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春花秋月  作者: きさらぎ
13/26

薔薇の恋Ⅲ

 ベッドから身を起こすと、わたしは窓辺へと近づいた。

 

 カーテンを開けると、夜空には大きな満月。


 あの日と同じ。

 同じ月の光がわたしに降り注ぐ。 



 そう。月の光が起こした奇跡。


 わたしは人間になったの。


 人間として出会って、恋をして、愛して、愛されて。



 そして、知ったのは愛情の交感。

 女性って体の奥深くで、男性を愛するものだったのね。

 もたらされる悦びは、わたしをどこまでも高みへと押し上げて。

 あなたに体の隅々まで愛されるたびに、わたしの心は満たされるの。



 わたしがあなたを抱きしめるたびに、人間になれてよかったと思うのよ。

 わたしの声で、眼差しで、指先で、全身で、わたしは、あなたに愛を伝えることができる。

 あなたは一人ではないと、伝えることができる。


「ヴィオリーナ。眠れないのか」


 ベッドから声がする。愛しいあなたの声。


「いいえ。目が覚めてしまったの」


「おいで、一緒に眠ろう」


 そっと差し出された手に、促されるようにあなたの元へと歩いていく。

 手を取ると、ベッドの中へと滑り込む。


「少し冷えてしまったね」


 言いながらわたしの体を抱きしめる。


「ごめんなさい」


 わたしはあなたの体に縋りつくように、身を摺り寄せる。


 わたしの耳元にはあなたの胸。心臓の鼓動が聞こえる。

 生きている証。この音を聞くと安心する。


 そして、わたしも。


 わたしは自分の胸にあなたの手をのせる。


「わかる? わたしの心臓の音よ」


 わたしが人間になった証。


「ああ、わかる。でも、少し鼓動が早いみたいだ」


「そう? あなたのそばにいるせいかしら」


 あなたは目を細めて愛しそうにわたしを見つめて、それから、ひたいにキスを落として。


「愛しているよ。ヴィオリーナ」


「エディ。わたしも、愛しているわ」


 扇情的な瞳で見つめ合って、交わしたキスはだんだんと深くなる。

 あなたに身を任せながら、わたしたちは情欲の海に溺れるの。





 わたしは、あなたより先には逝かないわ。


 二度もつらい思いはさせない。

 それがあなたを護ることだと思うの。


 わたしを愛してくれたあなたへの愛の証。

 あなたの笑顔を護るために。


 わたしは誓うわ。何度でも。


 それが人間になったわたしの願い。



 あなたはわたしが愛した、ただ一人の人だから。


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