 彼氏とかだったら、許さないよ。



 とにかく、家に帰ってから、じっくり聞いてみよう。


「歩夢。遊びに来るのはいいけど、泊りはなしだよ」


 男の観察も終わった頃、陽菜が諌めるような顔をして僕を見た。


「どうして?」


「この前、歩夢。遅刻したでしょう?」


「ああ、そうだったね。でも10分くらいだよ」


 あの時のことか。ゲームに夢中になって夜更かしして、一緒に寝過ごしたんだよね。

 その時間差は許容範囲だと思うんだけどな。


「そのことでお母さんに怒られたんだよね」


「でも、あれは陽菜が悪いと思うんだけど? 陽菜が夢中になっちゃうから、僕、寝られなくなったんだよ?」


 ちょっと、口を尖らせて、拗ねるように言ってみる。


 男の顔が蒼白になった感じがするんだけど。

 睨まれているような気もするけど。

 僕、なんか気に障るようなこと言ったかな? 


「うー。それはそうだけど・・・」


 陽菜がバツの悪そうな顔になる。目をそらした。


「だよね」


「う・・・ん」


 その通りだから、陽菜もそれ以上は何も言えなくなった。


「わたしも悪かったんだけど、でもね、平日はダメだよ。今度同じことをしたら、お泊り禁止って言われたからね」


「ウソ。まじ?」


「まじだよ。お母さん、時間に厳しいこと知ってるでしょ? 小学生までは大目に見たけど、中学生ではそうはいかないわよって言ってたからね。こういう時は、母親でなくて、先生になるからね」


 親が出てくると弱いよね。おばさんの言う通りしなきゃ。

 まだ未成年だし、親の保護下にいるしね。

 ここは言うこと聞いとかなきゃね。


 でも、今夜は大丈夫じゃないかな。


「陽菜、今日は何曜日?」


 僕は聞いてみる。


「ん? 金曜日かな?」


「だよね。明日と明後日は休み。お泊り、いいよね?」


 僕は満面の笑みを陽菜に向けた。


 陽菜はやられたみたいな顔をして、微かに苦笑い。


 平日泊まれないのは残念だけど、週末は陽菜と二人きりになれる。


「いいよ。そのかわり、宿題すませてからね」


「もちろん。わかってるよ」


 陽菜が教えてくれるなら、宿題持ち込むけど、難しくてわからないって教えてくれないから。時間の無駄なんだよね。


「じゃ、先に帰ってるから。陽菜も寄り道せずに、まっすぐ帰ってきてね」


 僕は陽菜に手を振って、家へと急いだ。



 帰りながら、陽菜の寝顔を思い出して。



 今夜もね。


 陽菜の唇は僕のもの。

 僕だけの秘密。


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