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春花秋月  作者: きさらぎ
16/26

彼と彼女 ~好きになったのは俺4~

 彼女の名前を呼んだ男は、にこやかな笑顔で陽菜に近づいて、ハイタッチをした。


 はあぁ?


 目の前の光景に俺はしばし固まった。


「ホント、久しぶりだね。元気してた?」


「おう。元気、元気。」


 陽菜に話しかけると、男はきょろきょろとあたりを見回した。

 その前に俺の方をちらっと見たものの、すぐに視線はそらされた。


 シカトかよ。


「今日航太は? 一緒じゃねえの?」


 航太を探していたのか。

 こいつも陽菜と航太のことを知っているらしい。

 親しいのか? 

 そうだよな。名前を呼び合うくらいだから仲がいいんだろう。

 けど、航太だけじゃなかったのか?


「うん」


 陽菜は寂しそうな顔をしたものの、すぐに気を取り直したみたいに、明るく言った。


「実はね、航太に彼女ができたの、だからね」


「へえ! なるほど。航太に、彼女ねえ。へえ! できたんだ」


 意味ありげに何度も繰り返す言葉。

 それと同時に、獲物を狙うオオカミみたいに男の瞳が光った。

 ように見えたのは、きっと気のせいじゃない。


 こいつも陽菜狙ってんのか? 


「理玖こそどうなの? 彼女とうまくいってるの?」


 陽菜は航太のことから話を逸らした。これ以上触れられたくないみたいに。


 ていうか、こいつ彼女いたのか?


 じゃ、さっきのは俺の思い違いか。

 よかった。

 ライバルは少ない方がいいからな。



「別れた」


「えっ! また? もしかして・・・また振っちゃったの?」


 陽菜がびっくりしたように問い返す。


「またって、人聞きの悪いこと言わないでくれます? 陽菜チャン」


「だって、理玖って彼女と長続きしないんだもん。これで何人目なの?」


 陽菜が冷たい視線と共に非難めいた言葉を口にして男を見た。


「さあ? 数えたことないからわからない」


 そんなにとっかえひっかえしてるのかよ。


「ダメだよ。ちゃんと誠実につきあわなきゃ。彼女がかわいそう」


「あのさ、俺ってそんなに悪い男に見えます?」


 見える。後ろに悪魔のしっぽが生えているように見えるぜ。


「だって、いっつも、飽きたとか、使えねえとか、俺の好みじゃなかったとか言っているじゃない?」


 ますます非難めいた口調で陽菜が続けた。


「ひっでえ。誰だよ。それ」


 お前だろ。お前。そんなにひどい奴だったのか。陽菜のそばには置いとけないよな。こんな奴。


「もう、理玖のことでしょ。少しは反省しなさい。こんなんじゃ、そのうち、誰も付き合ってくれなくなっちゃうよ」


「なんで、いつも俺が悪者かなあ? 今回はそうじゃなくて・・・」


 男が言葉を続けようとしたときに、エレベーターがきた。


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