彼と彼女 ~好きになったのは俺4~
彼女の名前を呼んだ男は、にこやかな笑顔で陽菜に近づいて、ハイタッチをした。
はあぁ?
目の前の光景に俺はしばし固まった。
「ホント、久しぶりだね。元気してた?」
「おう。元気、元気。」
陽菜に話しかけると、男はきょろきょろとあたりを見回した。
その前に俺の方をちらっと見たものの、すぐに視線はそらされた。
シカトかよ。
「今日航太は? 一緒じゃねえの?」
航太を探していたのか。
こいつも陽菜と航太のことを知っているらしい。
親しいのか?
そうだよな。名前を呼び合うくらいだから仲がいいんだろう。
けど、航太だけじゃなかったのか?
「うん」
陽菜は寂しそうな顔をしたものの、すぐに気を取り直したみたいに、明るく言った。
「実はね、航太に彼女ができたの、だからね」
「へえ! なるほど。航太に、彼女ねえ。へえ! できたんだ」
意味ありげに何度も繰り返す言葉。
それと同時に、獲物を狙うオオカミみたいに男の瞳が光った。
ように見えたのは、きっと気のせいじゃない。
こいつも陽菜狙ってんのか?
「理玖こそどうなの? 彼女とうまくいってるの?」
陽菜は航太のことから話を逸らした。これ以上触れられたくないみたいに。
ていうか、こいつ彼女いたのか?
じゃ、さっきのは俺の思い違いか。
よかった。
ライバルは少ない方がいいからな。
「別れた」
「えっ! また? もしかして・・・また振っちゃったの?」
陽菜がびっくりしたように問い返す。
「またって、人聞きの悪いこと言わないでくれます? 陽菜チャン」
「だって、理玖って彼女と長続きしないんだもん。これで何人目なの?」
陽菜が冷たい視線と共に非難めいた言葉を口にして男を見た。
「さあ? 数えたことないからわからない」
そんなにとっかえひっかえしてるのかよ。
「ダメだよ。ちゃんと誠実につきあわなきゃ。彼女がかわいそう」
「あのさ、俺ってそんなに悪い男に見えます?」
見える。後ろに悪魔のしっぽが生えているように見えるぜ。
「だって、いっつも、飽きたとか、使えねえとか、俺の好みじゃなかったとか言っているじゃない?」
ますます非難めいた口調で陽菜が続けた。
「ひっでえ。誰だよ。それ」
お前だろ。お前。そんなにひどい奴だったのか。陽菜のそばには置いとけないよな。こんな奴。
「もう、理玖のことでしょ。少しは反省しなさい。こんなんじゃ、そのうち、誰も付き合ってくれなくなっちゃうよ」
「なんで、いつも俺が悪者かなあ? 今回はそうじゃなくて・・・」
男が言葉を続けようとしたときに、エレベーターがきた。




